第2話

 僕は先輩を中学の時から知っている。だけど、先輩はきっと絵しか見てこなかった人だから僕のことなんて知らないと思う。美術室の前。そこが、陸上部のランニングコースだった。そこから見える先輩はとても生き生きしていて綺麗だと思った。

 先輩が虐められていたことは、先輩の同学年の陸上部の先輩に聞いたことだった。そこまで酷くはないらしい。そう聞いていた。

 はあはあと白い息を吐きながら冬の美術室で放課後、彼女だけを見る。名前も知らない彼女はとても綺麗だった。だけど、描きたい絵が上手く描けないようで、震えている手をもう片方の手で押さえつけていた。


 「だ……」


 大丈夫?その言葉を僕がかけていいのか。只の傍観者でしかない僕が彼女に声をかけていいのかだろうか。

 手を肘が少し曲がっているぐらい伸ばした。そして、強く手を握る。こんな近くにいるのに……僕は彼女に惹かれているのに、僕は彼女にちっとも気づかれていない。







 春になり、彼女が毎日誰もいない美術室で泣いていることが多くなった。美術室は彼女が唯一本心をさらけ出すことが出来る部屋だったのだと思う。僕は、それを盗み見している気がしてその場を見てもすぐに去るようになった。


 「お前、清水のこと好きなの?」


 先輩が虐められていることを教えてくれた先輩が僕にそう聞いた。


 「あ……」


 ここで否定したら自分を許せない気がした。


 「はい」

 「そっか。なんか最近さ、いじめがエスカレートしている気がして……清水だけがプリント配られてなかったりさ。でも、俺ら男子は女子の話には突っ込めなくて……」


 その瞬間、怒りが増してきた。いじめみたいなねちっこいやり方は嫌いだ。嫌いなら関わらなければいいのに。彼女がなにか彼女らにしたのだろうか。あの人がそんなことするはずがない。


 「あの……清水先輩はなにかしたんですか?」

 「理由はないんだと思う。でも、なにかあったらすまん。俺、あんまり女子のことに興味ないからさ」


 先輩は俺の前で手を合わせてそう謝った。


 

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