どうして?私はカクヨムを愛していただけなのに。
登崎萩子
目覚めた時には手遅れだった
スマホの、通知音がする。すぐにチェックすると自主企画に参加してくれた人の名前が輝く。
もっと参加してほしい。
ついでに時間を確かめると4:44だった。ああ、時間が足りない。仕事をしながら、小説を書くのは時間との戦いだ。とりあえず、メイクしてから続きを書こう。洗面所に行き、電気を点ける。
鏡の中に化け物が現れる。
「ゔわわわ」
六個の目玉がぎょろぎょろ動く。腕も四本ついている。紫色のどろどろを口から垂れ流しながら、うめき声を上げる化け物。噂では聞いたことがあった。
「やだよ、わだし、まだ、にんげんでいたい」
自分でも上手く話せなくなっているのが分かった。
都市伝説だと思っていた。ブクマ、コメントを気にするあまり人間を辞める事になるなんて。
ピンポ~ン
日常生活は終わったはずだった。早朝に、家に来る人なんていない。
ピンポ~ン
どうしよう。こんな姿見られたくない。膨れ上がった足を引きずり、洗面所から廊下に出る。できる限りの早さで足を動かしても、かたつむりのように鈍かった。というよりそのものだ。歩いた跡に紫のネバネバがへばりつく。ベットが見えても布団に潜り込む気にはなれない。
がちゃん
あっさりと鍵を開けられてしまう。大家さんといえど、こんな時間には来ないはずだ。一体誰が。
「おはようございます」
淀んだワンルームの空気の中を、清らかな男性の声が響いた。
イケボ〜死ぬ〜
しかも、いや当然の如く私好みの声だった。ちょい低めで、セクシーな格好いい系。さあ、私を斬れ。斬ってくれ。この醜い生物を倒して下さいませ。
「◯川◯子さん、私サイトの監視員を務めている者です」
廊下を歩いてきた方の姿を一目見て蒸発するかと思った。というか実際紫の霧が立ち上る。ドアの上に頭をぶつけないように、少しだけお辞儀するように入ってくる背の高い男性。
黒く輝く長髪に、彫りの深い顔。それぞれ、一流芸術家が作り上げたかのように美しい。力強くも整った眉、ぱっちり二重に水色に輝く瞳、完璧な鼻梁。妖しく艶めく唇。そして特筆すべきは見るからに木理の整った褐色の肌。
「めが。めが〜」
黒い服はよくあるラノベの軍服っぽいやつだった。それが全くコスプレ感なく着こなされている。
「ゆめなんだな」
そうとしか考えられなかった。
「残念ですが現実です。◯川さん、昨日一日で、何度あのベルをタップしましたか?」
このお方は、私がスマホから通知をチェックしているのに気づいている。
「2946回です」
淡々と告げる言葉は真実だった。目玉がせわしなく動き、紫色のスライムを床に撒き散らした。
「だっで、だっで、しんばいだっだんだもの」
牛蛙の鳴き声そっくりだった。悲しくて、床に崩れ落ちた。
「まだ間に合います」
天使〜マジで。凛々しく頼もしい発言をしたイケメンを見上げる。フゥ~、イケメンはしたから眺めても格好いい。
「アカウントを削除してください」
「ばあああ」
ざっけんなよ。今まで、どんだけ時間をかけて連載したと思ってんだ。残酷な天使は、肩をすくめた。
「まあ、ログインしなければいいんですが。だいたい皆さん失敗するので、削除をおすすめしています」
「オデは、シッパイシナイ」
何故かオデとか言っちゃうし。イケメンは恐ろしいくらい美しい営業スマイルをぶちかまかす。
「約1ヶ月で元に戻れます」
マ?意外と早い?
「◯川さん、ご自分が何故そのような姿になってしまったかご存知ですか」
分からない。なんでこんなことになったの。
「サイジョは、ダノジグカイデだのに」
「御名答です」
夜明けとともにカラスが鳴き始めた。
「それを忘れないで下さい」
全然納得出来ない。ショセキカ目指してる人はなんで化け物にならないでいられるの?イケメンがドロドロの上に膝をつく。
「ヤベデ、ヨゴレヂャウ」
水色の瞳が真っ直ぐに見つめてくる。
「不甲斐ないことに、呪われる原因はまだ解明されていません」
ああ。長い指が目から流れた紫の分泌物を拭う。
「◯川さん、協力して頂けますか」
します。します。何でもします。4本の腕をぐねぐね動かして、うなずく。
「では、二人で書籍化目指して頑張りましょう」
カーテンの隙間から、朝日がイケメンを神々しく照らしていた。
どうして?私はカクヨムを愛していただけなのに。 登崎萩子 @hagino2791
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