第349話 振り返れば奴がいた

 自分よりママンを優先する態度を見せたパパンに苦笑いを浮かべつつ旧交を温める王様。

 そんな光景を見ながら、お供のおじさま方もほっこりしている。


「なかなか感動的じゃな。友情というのも捨てたものではないのう」


「そうですな。いや、陛下とジーカス殿が親しくしていたことは存じ上げていたが、ここまで深い絆があったとは」


 友達の多そうなカナリア公とアルテミトス候がうんうんと頷きながら笑みを浮かべる。


「然り。レプミアにおいてはお互い孤高の存在。そういった点でも響き合うものがあったのでしょう」


 最高権力者な王様と、西の支配者ヘッセリンク。

 いや、パパンは孤高だったかもしれないけど僕はそうでもないですよ?

 朝まで飲み明かせる友達もたくさんいるしね。

 僕より前のヘッセリンクが孤高だった。

 ここは重要なポイントだ。


「ヘッセリンクが表立って国王と馴れ合うなど前代未聞だと頭を抱えたのが懐かしいね。王城側はヘッセリンクを警戒し、ヘッセリンクは王城側の想像の範囲を全力で超えにいく。そんな緊張感溢れる間柄だったのに、よりによって義息が国王とお友達なんだよ? 均衡が崩れるんじゃないかと焦ったものさ」


 リアル孤高なラスブラン侯が言うと、アルテミトス侯が高らかに笑う。

 

「はっはっは! 確かに。ヘッセリンクと王城は犬猿の仲というのが大方の見方ですからな。どちらかというと、傍若無人なヘッセリンクに振り回されて頭を悩ませるのが王城側という印象だが」


 それは本当にそう。

 文官の皆さんには本当にお世話になっております。

 まあ?

 こちらも?

 王様の無茶振りには頭を抱えてますけどね?


「それを言うなら当代と王太子殿下の間にも確かな信頼関係があるようだ。狂人ヘッセリンクも、時代と共にいい方に変わっているのかもしれない」


 家ごと丸くなっているのは果たしていいことなのか悪いことなのか。

 もしかしたら時を経て僕の子孫が尖っていくのかもしれないけど、とりあえずサクリがヘッセリンク的に尖らないようにだけ注意しておこう。


「私が現役の頃も陛下との仲は良好でしたよ? 先ほどラスブラン侯が言ったような事情で大っぴらにはできませんでしたけどね。ヘッセリンクと王城が近づくと、小物達が騒ぎ立てて鬱陶しいので」


 へえ、グランパも当時の王様と仲良かったんだ。

 意外だな。

 この人なら王様だろうが宰相だろうが気に入らなければ燃やしてそうなものなのに。


「そうそう、貴方が現役の頃は……。ん? 現役の頃? うおっ!?」


「!? な、貴方は」

 

 アルテミトス侯とカニルーニャ伯のナイスリアクションに、グランパも満悦顔だ。

 イタズラ大成功! みたいな顔で二人の肩に手を置いている。


「二人とも反応が遅いですよ? 特にロベルト君。いくら油断していたとはいえ、初めから私がいたことに気づかないなんて。『鉄血』も衰えたのではないですか?」


 アルテミトス侯をロベルト君呼びなんて新鮮だ。

 そのロベルト君は顔面蒼白でワナワナ震えている。


「プラティ殿、か? いや、確かにヘッセリンク伯に貴方もいるとは聞いていたが」


「疑っているのなら久々に燃やされてみますか?」


 『炎狂い』ならではの誘いにブンブンと音が聞こえるレベルで首を振るロベルト君。

 『燃やされてみますか?』だけで身分証明になるなんて、流石はグランパだ。


「勘弁していただきたい! 貴方のそれは洒落にならないのだと何度も言っただろう!」


「洒落ではありませんからね。ああ、アイル君も久しぶりですね。孫がお世話になっているようです。ヘッセリンクらしい暴れ馬ですが、これからもよろしく頼みますよ」


 アイル君?

 ああ、カニルーニャ伯か。

 おじさま方のファーストネーム、わかりづらいな。


「お久しぶりです、ヘッセリンク伯。いや、ややこしいので、プラティ殿と」


「構いませんよ。なんといってもこの穴倉には大量のヘッセリンク伯爵がたむろしてますからね」


 たむろって、ヤンキーじゃないんだから。

 まあ、アルテミトス侯の反応は地元のヤバい先輩に会った後輩のそれだったけどさ。


「いやあ、いい反応をするではないかアルテミトスの。お主の『うおっ!?』などという焦った声、初めて聞いたわい」


 僕とカナリア公、ラスブラン侯は最初からグランパがいることを知っていたけど、お二人には秘密にしていた。

 グランパも気配を消してずっと二人の背後でニヤニヤしていました。


「若い頃、これでもかとコテンパンにやられた『炎狂い』殿との再会です。それは変な声も出るというものでしょう」

 

「コテンパンにとは人聞きの悪い。私は時の陛下に頼まれて生意気な若手貴族を指導しに国軍に出張っただけです」


 カニルーニャ伯の話では若い頃相当尖っていたらしいアルテミトス侯。

 その矯正のために国軍に派遣されたのがグランパだった、と。

 どう考えても当時の王様が人選を間違ったと言わざるを得ない。


「その生意気な若手から言わせていただければ、目が合った瞬間から日が暮れるまで炎を投げられ続けるのは指導とは呼びません」


 とんでもない指導してた!!

 しかし、そんなアルテミトス侯の指摘にも、グランパは涼しい顔を崩さない。


「いやあ、ひと目でわかりましたよ? ああ、生意気なのはこの子だなと。それを考えれば君も落ち着いたものです」


「こんな化け物がいるなら自分如きが調子に乗ってはいけない。そう理解しただけです」



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