第483話 配置の確認

 護衛以外に暗殺者の皆さんを仕込んできているらしいセルディア侯。

 黙ってればいいのにわざわざ教えてくれるとか、さては善人か?


【阿呆なだけかと】


 やっぱりそっちか。

 まあ、先ほどご本人にお伝えしたとおり、残念ながらそのあたりのケアは万全だ。

 グランパから、ジャルティクの貴族は昔のレプミア貴族なんか比にならないくらいの暗殺者スキーだとあらかじめ聞いていた僕は、家来衆全員を集めて迎撃……、歓迎のための配置をしておいた。

 僕と一緒に主賓に対応するのがオドルスキ、メアリ、エリクス。

 当初、オドルスキではなくジャンジャックを置いてメアリと共に執事に擬態しておいてもらおうかと思っていたんだけど、本人の強い希望でメイン会場への配置が決まった。

 エリクスは、外国の貴族、しかも敵対的な相手との絡みなんて貴重なんだから経験を積んでこいというハメスロットの指名でここに入っている。

 結果、ブチ切れドーピングファイヤーからのアドリブ恫喝という素晴らしいムーブを見せてくれた。

 若手の成長って早いね。

 

 次に、お付きの皆さんを労うために食堂で待機してもらっているメンバー。

 こちらにはハメスロット、アデル、マハダビキア、ビーダー、そしてデミケルを置き、護衛役としてステム、ザロッタ、リセを配置している。

 新人さんが多いものの、ステムとボークンのコンビがいればそう滅多なことは起きないだろうし、ザロッタとリセも森で悲鳴すら上げなかったメンタル強めの若者たちだ。

 暗殺者が来るかもしれないとわかっていれば、それなりに対応してくれるだろう。

 若い二人に万が一の時には躊躇うなと伝えると、緊張感が増したように顔を強張らせたので、証拠隠滅の手段には事欠かないから大丈夫だと小粋なヘッセリンクジョークを飛ばしておいた。

 二人どころかそれを聞いたステムの表情も強張って見えたのはきっと気のせいだろう。


 エイミーちゃんとサクリ、フリーマ医師の三人には、クーデルについてもらっている。

 エイミーちゃんも自衛くらいはできると主張したけど、万一があってはいけないからね。

 クーデルには一人で三人を守ってもらうことになるが、我が家自慢の美しい死神がそんじょそこらの同業者に負ける絵が見えないので問題はないだろう。

 本人も一切気負った様子もなく、微笑んで頷くだけだった。

 頼もしい限りだ。

 

 そして、アリスと、ジャルティクのメインターゲットであるユミカは、ジャンジャックに守ってもらっている。

 おそらく、ここを狙うことになる暗殺者が一番の貧乏くじを引くことになるだろう。

 なぜなら、爺やには一切手加減無用と伝えてあるから。

 パーフェクトヘッセリンク計画の一環として鏖殺将軍の戦いをユミカに見せてやれと告げると、森に入ることを禁じられたバッキバキのバーサーカーはニコリと笑った。

 よし、何も問題はないな。

 

 あ、フィルミーには自宅で自分の奥さんを守っておくよう指示してある。

 最近すごい速度で人を辞めていると高い評価を得ている騎士爵様なので、きっちり妻子を守ってくれるだろう。

 そういえば、二人の子供がオーレナングで育つなんてことになれば、うちの子達と幼馴染になるわけか。

 幼馴染っていい響きだよね。

 生まれた時から一緒にいる二人のラブロマンスとかいうワクワク展開があったら僕は全力で応援したいと思う。

 

「そういったわけで、そちらが腕力に訴えてきた場合への備えもしているわけだ。向かった場所によっては既に可哀想なことになっている可能性すらある」


 ちゃんと備えをしてあるよ、と伝えると、セルディア侯が顔を真っ赤にして声を上げる。

 

「ジャルティクの暗殺者の力をだいぶ低く見積もっているようだな! 今回私が連れてきているのは」


 拳の交換タイムへの突入を引き延ばそうとしているのか、ご丁寧に暗殺者について語ろうとするが、そうはさせません。


「ああ、いい。興味がないからな。それと低く見積もっていると言うなら、それはそちらも同じだ。確かに私はレプミアの西の端にある森しかない領地を任された田舎貴族だが、家来衆の質だけはこの国で最上位にあると自負している」


 腕力面は言わずもがな、文官やメイド陣においても人手不足以外に隙はない。

 もちろん贔屓目があることは否定しないけど、一人一人が素晴らしい人材であることは疑いようのない事実だ。

 そして、そんなヘッセリンクに喧嘩を売ったことがお客様方の不幸につながるわけで。


「これは誇張でもなんでもない。これから起こる事実として伝えるのだが、貴様自慢の影の者とやらは、私の可愛い家来衆達の手によってそう時間もかからず全員捕縛される」


 なお、ジャンジャックがやり過ぎた場合はその限りではない。

 

「そして、これも確実に起こる未来なのだが、セルディア侯。貴様はこれから私との殴り合いに臨み、その結果床にうずくまり情けなくも命乞いをすることになる」


 顎クイのまま、空いた手で拳を握ってやると、セルディア侯がひぃっ! と悲鳴を上げる。

 おいおい、今からそんなにはしゃいでちゃ、とても最後までもちませんよ?


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