第796話 参加伺
僕の招集に対して即応し、部屋に集まった愛妻と文官四人衆。
教会本部からトップ交代のお披露目会および、その後に行われる懇親会に誘われていることを説明すると、既に手紙の内容を知っていたオライー以外の文官三人が、やれやれまたトラブルかとばかりにため息をつく。
エイミーちゃん?
ずっとニコニコしてて可愛いです。
「今度は教会本部ですか。北から戻られたばかりだというのに、お忙しいですな」
呆れたよう表情を見せるハメスロットに手紙を渡すと、ざっと目を通しただけでエリクスに手渡した。
そこからデミケル、エイミーちゃんへと渡って僕の手元に返ってくる。
「悪いが、忙しいという意味ではお前達も他人事じゃないぞ? 噂では、我が家と先方は犬猿の仲らしいからな。お前達文官も段取りで忙殺される可能性がある」
疎遠になった理由が理由だし、なんたって我が家はヘッセリンクだ。
参加するにしてもしないにしても、スムーズにいかない可能性が高い。
「もちろん承知しておりますとも。なんせ、世間の噂では、教会本部と我がヘッセリンク伯爵家は犬猿の仲……とも言えない、お互い存在しないものとしているらしいですからな」
お互い透明人間だから見えないよ、って?
それはだいぶ徹底してるね。
「あくまでも噂だがな。しかし、先方の中では存在しないことになっているらしい我が家に、なんと宴への誘いが届いたわけだが」
戻ってきた手紙を振ってみせると、ハメスロットがピクリとも表情を変えずに言う。
「その文につきましては、のちほど我々とジャンジャックさん、オドルスキさん、ガブリエさん、メアリさんで暗号的なものが仕込まれていないか検証させていただきます」
国軍、ブルヘージュ、ジャルティク、そして闇蛇という出自の人間全員にチェックさせて変なものが仕込まれていないか確認してくれるらしい。
多国籍な我が家だからこその二重三重のチェック体制だけど、僕個人としてはそこまでする必要を感じていない。
「これは勘でしかないのだが、たぶん純粋に飲みに来いということで間違いないと思うぞ?」
毒蜘蛛さんにえらい目に遭わされたなんて噂が流れてから百年近く経っているはずだ。
もしその噂が本当だとしても、昨今の僕の落ち着きようを見た教会側が、ヘッセリンクとの雪解けを期待していてもなんらおかしな話じゃない。
【落ち着き……いえ、なんでもありません】
へい、兄弟。
言いたいことがあったら遠慮することはないぜ?
「伯爵様の勘なら間違いないのでしょうが、噂が噂でございます。念には念を入れてもバチは当たりますまい」
……そろそろこの噂云々のくだりも面倒になってきたな。
毒蜘蛛さんとそのお父さんが教会本部を襲って無茶苦茶やったのは事実だと認めよう。
「何か見つかれば、それはそれで面白いことになるだろうな」
僕のそんな冗談に文官諸君が四方に目を逸らすなか、エイミーちゃんは楽しげに微笑みを浮かべながら僕の腕にそっと触れてくる。
「ふふっ。なにかあってもなくても、とても楽しい催しになりそうですね、レックス様」
「先方との確執を考えれば警戒せざるを得ないというのに、それでも楽しいと言うのかい? まったく、僕の可愛いエイミーはお転婆だな」
こーいつぅ、とばかりに額を指で軽く弾くと、くすぐったそうに目を細めながらエイミーちゃんが言った。
「仲直りできれば素敵なことですし、もしそうでないとすれば、今度こそ。いずれにしてもレックス様のお名前が歴史に残ることを、妻として嬉しく思います」
今度こそ何かな? とは聞けない弱い僕を許してほしい。
ほんの一瞬激しくギラついた愛妻の瞳に怯みながらも、必死に平静を装いながら笑ってみせる。
「子供達のためにも、ぜひ前向きな方向で名を残したいものだが、さて。基本方針としては、このお誘いに応じるということでいいだろうか」
ハメスロットにそう尋ねると、すぐには答えず弟子達に視線を向ける。
「ふむ。若い皆さんはどう思いますか?」
師匠がそう尋ねると、言葉を交わすことなくデミケルとオライーの視線がエリクスに集中する。
後輩からの視線を確認した先輩文官は、二人に向かって浅く頷いてみせたあと、胸に手を当てて頭を下げた。
「伯爵様の御心のままに」
つまり好きにしろ、と。
エリクスの回答を聞いたハメスロットも同じ意見らしい。
「というわけで、いってらっしゃいませ。ああ、過去に起きた我が家が教会本部に嫌われる原因となった出来事について、地下のお歴々に詳細を伺うのをお忘れなきよう」
当事者である毒蜘蛛さんとその息子であるグランパに確認してみるけど、話を聞かせてもらうためには、ある程度殴り合わないといけないよなあ。
【修羅の家かな?】
うん。
どうせやるならニューフォームのミケを投入してみるか。
「ああ、それと。文にはエイミーもぜひにと書いてある。悪いが、国都に付き合ってもらうぞ?」
「喜んで。サクリとマルディも連れて行けば、お義母様も喜んで下さることでしょう」
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