第799話 恋バナ

「当代。ジダは態度と口調が悪ぶっているので誤解されやすいのですが、根は真面目で優しい子です。どうか嫌わないであげてください」


 初代様が土魔法で作ってくれた椅子に腰掛けながら、頭を下げる聖者様。

 そんな先達の言葉に、僕はゆっくりと頷きを返す。

 

「ええ、それはもちろん。ひいお祖父様を嫌うなんてとんでもない話です」


 目が合っただけで嬉々として殴りかかってくるとんでもないバトルジャンキーですが、嫌ってなんかいませんよ?

 ええ、嘘偽りなく神に誓って本当の話です。


【この念の入れようはダウト】


 嫌っていないのは本当だよ?

 ただ、戦闘狂過ぎる点だけどうにかしてほしいなあって。


「そうですか。それを聞いて安心しました。それで、聞きたいのは息子とお嫁さんのことでしたね?」


 僕の心中を知らない聖者様がにっこりと笑う。

 早速本題に入ってくれるらしい。


「はい。お祖父様からは、ひいお祖父様がひいお祖母様を奪うべく教会権力を打倒したような話を聞いているのですが」


「それについては真実ではない、という答えになるでしょうか。いえ、息子が妻……グリエというのですが、そのグリエを一目見た瞬間から愛しく思っていたのは間違いないはずですが、知ってのとおり息子は照れ屋さんですから」


 わかる。

 グランパもパパンもフルオープンで奥さんへの愛を語るタイプなのに、ひいお祖父ちゃんだけは完全にクローズだからね。


「長くなるので経緯は端折りますが、教会内部の権力争いの末、次期教会の指導者に選ばれていたはずのグリエが牢に入れられた事があったのです」


 それからの話は、一言で表せばスーパーヒーローのそれだった。

 なんでも、ひいお祖母ちゃんが牢に入れられる前に送った手紙から何かを察した毒蜘蛛様が家来衆を引き連れて国都へ急行。

 単身教会本部に乗り込むと、行く手を遮る敵をゴキゴキッ、メキメキッと薙ぎ倒しながら、囚われの聖女様を見事救い出したらしい。


「いやあ、あの時は驚きました。だって、助け出したグリエを国都の屋敷で保護するものだとばかり思っていたのに、オーレナングに連れて帰ってきたのですから」


 高校生が突然彼女を連れて帰ってきて驚いた、みたいなテンションだけど、実際はそんなライトな話ではない。


「教会から見てみれば、人攫いもいいところですね」


「まさに。次の指導者をヘッセリンクに攫われたとまあ、騒ぐこと騒ぐこと。一度なんか、オーレナングまでわざわざ抗議に来ました。いやあ、あの時ばかりは、さてどうしようかと頭を悩ませたものです」


 当時を思い出したのか、懐かしそうに微笑んで見せる聖者様。

 ちなみに何を悩んだのか尋ねると、こんな答えが返ってきた。


「もちろんどうやって潰すかに決まってるじゃないですか。まあ、黙らなければ南から一つずつ貴様らの拠点を潰してやるから覚悟しておけと教会と王城に通達したら大人しくなったのですがね」


「念のために伺いますが、潰そうとしたのは、教会の拠点だけですよね?」


 王城側は潰す対象に含まれてませんでしたよね!?

 聖者様は、言外にそう含ませる僕を見ながら首を傾げると、次の瞬間大きな笑い声を上げた。


「はっはっは! もちろんじゃないですか。王城を潰すなんてまさかそんな。いやあ、当代は冗談の素質がありますね。王城を巻き込んだのはあくまでも念のためにですよ」


【おめでとうございます! ジョークセンスを褒められましたね!】


 冗談を言ったつもりはないのでノーカウントです。

 

「それで、グリエをどうするかという話になりましてね。オーレナングにいてもらっても構わないし、国都に帰りたいなら教会がちょっかいを出さないよう我が家が後ろ盾になってもいい。それを伝えたら、グリエはこう言いました。『時間をください。ジダ様を口説き落とし、必ずやヘッセリンクに嫁入りしてみせます』とね。頼もしいその姿に、家来衆から拍手が起きたほどです」


 まさかの嫁入り宣言!!

 聖女様から毒蜘蛛様へのロックオン!!

 果たして毒蜘蛛様の反応は!?


【落ち着いてください】


 失礼、取り乱しました。


「意外です。ひいお祖母様のほうが積極的だったのですね」


 心中のお祭り騒ぎを悟られないよう、努めて冷静にそう言うと、聖者様が当時を懐かしむように目を細める。


「嫁入り宣言がなされた日から始まったグリエの猛攻に、息子が陥落するまでそう時間はかかりませんでした。なぜといって、元々そう深い仲でもないのに国都まで彼女を救出にいくくらいです。やはりあの子も、グリエのことは好ましく思っていたのでしょう」


 意外と一目惚れだったのかな?

 そう思い、初代様、グランパ、パパンとの格闘の末に縛り上げられ、猿轡を咬まされた状態で地面に転がされたひいお祖父ちゃんに視線を向けると、殺意100%の目で睨まれた。

 よし、当面地下に来るのはやめよう。


「なるほど。参考になりました」


 参考になりましたって言っておきながらなんだけど、何しに来たんだっけ?

 

【教会との関係にかかる詳細の確認ですね】


 そうだった。

 まあ、素敵な話が聞けたから結果オーライか。

 僕が心からの感謝を込めて頭を下げると、聖者様は気にしなくていいというように手をひらひらと振りながら言った。


「いえいえ、どういたしまして。死してなお、当代の役に立てたなら幸いです。ああ、そうだ。最後に一つ。ジダからグリエへの結婚の申し込みの言葉ですが、『お前の背負ってるもの、お前ごと俺が背負ってやる』だったそうです。不器用で可愛いでしょう?」


 

……

………

《読者様へのお知らせ》

本作の書籍版第三巻の発売に伴い、本作フォロワー様限定のSSが配信されます。

配信時期は発売日の11/25(月)以降とのこと。

フォロワー様におかれましては、お楽しみいただけると幸いです。


以下、SS受け取りにかかる注意点になります。

・受け取り方法は下記の設定を必ずご確認ください。

https://kakuyomu.jp/info/entry/2023/02/20/121826

・上記設定に問題なく、メールを受け取れなかった場合は、メール受信側の設定に問題が考えられるため、カクヨム運営に問い合わせをされても回答をすることはできません。



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