第356話 現状
駆け足で地上に戻ると、屋敷の玄関側の広場は多くの人間が争ったことを示すよう、荒れに荒れていた。
ところどころに血の跡が残っているのが戦闘の激しさを物語っている。
「これはこれは。だいぶ派手に暴れてくれたようだな」
これ、元に戻すの大変だけど、国都からちゃんとした業者呼んで、サクリやユミカが怖い思いをしないよう綺麗にしないとな。
「まあ! 屋敷の入り口が焦げていますね。火魔法使いがいるということでしょうか。なんにしても許されるものではありません」
うわっほんとだ!
玄関が焦げてるのはいくらなんでも見た目がよろしくない。
「伯爵様!」
そんなことを考えながら焦げた壁を撫でていると、兵舎の方から髭の隊長さんこと領軍隊長オグが駆け寄ってきた。
「おお、オグ。ご苦労。状況は? 怪我人が出たと聞いたが」
庭やら屋敷やらはお金と時間さえあれば修復できるけど、人間はそうもいかない。
大きな怪我をしていた場合、兵士として働けなくなる恐れがある。
大したことがなければいいが。
「はっ。部下が数人怪我をしておりますが、幸い回復したら復帰できる程度の傷です。我々とて、だてに魔獣と戯れてはおりませんからな」
とりあえず一安心だ。
戦うことが仕事なんだからそういうことも織り込み済みなんだろうけど、家来衆が元気で仕事をしてくれるに越したことはない。
「そうか。怪我をした兵は後で労うとして、だ。敵の正体はわかったのか?」
「それがさっぱりです。所属を示すものを身につけておりませんし、会話を試みる前に襲ってきましたので。数人拘束していますが、一切口を開こうとしません」
レプミアの人間かどうかだけでも知りたかったが、今のところそれもわからずか。
わからないことだらけで対応に不安が残るけど、まあいい。
どう足掻いても敵に明るい未来は待っていないからね。
「問題ない。お祖父様からは拘束した敵を連れてくるよう言われているからな。事情聴取を手伝ってくれるらしい。きっと、進んで身元を明かす気になるだろう」
あの『炎狂い』さんが尋問を買って出てくれたのは心強いし、多分『巨人槍』さんもアシスタントについてくれるはずだ。
二人が揃っていて聞き出せないことなどあるだろうか。
いや、ない。
未来で起きることを想像したのか、オグが顔をしかめて身体を震わせた。
オグはパパン時代から我が家に務めてくれているので地下の真実を伝えている。
「それは怖い。終わりましたな、奴ら。なんなら同情してやりたい気分です」
「違いない。お祖父様の前に引き出されるくらいなら、優しい優しい現役伯爵様に全てを打ち明けたほうが何倍もマシというものだ。そう思わないか?」
「どう転んでも失礼にしかなりませんので回答は差し控えさせていただきます」
その回答自体がまあまあ失礼ぶっこいてる気がしなくもないけど、今はおちゃらけてる場合ではない。
オグも空気を読んで話を本筋に出した。
「敵はジャンジャック様やオドルスキ殿に追い散らされて西に逃走しました」
せっかく奇襲を仕掛けたのに、我が家のモンスター達にカウンターを喰らったのか。
それこそ同情するよ。
名前は出なかったけど、そこにメアリとフィルミーも加わってたんだろうし。
もしその面子で勝てないなんてことになったら、相当やばい相手ということだ。
「私達もこれから追討に移ります」
普段と変わらない落ち着いたオグに見えたけど、いつもより少しだけ硬い表情と声から察するに、部下を傷つけられてはらわたが煮え繰り返っているみたいだ。
気持ちは痛いほどわかる。
わかるんだけど、追討に出ることは許可できない。
「すまないが、ここは僕達に任せてもらおうか。留守の間、お前達領軍は全力で屋敷を守っておいてくれ」
僕の言葉を受けたオグは若干不満げな表情を浮かべたものの、すぐに何かを察したように背筋を伸ばして美しい敬礼をして見せる。
髭の隊長は一体何を察したのか。
それは、きっと僕の怒りだろう。
「あら。じゃああたしはお留守番してた方がいいかしら?」
僕とオグのやりとりを見たリスチャードが肩をすくめながら言う。
せっかくついてきてもらったのに悪いけど、やってほしいことがあるんだよマイフレンド。
「ああ、オグとともに領軍の指揮を頼みたい。敵の目的がわからないし、伏兵がいないとも限らないからな。頼りにしているぞ、義弟殿」
「はいはい、任せてちょうだい。あ、に、う、え?」
あ、だめだ。
自分で振っておいて何だけど、親友に『あにうえ』呼びされるの、すごく背中がむず痒い。
そんな言語化し難い感情を誤魔化すため、気合いを入れ直す。
「よし、では行くとするか。出ろ、ゴリ丸、ドラゾン、ミケ、マジュラス」
全員集合!
魔力を込めた号令に従ってアニマルズが空から現れ、マジュラスが闇の中からピョンッと飛び出してくる。
いつもなら人懐っこいアニマルズが僕やエイミーちゃんに甘えてくるところだけど、微かに漂う血の匂いを感じとったのか、三匹とも静かに待機していた。
召喚主と一緒で空気が読める召喚獣です。
「豪華ねえ。レックスの本気が伝わるわ」
「本気も本気。どこの誰だかわからないが、人の庭先でヤンチャをしてくれた礼をしないといけないし、なによりパーティーにはみんな揃って参加するべきだ」
そう言って全員に魔力を補充すると、ゴリ丸とドラゾンが凶悪な咆哮を響かせ、マジュラスからは漆黒の瘴気が迸り、ミケは尻尾を太くした。
「まあ、すぐに戻る。遊んでいると、お祖父様と父上が痺れを切らしてしまうからな」
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