第370話 強いやつに会いに行きます

「なあ、あんた」


 大魔猿対決を制したゴリ丸と戯れていると、ようやくフリーズから復帰したらしいベラムが真剣な表情で話しかけてきた。


「なんだ、呆けるのは終わりか?」


「茶化すなよ。聞きてえことがある。真面目な話だ」


 真面目な話ね。

 できれば楽しいことだけ話していたいんだけど。

 

「聞きたいことか。答えられることとそうでないことがある。ちなみに、妻のどこを愛しているかならこれからバリューカに着くまでずっと語れるがどうする?」


「もう! レックス様!」


 僕の言葉に、頬をほんのりと赤く染めたエイミーちゃんが可愛くこちらを睨みつけてくる。

 こんな灰色の世界でも色褪せないうちの妻のキュートさ、凄くないですか?

 

「ちなみに私もメアリの可愛いところならバリューカに着いてオーレナングに戻るまで語れます。聞きますか?」


 エイミーちゃんの反応にデレていると、クーデルが負けじと被せてくる。

 うん、クーデルなら森の端から端まで息継ぎなしでひたすらメアリの好きなところを列挙してても驚かないよ。


「いらねえよ! 真面目な話だって言ってるだろうが!」


 緩い僕達の反応に苛立ったのか、ベラムが大声を上げる。

 声出てるねえ。


「冗談だ。聞くだけ聞くからさっさと言ってみろ」

  

 そう言うと、どうにかしろよと言わんばかりの苦い顔でメアリを見るベラム。

 見られた方は、とても迷惑そうな顔で肩をすくめている。


「そんな顔で見るなって。俺にはどうしようもねえから」


「仕方ねえだろ。このなかじゃ、小僧が一番まともそうなんだからよ」


 見る目があるね。

 今回のメンバーで唯一の常識人枠がメアリだ。

 僕らが何かやらかしそうになった場合は、メアリのツッコミによって軌道修正を図ることになるだろう。

 しかし、当の本人は苦笑を浮かべて首を横に振る。


「そりゃどうも。ただ、あんま期待しないでくれよな。どこまで行ったって、俺もこの男の弟分だからさ。頭のネジ緩みがちなんだわ」


 僕の弟分だと頭のネジが緩みがちになるなんて初めて聞きました。

 ショックです。


「絶望的だな。まあいい。聞きてえのは、バリューカで具体的に何をするつもりなのかってことだ」


 本当に真面目な話だった。

 冗談を言える雰囲気ではない厳しい顔に、僕も表情を改める。


「具体的にと言われると難しいが……。お前達がレプミアに対して実行しようとしていたことを、そっくりそのままお返しする、と言ったところか」


 レプミアで彼らが何をするつもりだったのかは聞いていない。

 いや、グランパ達が聞いてくれていたのかもしれないけど、情報をもらいに行った僕に対して、『余計な情報はいざという時の動きを阻害します。陛下の許可を得たなら、とりあえずヘッセリンクらしく暴れてきなさい』とだけ告げると、肝心なことは何一つ教えてくれなかった。

 まあ、いきなり攻め込んできたんだから、そこに侵略以外の意味はないんだろうけど。


「この人数で、本気でやれると思ってるのか?」


「本気かつ正気だな。僕達だけでバリューカを陥す。これは、決定事項だ」


 僕の言葉にごくりと唾を飲み込むベラム。

 ここまでの道程で、僕達の異常性は充分理解できているようだ。

 その理解度をもったうえで、彼は言う。


「俺達を見てそれができると思ってるなら、流石にバリューカを舐めすぎだ。国には、俺なんか足元にも及ばねえ化け物が控えてやがる」


「ほう。それは僕やジャンジャックを上回るほどの強者なのかな?」


「少なくとも、森の端を守ってやがる貴族はあんたらと同じくらいの力を持ってると思う。あいつらは、特にやべえ」


 それはそれは。

 森の端を領有する貴族とは、親近感が湧くじゃないか。

 やっぱり納める税金は魔獣の素材や生命石なんだろうか。

 どんな領地運営をしているかぜひ聞いてみないものだな。


「ふうん。レプミアでいうヘッセリンクみたいなもんか。ま、普通に考えりゃ、森と接してる場所を守るのにぶっ飛んだ奴配置しなきゃもたねえもんな」


 まるで僕がぶっ飛んでるみたいな言い方はやめてくれよ兄弟。

 少なくとも僕はグランパやパパンより、だいぶ常識的かつ理性的なはずだ。


【え?】


 ん?

 

「森の守護者なんて呼ばれちゃいるが、ありゃあそんな大層なもんじゃねえ。あいつらは、ただの戦闘狂だ」


 親近感ここに極まる。

 森の端を守っているなら遅かれ早かれ顔を合わせることになるだろう。


「それをわざわざ僕に伝えたお前の意図はわからないが、俄然興味が湧いてきた。おい、ジャンジャック。これは楽しいことになりそうだな」


「レックス様。その強者とやらと接触したならば、まずは爺めにお任せください。御当主自ら先陣を切って未知の敵と相対するなどもってのほかでございます」


 キリッとした表情でそう返してきたジャンジャックだったけど、一瞬前まで未知の強敵の存在を知って頬を緩ませていたのを僕は見逃していない。

 僕を制するふりをしてるけど、自分が戦いたいだけなのがバレバレだ。


「あーあ。余計なこと言うからうちの戦闘狂どもがやる気になっちまったじゃねえか。知らねえぞ」


「そうね。そちらの森を守る貴族様がどれだけのものか知らないけど、『狂』の文字を背負わせたら我らがヘッセリンク伯爵様の右に出る者はいないもの。バリューカは、近いうちに本物を知ることになるわ」


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