第3話

「今日から転入してきた綾野湊音あやのみなとだ。みんな、仲良くしろよ〜」


「綾野湊音です。よろしくお願いします」


 担任からの雑な紹介をされ、俺は適当な席に促されそこに座った。

 周りからは興味の眼差しを向けられ、少し居心地が悪い。

 ちなみに、綾野湊音というのは適当に考えた偽名だ。


 程なくして、担任からの連絡などがすぐに済んで朝のホームルームは終わりを迎えた。

 クラスメイトたちは、すぐに俺の席を中心に輪になって、順番とか関係なくごっちゃになりながら俺に質問を投げかけてきた。


「ねえ、どっから来たの? 結構遠い?」


「うん、かなり遠いよ。言ってもわからないかも」


「なあ! 部活とか入るか? サッカー部入らね?」


「ごめん。部活には入る予定はないんだ」


 凪紗に予め説明された設定に沿って、クラスメイトからの質疑には爽やかに返しておく。その設定も少し雑な気がするが。


 今回の作戦内容は、依頼対象である千石楓せんごくかえでが通う学校に潜入して、校内で殺害するというものだ。

 やはり大手企業の実家というのもあって、千石家の屋敷の警備は厳重らしく、夜中の侵入は厳しいとのこと。

 校内ならボディーガードもつけてないらしいので、楽々殺せるという話らしいのだ。


 だからわざわざ個人情報も偽装して学校に転校生として入り込んだのだが⋯⋯。


(別に清掃員っていう身分で侵入すりゃいいだろ⋯⋯)


 俺より凪紗の方が断然賢いので、そこら辺は事情があるのかもしれない。が、今回は少し憂鬱だ。

 演技もあまり得意ではないし、学校なんて通ったことがない俺には学校での振る舞いができる自信がない。


「普段は何してるのー?」


「殺し⋯⋯じゃなくて、ゲームとかかな。あの赤いおじさんが姫を助けるやつとか」


 気づけば質問の数は10を超えており、クラスメイト全員は俺の席に集まっていた。

 1人を除いて。


(千石楓⋯⋯)


 窓側の席で1人外を眺める少女。

 窓から吹き込む風に彼女の銀髪は靡いて、とても絵になるような光景だった。


 俺に興味を持つ者、みんなが来ているから来ている者、なんとなく来ている者。

 全員が全員違った理由でここに集まる中、彼女だけはこちらに興味を示さなかった。

 孤高と言うべきか孤独と言うべきか⋯⋯。

 その背中からは寂しさを感じた。

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