第354話 思わぬ出会い
轟音とともに炎を撃ち出したその手でサクリを抱っこしてあやすグランパ。
本当に子供には優しいらしい。
【レックス様やヘラ様が幼い頃も、ご両親に隠れてこっそり甘いものを与えるなど子供好きな一面をみせていらっしゃったようです】
『炎狂い』が子供好きなんて、きっと貴族界隈では信じてもらえないんだろうなあ。
実際目の当たりにした僕ですらまだ半信半疑だし。
「ちなみになんですが、サクリは既に魔法使い系統の才能に目覚めています」
せっかくの機会なので二人とは情報共有をしておくことにする。
僕がどう抵抗したところでサクリを鍛えようとするだろうし、エイミーちゃんがそれに乗り気なら、僕に止めることは不可能だ。
ユミカのパーフェクトヘッセリンク化計画を止められなかったことで証明済みだからね。
「ほう。まだ生まれて間もないのにそう断言するということはそれなりの根拠があるのでしょうね?」
「赤子のうちから才能が表れるとは末恐ろしいが、大丈夫なのか? エイミー嬢は火魔法使いと聞いている。まだ意思のはっきりしない赤子が弾みで火魔法など使ったら一大事だ」
パパンの心配はごもっとも。
何かの弾みで屋内で火魔法なんか使われたらとんでもない騒ぎになるだろうし、世話役には消火の役割を果たす水魔法使いでも雇わないといけないだろう。
「ご心配なく。サクリは、僕と同じ召喚士です!」
ドヤ顔で披露した僕に対して、二人の反応は淡白なものだった。
【やだ、ドヤ顔恥ずかしい】
言うな、自覚してるから。
「召喚士? 二代続けて同じ才能に恵まれるとは珍しいですね。歴代でもあまりなかったのではないですか?」
「初代様と二代目が似たような能力をお持ちだったはずですが、それ以外では聞きませんな」
へー、そうなんだ。
まあ、グランパ、パパン、僕と三代見ただけでも被ってないからね。
被らないことがスタンダードで、僕とサクリがイレギュラーなのか。
「そういうことなので、サクリの教育は僕自ら行うのが適切でしょう。召喚士は召喚士が育てるのが最も効率がいいはずですから」
割と本気で言ったつもりだったんだけど、グランパが疑いの目を向けてくる。
え、同系統なんだから他の魔法使いより教えられることは多いと思うんだけど。
「普通ならそうでしょうが……。レックス。お前は召喚の仕組みをしっかり言語化できるのですか? まさか、グッとやってパッ! なんて感覚に頼っているんじゃないでしょうね?」
「……まさかそんな。ははっ」
盲点だった。
そう言えば僕、召喚の仕組みなんて一つも理解してなかったんだった。
娘に教えてあげられることなんて、召喚獣を心から愛しなさいということくらいだ。
「はあ……。そんな状態で何をどう効率よく育てると言うのですか。親子揃ってなんとなくで力を振るい過ぎる」
なんとなくで力を振るうことに関しては、『炎狂い』なんて呼ばれているグランパに言われたくない。
そんな思いが顔に出たのか、パパンが僕の肩に手を置き、ゆっくりと首を振った。
「レックス。気持ちはわかるがこの点については私達の分が悪い。この年寄りは生き様こそ風任せだが、力の使い方だけは理論的だからな」
え、そうなの?
グッとやってバッ! みたいなよく言えば天才理論、悪く言えば一切考え無しで魔法使ってるから『炎狂い』なんて呼ばれてるんだと思ってた。
「『炎狂い』が理論的とは。世間一般的にはあまり信じてもらえなさそうですね」
僕の感想に余計なお世話ですよと苦笑いを浮かべたグランパが、サクリあやしながら言う。
「それで? サクリはどんな魔獣を召喚したのですか? レックスの力を受け継いでいるなら脅威度の低い狼系統でしょうかねえ」
「いえ、竜種です」
重大な報告は余計なことを付け加えず、事実を端的に。
流石にこれは予想外だったのか、グランパもパパンも興奮気味のリアクションだ。
「それはそれは! 凄いじゃないですか! 可愛いうえに才能も豊かなんて。ほら、偉いサクリはじいじが高い高いしてあげましょうねえ」
「竜種、か。まさかお前のように複数を従えているわけではなかろうな? 複数召喚ですら前代未聞と騒ぎになったのだ。それが竜種となると大変なことになるぞ」
複数の竜を操るドラゴンマスター、サクリ・ヘッセリンク。
最高にかっこいいけどそんな事実はない。
「ご心配なく。サクリが従えているのは一体だけです。ただ、問題なのはその脅威度なのですが」
ディメンションドラゴンなんですよねーと伝えようとしたその時。
グランパに高い高いされてご機嫌だったサクリがハイテンションで声を上げる。
「うー、だ! ぴーてゃ! ぴーてゃ!」
あ、喚んじゃったか。
サクリの声に導かれて、漆黒の空間からピーちゃんが飛び出して地面に着地する。
「ふむ。竜は竜でも幼体なのか? いや、それよりも今の現れ方は昔どこかで……」
よちよちとサクリに向かって歩くピーちゃんにパパンが近づくと、基本温厚な幼竜が羽を広げて小さな牙を剥き出した。
可愛いけど、多分威嚇のポーズだな。
「おやおや、珍しい。ピーがこんなに怯えて威嚇するとは。父上が怖いのか?」
威嚇されて悲しげなパパン。
「元々生き物に好かれるタチではないが、ここまで怯えられるのは悲しいものだな。ああ、話しの途中だったか。脅威度がどうとか」
「そうでしたね。この幼竜ですが、脅威度S。ディメンションドラゴンで間違いないかと」
「ディメンションドラゴンだと!?」
予想外過ぎたのか、パパンの声が地下に響き渡った。
威嚇のポーズから一転、羽をたたんでうずくまり小さくなるピーちゃん。
「ああ、すまない。そんなに怯えないでくれ。大きな声を出して悪かった。なるほど、どうりで先ほど現れた黒い円を見たことがあるわけだ」
そりゃあ一戦交えてますからね。
しかし、この怯え方を見ると、あのディメンションドラゴンとこのピーちゃんは同じ個体なんだろうか。
「落ち着いていらっしゃいますね」
仮に同じ個体じゃないにしても、自らを死に追いやった魔獣と同じ種が目の前にいるのに、パパンは興味深そうにピーちゃんを眺めている。
「それはそうだろう。あの時私がディメンションドラゴンに敗れたことはあくまでも私の力と知識が及ばなかったことが原因だ。種全体を恨むのは筋が違う」
怯えるピーちゃんに構わず抱き上げると口元を軽く撫でたりと可愛がり始めるパパン。
さすがはメンタル強者だ。
「しかし、これはいいな。この子が成長したら、またディメンションドラゴンと戦うことができる可能性があるということだ。くっくっく、次は負けぬぞ」
「やめてください父上。ピーの震えが止まらなくなっております。召喚主のサクリに嫌われても知りませんよ?」
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