第11話
階段を降りたところには玄関があるため、私はリビングのモニターを確認せずそのまま玄関のドアを開けた。
「こんにちはー。体調はどう?」
私の体調を気遣う男子生徒が門の外に立っていた。しかし、私は彼の名前を知らなかった。
「あの、ごめんなさい、どちら様ですか?」
扉から少し顔を出し問うと彼はこけるような素振りをした。その仕草がおもしろくて、思わず頬と心がゆるんだ。
「いやこの前教室で田中を呼んであげた同じく田中です。よろしくどうぞ」
「あぁ」
そこでようやく教室で彼に声をかけたことを思い出した。不信感はなくなり私はドアを完全に開けて外に出た。
「あなたも田中なのね。それで、今日はどうしたの? というかあなた学校は?」
まだ昼前で普通に授業は始まっているはずだ。なのになぜ彼は私の家に来たのだろうか?
「君に聞きたいことがあってさ。今日は体育もないしサボってきたんだよね。それに学校だと君の番犬が近付くことも許してくれなそうだからね。あの子名前なんだっけ? この前なんて初対面なのに俺を思いっきり蹴ってきたんだよ! 酷くない!?」
彼が誰のことを言っているのか私にはすぐにわかった。
「あなた何したの? 彼女は
私は思わず笑ってしまった。彼と話しているとなんだか気持ちが明るくなってきて、警戒心がいつのまにかなくなっていた。そしてもう少し話してみたいなと思った。
「悪いね。お邪魔しまーす」
「階段上って左が私の部屋だからそこで適当に座って待ってて」
伏せた写真立ての並ぶリビングは見せたくなかったので私は自分の部屋で待つように伝えた。
「え? あ、うん。君ってやっぱ変わってるね」
彼は不思議そうにそう言って階段を上り始めた。私は特に気にすることもなく、コーヒーとお菓子を用意するためキッチンへ向かった。
部屋に入ると彼はフローリングに胡座をかいていた。わずかに落ち着かない様子だ。
「コーヒーで良かったかしら?」
私は持ってきたお盆を勉強机に置くと彼の前に折り畳みの小さなテーブルを用意した。
「あ、朝はいつもコーヒーなんだ。任せて」
何を任せれば良いのだろうか?
もう一人の田中くんと同じようなことを言うので私は思わず笑ってしまった。
「あなたもブラックだったりするの?」
テーブルにお盆を移動しながら聞いてみた。
男子は見栄をはりたがることを私は先日学んだことを思い出し、少し意地悪をした。
「ま、まぁね」
彼は砂糖に伸ばしかけた手を軌道修正してカップに手をかけた。彼は一口飲むとすぐに目を細めた。
「……不味い」
「せめて苦いって言いなさいよ! はい砂糖」
失礼な男に私は砂糖の入った容器を差し出した。
「それで、私になんの話?」
砂糖を入れる手を止めて彼は真剣な顔をした。そして立ち上がると私の勉強机の前に歩いていき、何かを手にした。
「その事なんだけどさ。なんで、君がこれを持ってるの?」
日付の書かれたシュークリームの袋を手に取り彼は問いかける。まるでそれが誰のものであるのかを知っているような口ぶりに私は目を見開いた。
「え?」
間の抜けた声が、静かな部屋に溶けていった。
[つづく]
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます