第752話 現場復帰
王妃様とお子さん達を無事救出してアルスヴェルの城を脱出した僕達は、ゴリ丸、ミドリ、メゾ、タンキーにそれぞれ騎乗して高速移動を行った。
途中で何度か蛮族の皆さんと顔を合わせたけど、時間が惜しいので言葉も拳も交わすことなく逃走一択。
幸い召喚獣のみんなの足に追いつける相手はいなかったので、人質の皆さんに大きな負担をかけることなくリュンガー伯爵領まで戻ってくることができた。
ミッションコンプリート。
そんな充実感に浸る僕をリュンガー伯爵邸で待っていたのは、見知ったおじ様達だった。
「おお、ヘッセリンクの。遅かったのう。いや、早かった、というべきか?」
ジャンジャックとともに案内された部屋に入るなりそう問いかけてきたのは、レプミアの誇る最強集団、上裸軍を率いるカナリア公。
そして、その横では今回の遠征軍のお目付役であり、レプミア貴族の常識担当でもあるアルテミトス侯が大げさに肩をすくめてみせる。
「まったく。私達を待つという選択肢もあっただろうに。貴殿にはもう少し落ち着きというものが必要だな、ヘッセリンク伯」
「カナリア公、アルテミトス侯も。遠いところをお疲れ様でございます。その仰りようだと、リュンガー伯から諸々聞かれていますね?」
人質を救出してリュンガー伯を蛮族さん方にけしかけよう大作戦の概要もきっと伝わっていることだろう。
「驚いたわい。意気揚々とアルスヴェルに乗り込み、蛮族共に仕置きじゃ! と意気込んでおったら儂らの姿が見えた瞬間降参ときた」
リュンガー伯、ナイス判断。
僕のアドバイスを疑わずに実行してくれたんだね。
「詳しく聞いてみれば、ヘッセリンク伯が大暴れした挙句、人質解放という名の人攫いに向かったと言うではないか。カナリア公と頭を抱えたぞ」
頭を抱えたと言う割にアルテミトス侯が笑顔なのは、この小言が一応立場上叱っておきましたよというポーズだからだろう。
「ご心配をおかけしました」
そんなポーズに対し、素直に頭を下げておくことでこのやり取りを終わらせようとした僕に、カナリア公が呆れたような口調で言う。
「馬鹿者。お主の心配などするわけないじゃろうが。頭を抱えたのは、せっかくここまで出張ってきたのにお主が全部終わらせておる可能性があったからじゃ」
カナリア公は出番がなくなることに対して頭を抱えていたらしいけど、僕だってそこまで考えなしに動いているわけではない。
「お二人がいらっしゃることはわかっていましたからね。私がしたことは、あくまでも下処理です」
「単独で敵の城に乗り込んで人質を回収するのが、下処理? 労力と言葉が見合っていないだろう」
アルテミトス侯が理解できないというように首を振ると、百鬼夜行さんがその肩をポンッと叩く。
「アルテミトスの。狂人殿にそんな真っ当な正論など届かんじゃろ。実際下処理のおかげでこうやって楽できておることじゃしな。それで? ここからどう動くつもりじゃ」
「約束ですので、リュンガー伯爵家には元々蛮族有数だったという腕力を見せていただく予定です」
そのための人攫いだからね。
ちなみに、リュンガー伯は無事にお姉さんや姪っ子達と再会できたことを心から喜んでくれて、約束を守るべく早速北に向かって出撃する準備に取り掛かっている。
頼もしい限りだ。
そして、この後の予定だけど。
「あとは流れで」
【お得意のノープラン】
「つまり、何も決まっていないわけじゃな。それもお主らしいわ。いいじゃろう。ヘッセリンクの。お主は儂の指揮下に入れ。よいな?」
「承りました」
ブルヘージュとの小競り合いの時にもカナリア軍と一緒に行動したし、筋肉修行でお邪魔した時に同じ釜の飯を食べた皆さんもたくさんいらっしゃるからね。
僕が頷くと、カナリア公がなぜかニヤリと笑う。
これは嫌な予感100%。
「それと、ジャン坊を借りるぞ」
「ジャンジャック? 借りるとはどういうことでしょうか」
ヘッセリンクがカナリア軍に組み込まれるんだからジャンジャックも当然カナリア公の指揮下に入るのに、そのうえで借りるとは一体。
わからないという風に首を傾げると、カナリア公が僕の後ろに立つジャンジャックに視線を向ける。
「ジャン坊。お主に儂のところの一隊を貸してやる。ヘッセリンクのと若い連中に、お主の指揮を見せてやれ」
なるほど。
個人ではなく、指揮官として貸せってことね。
僕にこの要請を断る理由はないんだけど、当の本人は不機嫌さを隠そうともせずに言う。
「あ? 何を仰っているのですかこの死に損ない公」
暴言キター!!
流石にこれはいけないと焦る僕を、アルテミトス侯が身振りで制する。
代わりに叱ってくれるんですねありがとうございます!
「ジャンジャック将軍。確かにカナリア公は死に損ないだが口を慎まないか」
被せてキター!!
ほら、カナリア公が拳を握って立ち上がっちゃったじゃないですか。
まずい、千人斬り、鉄血、鏖殺将軍の三つ巴なんてそれはもう戦だよ。
「仲良しなのは結構ですが、他所様のお宅で暴れるのはおやめください。ジャンジャック。お前も煽るような真似はよさないか」
流石にここで喧嘩は大人気ないと思ったのか、カナリア公が不機嫌そうにドスンッとソファに座り直した。
不毛な戦を回避したことにホッとしながら、険しい顔でカナリア公を睨む爺やに声を掛ける。
「これは興味でしかないが、僕もお前が軍を操る姿を見てみたい。カナリア公の指示に従ってもらえるか?」
僕の言葉が意外だったのか、驚いたように目を丸くしたジャンジャックだったけど、一つため息をついたあと、渋々といった風に頷いた。
「クソジジイの指示ならお断りですが、レックス様のお言葉なら是非もありません。微力を尽くすことにいたしましょう」
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