第7話 めちゃくちゃにしたかったもの
夏がもうすぐ終わる。彼と過ごす夏も、もう3度目だ。
「なあ、キサラ」
夕日の落ちる海を眺めながら、アッシュは私に訊ねた。
あの日短く切られた髪はすっかり伸び、私の背中には再び長い三つ編みが垂れている。アッシュもそのまま銀髪を伸ばし、二人分のおさげ髪が強い海風に流れた。
「最近は俺の望みばかり聞いているが、あんたはめちゃくちゃにしたいもんは他にねえのか?」
「してるわよ、現在進行形で」
「何を」
「あなたの情緒」
「…………は?」
「暗殺者のあなたがいつしか私を好きになってくれてたら、それ以上ない『めちゃくちゃ』じゃない?」
私が顔を覗き込んで言うと、彼は目を瞠って呆れた声をあげる。
「……そのためにあんたは俺と過ごしてんのかよ!」
「悪い? いやならこのアイスもあげない」
「……よこせよ」
「ふふ。はい、どうぞ」
二人で海を見ながら量り売りのアイスをこれでもかと食べる。
もうすぐ店仕舞いのアイス屋は、一つ分の料金で食べきれないほどカップに盛り付けてくれた。
最初は楽しく食べていたのに、夕日が沈み始めて、体が冷え始めると、なかなか全部食べきれない。
馬鹿馬鹿しい状況に、私は思わず笑った。
「もう! お腹痛くなりそう」
「だから盛り付けすぎだっつーの、これ!」
「宿に帰って食べましょう、寝るまでまだ時間はあるわ」
私が手を繋ぐと、アッシュは頬を染めて怒ったような顔をして顔を背けた。
ああ、全てがめちゃくちゃになっている。
私は満たされていた、これ以上ないほど。
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