第683話 招かれざるお客様、いらっしゃい
歓迎準備が完了したのを見計らったかのようなタイミングで、招かれざる客こと王太子殿下がオーレナングに到着した。
驚くべきことに、お供は本当にたった五騎だけ。
そのなかには、もちろん第三近衛隊隊長であるダシウバの顔もある。
お前も大変だなとばかりに同情の視線を向けると、なぜか白い歯全開の満面の笑みで応えてくれた。
相変わらず明るさは満点だ。
「王太子殿下におかれましては変わらずご健勝の様子。心より嬉しく思います」
僕だけでなく、国都の飲み会で面識のあるアヤセ、ガストン君の三人で出迎える。
「ありがとう。皆さんも元気そうでなによりです。まず、前触れもなく突然お邪魔したことをお詫びしておきましょう。家来衆に無駄な負担を掛けてしまったでしょうしね」
それがわかってるなら自重してくださいよ大将。
ただでさえ若者の達の歓迎で大変なのに未来の王様なんかにアポ無しで遊びにこられたらまいっちまいますよ。
「殿下をお迎えする機会などそうそうあるものではございません。私だけではなく、家来衆一同、それはもう張り切って歓迎の準備に取り組んでいたところです」
【本音と建前の使い分けが美しくすらありますね】
この数年で、僕もだいぶ貴族らしくなっただろう?
本音と建前を逆転させるような愛らしいうっかりなんか、もうやらかさないさ。
「ところで、供回りがあまりにも少ないように思うのですが……理由を伺っても?」
「これはもうひとえに父と宰相の目を掻い潜るためですね。親しい友人達に会いに行くだけだというのに大騒ぎするものですから、こっそりと、ね」
お茶目にウインクなどしたあと、大脱走の様子を語ってくれる王太子。
僕だけでなく、アヤセとガストン君も限りなく自然な作り笑いと大袈裟なリアクションで対応していく。
たまにしか会わない僕達だけど、この場においての連携は抜群だ。
あまりにスムーズに反応してくる僕達に王太子自身も違和感があったのか、ある程度語ったところで首を傾げる。
「私の行動について相応に苦言を呈されることは覚悟していたのですが。自分で言うのもなんですが、随分あっさりしたものですね?」
そんな問いかけを受け、アヤセとガストン君はまるで『伯爵様、出番ですよ』と言わんばかりにスンッ、と沈黙する。
押し付ける時の連携まで完璧だと笑うしかないね。
「まあ、こっそりという言葉の意味については多分に議論の余地がありますし、このような西の果てまでお忍びなど何を考えていらっしゃるのかとじっくり問い詰めたい気持ちもありますが……やめておきましょう」
「それはまたなぜ?」
「ヘッセリンクでございますので」
なんの説明にもなってない『ヘッセリンクだから』というワードだけど、レプミア国内における万能性は他に類を見ない。
それを口にするのがヘッセリンク本人ならなおさらで、王太子も何の疑問も持った風もなく納得したように深く頷いた。
「供回りが少ない理由は、お忍びで王城を脱したから。では、なぜそのようなことを? 事前にお知らせいただけば、大々的に歓迎いたしましたのに」
僕が困ったような笑みを浮かべながら『迷惑だからアポなしとかやめてね?』とやんわり釘を刺すと、それまで柔和な笑みを浮かべていた王太子が悲しそうに目を伏せて首を振る。
「さる筋から、私と同世代の貴族達がオーレナングに集まる楽しそうな催しがあると小耳に挟んだのです。もしかすると私にもお誘いがあるのではないかとワクワクしていたのですが、待てど暮らせどその気配がなく、気付けば開催の日がすぐそこまで迫っているではありませんか!」
当たり前だろう!
今回招待したアヤセ率いる過激派組織の正式名称は、『護国卿を慕う若手貴族の集い』ですよ?
そこに王太子を呼んでしまったら、他の貴族の親父さん達にどう思われるか。
『ヘッセリンクさんったら、自分を慕う若手と一緒に王太子も呼んだらしいですよ? それはちょっとお調子にお乗りあそばされてるんじゃなくって?』
って白い目で見られるでしょうが!
【OK、落ち着いて】
……オーライ、兄弟。
「今回の催しを隠してはいないので構わないのですが、参考までに小耳に挟んだ経緯を伺ってもよろしいでしょうか」
「国軍の上層部と懇談する機会がありましてね。その席で、召喚士の部下がヘッセリンク伯に会いに行くから休みを寄越せと大暴れして困っていると愚痴をこぼすのを聞いたのです」
王太子の耳に入るくらいの暴れ方とは。
アヤセに視線を向けると、すっと目を逸らされた。
これは何か知ってるな。
可愛い従弟はあとで締め上げるとして。
「つまり、カルピ殿の動きから気取られたわけですか」
「ええ。国軍の者には四の五の言わず休暇を許可するよう指示したうえでお誘いを待っていたというのに全く音沙汰がない。開催日が近づいたところでようやく、ああ、これはまた仲間外れにされているな、と気づいたわけです」
「仲間外れなどという次元の話ではありません。以前国都で開いた酒宴に乱にゅ……ご臨席いただいた際にもお伝えしましたが、一貴族のお遊びに殿下をお誘いするなどあり得ないことをご理解ください。そんなことをすれば、我が家が常識を疑われてしまいます」
王太子相手に厳しい調子で意見する僕を、アヤセとガストン君が憧れの眼差しで見つめているのがわかる。
ふっ、どうだ若者達よ。
未来の国王相手でも、びしっと意見できる物言う右腕。
それが僕、レックス・ヘッセリンクだ。
「ヘッセリンクに疑われる常識などありましたか?」
……それはほら、あれですよ。
うん。
ねえ?
【諦めないで!】
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