第661話 メインイベント
王様との面談翌日の昼過ぎ。
今回の国都遠征のメインイベントであるゲルマニス公との会談に臨むべく、会場に指定されたゲルマニス公爵家の屋敷に向かう。
同行者は、会談後の宴会にお呼ばれされているエイミーちゃんと、護衛のガブリエ。
ゲルマニス公のお屋敷に来るのは初めてだけど、トップランカーの家らしく、わかりやすく大きくて豪華な作りだった。
会談後の宴会まですることのないエイミーちゃんは別室でゲルマニス公の奥様やお母様方とお茶しておいてもらい、僕とガブリエはゲルマニス公の待つ客間に通される。
僕の服装は予定どおり銀糸で森を、金糸で金塊を表したあの服だ。
これでもかというほどヘッセリンクでござい! と主張する服を着た僕を見て、自身も家紋である羽の生えた虎を縫い取った金地の服を身に纏ったゲルマニス公がニヤリと笑う。
「似合っているじゃないか。レックス殿も洒落っ気が出てきたかな?」
そんな反応に困る一言でスタートした会談は、お互いの近況報告を行いつつ、ゲルマニス公が時折放つジョークに大袈裟にリアクションしながら、こちらも軽めのジョークを打ち返すことで和やかに進んでいった。
「と、そんなわけで陛下に釘を刺されてしまいました」
最新のネタとして昨日行われた王様との面談について語ると、ゲルマニス公が大袈裟に肩をすくめてみせる。
「俺とレックス殿の間に諍い? ないだろう。レプミア建国史上、ゲルマニスとヘッセリンクの関係は今が一番良好だと思うが」
「ゲルマニス公にそう言っていただけると私もほっとします。まあ、王城側に睨まれている原因のほとんどはこちらにあるのですがね」
ヘッセリンクとゲルマニスが並ぶことで眉を顰められるとすれば、それは7:3くらいで我が家のせいだろう。
僕のそんな分析に、ゲルマニス公が首を振る。
「ヘッセリンクの動向を注視しない王城の人間など仕事を放棄しているも同然だからな。そういう意味ではきっちり監視の目を向けられているレックス殿も立派なヘッセリンクだというわけだ」
王城から監視されてる状態で完成する貴族とは一体。
「立派なヘッセリンクが褒め言葉なのかどうか悩むところです。最近やんちゃはしていないつもりですよ?」
これは本当のことなので胸を張って言える。
国の内外問わずお散歩したりしていないし、武力行使も森と地下限定だ。
基本的に昼はひたすら書類に埋もれ、夜は家族や家来衆と穏やかに語らう。
そんな生活を送っている僕に死角はない。
「ゲルマニスに人を寄越せと文を送るやんちゃをやらかした結果、今こうやって顔を合わせているのを忘れたか?」
【鮮やか! 一本!】
審判の旗が全部上がる幻が見えました。
完敗です。
「なるほど。それもそうですね。では、そのやんちゃにまつわる話をいたしましょうか」
完敗ついでにせっかくだから本題に入るとしましょうか。
居住まいを正し、ゲルマニス公に対して深く頭を下げる。
「この度は私の悪ふざけのような要請に快く応じていただいたこと、心より感謝いたします」
「構わないさ。外からの目が入りづらいオーレナングに縁の者を送り込めるのだから、我が家に損はない」
これだけ聞くとオライー君にスパイの役割でも与えているようだけど、そんな事実は多分ない。
まあ、探られたところで面白いものなんて何も出ないからスパイ行為をするだけ無駄なんだけど。
「縁も縁。まさか血を分けたご兄弟を送り込んでこられるとは。しかも、まだ若い。オライー殿をオーレナングに送ることにご家族は反対されたのでは?」
話を聞くと自覚がないのはオライー君本人だけで、公爵家の皆さんには可愛がられてるらしいから。
僕の質問に、疲れたように眉間に皺を寄せるゲルマニス公。
「それはもう大反対だったな。特に俺の母達が猛反発さ。なんせあれは幼い頃の俺に似ているのに素直で健気ときた。オライーをオーレナングに行かせるくらいなら代わりにお前が行ってこいと言われる始末だ」
「それは酷い。まあ、本当に来てくださるなら歓迎いたしますよ?」
「そうなった時の王城の反応は見てみたくはあるがな」
僕の小粋なヘッセリンクジョークに笑みを浮かべたゲルマニス公が、さらにそんなジョークを被せたあと、表情を引き締める。
「反対はされたが、弟のためにも環境を変えてやった方がいいというのが結論だ。貴族界隈ではよくあることだから気にしなくてもいいのだが、市井に生きてきてはそうもいかないらしい。何かに追われるようにゲルマニスの、さらには俺のためにと必死で働く姿は見てられなくてな。どこか適当な家に送って息抜きをさせようかと思っていたところに、ヘッセリンクから文が届いたのさ」
そのどこか適当な家の候補に我が家が入ってること自体おかしな話なんだよなあ。
「息抜きをさせようと思っていたのにヘッセリンクに送ることを決めたのですか。いえ、人が足りないと言ったのは私ですが」
「オーレナングの場所は最悪だが、レックス殿を筆頭に人間はいいからな。あと、小さいことに悩んでいられる環境ではない場所に送ることでゲルマニスであることを強制的に忘れさせてやろうという、兄心さ」
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