第362話 その頃地下では ※主人公視点外
「つまり、貴様らは森の西からやってきた。そう言うのだな?」
縛られて転がされた賊の一人が、ジーカスの質問に対して青い顔で首を縦に振りました。
複数の賊に同じ質問を繰り返してきましたが、彼らが嘘をついている様子はありません。
そもそも、私達の前で嘘をつこうなどという考えを起こさせないように配慮しているので真実とみて間違いないでしょう。
「森の向こうの国が攻めてきた、ですか。なるほど、刺激的ですね」
一通りの聴き取り調査を終えての感想を呟くと、ジーカスが眉間に皺を寄せました。
「言っている場合ですか。未知の存在とは厄介です。森を抜けてきたということは、まとまった人数で深層を踏破したということ。それがどういうことかわからないわけではないでしょう」
ジーカスの心配は当然理解できます。
脅威度AやBといった常人には太刀打ちできない魔獣が跋扈する危険地帯を越えてきたのが今回の賊共ですからね。
油断するつもりはありませんが、レプミアに同じことができないかと言われると絶対とは言えないところです。
「レプミアでも本気を出せばやれないことはないでしょう? ロニー君のとこの軍とヘッセリンク家が合同で当たれば抜けることくらいはできるはずです」
必要がないからやらないだけで、何かしらの理由があればそれを為すことは全く不可能ではないでしょう。
「そんなに簡単なものでは」
なおも食い下がってくるジーカス。
愚息は重要な点を一つ見落としていますね。
「今は、森の番人の役割を果たしていたと思われるディメンションドラゴンがレックスの手で葬られ不在なんですよ?」
私の説明に、ああ、と納得したように言葉を漏らすジーカス。
「あとは、ある程度の犠牲を織り込んで森を抜ける覚悟を決めれば不可能ではない」
「ある程度の犠牲くらいで済む話ではない気がしますが」
「それはもう少し詳しく聞いてみないとわかりませんね。もしかしたらなにか特殊な技術を持ち合わせてるのかもしれませんし」
聞いた話では、あの文官エリクス君も姿を消す技術を持って森に単身侵入したことがあるとか。
それに類似した、またはそれを遥かに超える技術がこの世のどこにもないかと言われたら否定できません。
「やあ、プラティ。ジーカスもご苦労様。進捗はどうだい?」
我々親子がそれぞれ聴き取りをした情報を擦り合わせているところに、初代様が軽い足取りでやってきました。
「ええ、順調ですよ。生き物というのは本能的に火を恐れますので。皆さん概ね素直に聴き取りに応じてくれています」
最初は頑なに口を開かなかった皆さんも、軽く私の魔法を披露してみればあら不思議。
積極的に聞いたことに答えてくれるようになりました。
素直なことは長生きに直結しますからね。
「それはよかった。なんと言っても長年謎だった森の西側の住人が、自ら情報を携えて遊びに来てくれたんだ。時間はたっぷりあるし、聞き漏らしのないように頼むよ。……なんだいプラティ。その明らかに疑ってるような眼差しは」
飄々と語る初代様の胡散臭いことと言ったらありません。
長年謎だった?
いやいやまさか。
「初代様は、もともと森の向こうについて何か知っていらっしゃると確信しているだけです。まあ、聞いても答えてくださらないでしょうから聞きませんが」
初代様が話す気がないなら今のところその必要がないということでしょう。
無理に聞き出してもいいですが、この老人と殴り合うのは骨が折れますからね。
無駄なことはしません。
「ふふっ。まあ、レックス達が無事に帰ってきたら情報を整理しようか。その時には私が持っている古い古い情報も開示してあげるよ」
ほら、やっぱり知っているんじゃないですか。
まったく性格の悪いことです。
「今回やってきた賊はどうやら先遣隊らしいですからな。国から『森の東側には楽園がある』と唆されて碌な情報も与えられずにやってきた。言葉は悪いですが、捨て石扱いなのかもしれません」
ジーカスの言うとおり、斥候代わりに犠牲を強いても構わない人間を送ってきた感が強いというのも感想の一つです。
予想でしかないですが、森の向こうにある国の支配者層は碌でなしな気配がしますね。
「もし本当にそうなら酷いことをするものです。私が現役の頃に乗り込んできたのなら逆侵攻をかけて滅ぼしてやれたのに。残念でなりません」
今でも自由に動けるなら、私とジーカス、レックスとジャンジャックあたりで速やかに森を抜けて賊の本拠を燃やし尽くすことができる気もしますがね。
「滅ぼすかどうかは別にしても、放置するわけにはいかない問題なのは間違いないよね。よりによって国王陛下が遊びに来ている時の襲撃で情報を隠すこともできないし」
初代様の仰るとおり、秘密裏に処理できないのも問題です。
こうなると、きっちり国としての対処が必要となるので、いかにヘッセリンクといえども勝手はできません。
「では、近いうちにこちらから森を抜けて逆侵攻をかける可能性もあるわけですか。それは、滾りますな。ここに縛られていることが惜しまれる」
流石は私の息子。
どうやらジーカスも森の向こうに討って出たいと考えているようです。
どうにかなりませんかねえ。
「逆侵攻かどうかは王城側の判断だけど、少なくともレックスたちが持ち帰る情報とこっちで吸い上げた情報をもとに、調査団くらいは派遣するんじゃないかな?」
レックス達が持ち帰る、ですか。
ふむ。
そもそも彼らは帰ってくるでしょうか。
そこが問題です。
ジーカスも同じことを考えたようで。
「レックスのことです。今の勢いのまま帰ってこずに、そのまま西に向かうなんていうことも考えられますよ?」
「はっはっは! まさか! 流石のレックスもそこまで向こう見ずではないよ。……、ないよね? ねえ、祖父と父が揃って目を逸らすのはやめてくれるかい?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます