第709話 えげつない

 十日間の魔力増量修行〜愛する人の膝枕を添えて〜を経て成長したのは、なにもエイミーちゃんだけではない。

 僕だって、伊達に数えるのもバカらしくなるほど昏倒していたわけではなく、これまでとは比べものにならないほどの成長を遂げている。

 では、一体どこが成長したのか。

 新しい召喚獣を喚べるようになった?

 NOだ。

 ゴリ丸達の進化?

 残念ながら、魔力を注いで変身出来たのは今のところマジュラスだけだった。

 風魔法の新魔法が使えるように?

 僕はウインドアロー一筋、浮気などしない。

 まさかのヘッドバットの精度と威力の向上?

 額を二回割ってユミカに泣かれて以来、実戦投入は封印中だ。

 

 今日初めて全員顔を揃えた僕自慢の召喚獣達を前に、一旦距離を取るよう後ろに下がったひいおじいちゃんが観察するような視線を送ってくる。

 さっきまで悪鬼のようなテンションでマジュラスと殴り合ってたのに、状況が変わった途端にこの冷静さ。

 調子に乗らないバーサーカーは、果たしてバーサーカーと呼んでいいのだろうか。

 何が嫌だって、一番警戒すべきなのは一撃喰らわせたマジュラスなはずなのに、きっちり全員に神経を配っているところだ。

 隙があれば即食いかかるよう指示を出しているのに睨み合いになっているのは、毒蜘蛛様サイドに一切の油断が見えないからに他ならない。


「小僧お前、魔力は完全に一回消えたはずだろうが。それなのに獣共全員を一斉に戻すだと? いくらなんでもそりゃあ理屈に合わねえだろうがよ」


「申し訳ありません、ひいおじいさま。理屈、とは?」


 少しでもペースを崩せればと、ヘッセリンクが理屈なんてなんの冗談ですか? という趣旨の煽りと皮肉を織り交ぜてキャッチボールを試みた僕を、想定外の悲劇が襲う。


「本当に知らねえ可能性がありそうだから、そこは触れねえでおいてやるか……」


 受け入れられた!?

 可哀想な人間を見るような憐れみたっぷりの目で曽孫を見るの、やめてもらえますね!?

 あんたも地面を転がりながら笑ってんじゃないよグランパ!

 

「冗談だよ冗談。顔真っ赤だぜえ? 落ち着けよ、な? まあ、消えたもんが戻ったんだ。おおかた、えげつねえ回復速度ってところか」


 煽り散らかしておいて冷静に分析を始める毒蜘蛛様に思うところはあったが、話が進まないので深呼吸で強引にクールダウンを図る。


「……ご明察。僕が毒蜘蛛様討伐のために行った十日間の修行で得た新たな力。それが、ひいおじいさまのおっしゃるとおり、魔力のえげつない回復速度です」


【『えげつない魔力回復速度』を公式の表現としますが、よろしいですか?】

 

 レックス・ヘッセリンクのスキル一覧。

 召喚術!

 風魔法!

 えげつない魔力回復速度!←NEW!!


 んー、公式で可。


【オーライ】


「とんでもねえ能力持ってんじゃねえか。魔力の切れねえ魔法使いなんざお前。つまり好きなだけ飽きるまで最高潮のまま殴り合えるってもんだ。なあ!!」


「好きなだけ、飽きるまで、最高潮のままに殴り合える。いずれも主語がひいおじいさまなのはどうにかしていただきたいのですが」


 正確に表現すると、『俺が』好きなだけ『俺が』飽きるまで『俺が』最高潮のまま『お前』と殴り合える、だからね。


「と、そろそろ準備はいいか? マジュラス」


「御意。いくぞ、毒蜘蛛殿。あと二、三本もらっていく!」


 会話している間もえげつない速度で回復する魔力をマジュラスに注ぐと、目を怪しく光らせながらひいおじいちゃんに襲い掛かる。

 力強く地面を蹴った亡霊王を迎え撃つ毒蜘蛛様は、これまで見せたことのない低い姿勢で構えて吠えた。


「馬鹿野郎があ。そう簡単に行くと思うなよ? 精々、毒蜘蛛の毒が回る前に降参するんだなあ!」


 マジュラスの力強い前進に対応するように、地面スレスレの低い構えのまま飛び出して、一対一の殴り合いを展開する。

 非常に見応えはあるが、僕としてはタイマンを確約した覚えはないわけで。


「ゴリ丸とミケはマジュラスを援護! ドラゾン達は待機だ! 戦況を見てゴリ丸達と入れ替えるから決して油断するな!」


 全員に均等に魔力を注ぎながら指示を出し、僕自らもウインドアローによる援護を行うべく回復しつつある魔力を練り上げる。


「おうおう! 今回は小僧が指示出ししやがるわけか。いいぜえ。そっちの気合い入った面した四本腕より上手に動かせよ? じゃねえと、つまんねえからなあ!」

 

 指示出しをゴリ丸に丸投げしてたのもバレてるのね。

 普通、召喚獣が召喚獣に指示を出すなんて考えもしないだろうに、そんな理屈や常識なんか関係ないところにいるのがひいおじいちゃんだってことだ。

 そうなると、僕も有り余る常識を投げうって、本能主体で立ち向かう必要があるのかもしれない。


「ひいおじいさまを楽しませるためにお邪魔してるわけではないのですよ。あと一、二発入れたら退散いたしますので、ぜひ大人しく殴られてくださいな」


「若い奴らを甘やかすのは趣味じゃねえなあ。ひいおじいちゃんのこと殴りてえなら、実力でこいや!」


 上等だ!

 絶対殴り倒してグランパの前でひいおばあちゃんとの惚気話させてやるから覚悟しておけよ!

 

……

………

〈読者様へのお知らせ〉

近況ノートに、ひいおいじちゃんとひいおばあちゃんの出会いのエピソードを投稿しております。お時間ありましたら、おまけ的にお楽しみください( ͡° ͜ʖ ͡°)

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