第710話 必(ず)殺(される)技

 青年に進化したマジュラスを中心に、ゴリ丸、ドラゾン、ミケ、ミドリ、メゾ、タンキーがローテーションを組んでひいおじいちゃんに挑む構図が上手くはまった。

 ひいおじいちゃんからすれば、もちろん進化したマジュラスが最も警戒すべき相手だろう。

 しかし、だからといって他の子達を放っておくわけにはいかない。

 なぜなら、彼らはそれぞれが脅威度Aというモンスターの群れ。  

 途中からは再びゴリ丸に指示を任せ、僕はえげつない魔力回復力を活かしてみんなに燃料を送り込むことに専念したのも奏功したと言っていいだろう。

 得意の体力にものを言わせて底なし沼に引き摺り込む戦法との相乗効果も発揮され、じわじわとひいおじいちゃんを追い詰めて行く。

 グランパ曰く歴代最悪のヘッセリンクと呼ばれていたらしい毒蜘蛛様に肩で息をさせたことは、それだけで称賛されて然るべき快挙だったのではないだろうか。

 このまま畳み掛ければ金星も見えてくるか?

 そんな甘い夢を見たのも束の間。

 そう何もかも上手くはいかないのはどうもこの世でも同じようで。

 えげつない回復速度をもって何度も何度も魔力の残量をガス欠から満タンまで往復させていたが、この新しい能力に潜むデメリットが、音もなく火を吹いた。

 ある瞬間からどれだけ集中しても回復する気配のない魔力。

 さっきまで、新築ビルのエレベーターのようにスムーズに上がったり下がったりしていた魔力量が、一階部分でうんともすんとも言わなくなった時には修行してる時並の汗が吹き出したものだ。

 さらには、勘のいいひいおじいちゃんがいち早くそれに気づいたんだから状況は最悪。

 これを待っていたとばかりに凶悪な笑い声を上げた毒蜘蛛様が、魔力の供給が切れてショタモードに戻ったマジュラスや、明らかに動きが鈍ったゴリ丸達を難なく蹴散らしながら迫ってくる。

 

「俺相手によく頑張ったが、魔力切れの魔法使いなんざあ、ただの的だぜ小僧! 身体鍛えて出直してこいや!!」


 このまま負けたら、敗因ははっきり僕が調子に乗ったから、ということになるだろう。

 デメリットの確認もせずに意気揚々とボス討伐に臨んだ大雑把さ。

 これに尽きる。

 これが普通の魔法使いなら間違いなく終わりだ。

 普通の魔法使いなら。

 しかし、僕はなんだ?

 そう。

 僕は、肉体派召喚士。

 フィジカル系サモナー、レックス・ヘッセリンクだ!

 みんなの攻勢を受けて体力を削られたひいおじいちゃんは、おそらくこれが最後の突撃。

 最後だよね?

 頼むから最後であれ。

 そんな願いをかけながら、人とは思えない速度で迫ってくるひいおじいちゃんに向かって勇気の一歩を踏み出す。

 その勇気が蛮勇でも構わん。

 ヘッセリンクに、退がる選択肢なんてない!


「身体を鍛えろだと? 舐めるなよ毒蜘蛛! こちとら、あんたの性格歪んだ息子さんに散々鍛えられてるんだよ!」


 心からの絶叫。

 そして、衝突。

 ジャンジャック仕込みの完璧な踏み込みと角度に加え、身長差も僕に味方してくれた。

 疲労が原因と思われるひいおじいちゃんのほんの少しの油断も有利に働いたようだ。

 そんな色んなファクターが重なりに重なった結果、僕の額が毒蜘蛛さんの無防備な鼻面にめり込む。

 これぞヘッセリンク式ヘッドバット。

 突っ込んできた勢いがそのまま頭突きの威力に上乗せされ、派手にのけぞるひいおじいちゃん。

 勝機はここにしかない。

 そう踏んだ僕は勝利の女神を振り向かせるべく、必殺の一手を繰り出すため両足に力を込める。


【まさか!? 無謀過ぎます! おやめくださいレックス様!!】


 止めるなコマンド!

 魔力が切れた僕に残されたのはこの肉体一つ。

 男には、やらなければならない時がある!


「食らええ!! とうっ!!」


 そう、僕の行動コマンドに燦然と輝く必殺技。

 それは、あのプラティ・ヘッセリンクから一本とり、あのラッチ・サルヴァの度肝を抜いたフェイバリットホールド!

 フライングボディアタッガッ!

 ……ガッ?


「とうっ! じゃねえよ馬鹿野郎があ」


【なぜ人は同じ過ちを繰り返すのでしょうか】


 いつかのあの日と同じように、飛んだ体勢そのままにがっちりと捕まる僕。

 完璧な踏み切りだった。

 足りなかったのは、ほんの少しの運。


「魔法使いが根性入ったやつくれるじゃねえかよう。ひいおじいちゃん、柄にもなくウキウキしちまうじゃねえかあ」


 僕をホールドする腕に力を込めてギリギリと締め上げてくるひいおじいちゃん。

 あ、これはよくない。


「ちょっ、まっ!」


「まあ、合格だあ。今度あの顔の綺麗な坊主がここに来たら、仕事の邪魔して悪かったって頭下げといてやるぜ?」


「それは、メアリも喜ぶと思います。なのでとりあえずここで終わりに」


 しましょう。

 そんな僕の言葉を聞く気などないとばかりに、僕を抱えた状態のひいおじいちゃんが笑う。


「あばよ、可愛い曽孫。また遊ぼうぜえ? あと、倅の性格が歪んだることについては弁解の余地もねえなあ! 向こうでうちのも頭下げてるだろうよ!」


 本日の決まり手。

 毒蜘蛛スープレックス。

 善戦するも、ご先祖様の壁は厚かった。

 

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