第4話

 すごいと思った。私は運動神経良くないし、学校で表彰される彼を見て、パチパチと拍手を送る。

 彼は少し残念そうな顔をして六位と書かれた賞状を持って私達にその高みを見せつけた。

 だけどそれは彼にとって不服そうだった。


 「僕って平凡なんですよ」


 部活の休憩時間に美術室の窓の前に座り込んで、俊はそう零した。


 「部活も中学やってたからって理由でやりました。勉強も、中の下。きっと、僕の人生はこの後ずっと平凡なんだと思います」

 「そうやってると、なんでもかんでも決めつけちゃってつまんないよ」


 私は絵から目を離さなかった。彼が泣いていると小さく聞こえる嗚咽で分かったから。

 それが俊にとっても良かったんだと思う。







 「先輩ってなんだかんだ優しいですよね」

 「いつもは優しくないって?」

 「いつもはなんだか、先輩が遠くにいる気がする」

 「俊が私のこと何も知らないからだよ。いじめられていたのを知っていたのも私の性格からそう推測しただけじゃない」


 本当は違う。先輩とは同じ中学だった。その時からずっと好きだった。なんて言ったら気持ち悪いだろうか。

 いじめを止めたのは俺だって本当は言いたい。そしたら、先輩は恩義を返そうとして付き合ってくれるだろうか。

 なんて考えている僕はアイツらと変わらないクソ野郎なんだと思う。先輩の善を利用しようとしているんだから。


 「僕って汚いですよね」


 先輩は窓から顔を出して、僕の服装を見て「大分綺麗だと思うけど」と呟く。


 「そうですか」


 違うんだ。違うんだ先輩。僕が汚いのは……。

 ――心だ。

 

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