第347話 情報共有

 僕の育成方針議論を一旦中断したおじ様方がお茶で喉を潤すのを見て、改めて王様が口を開く。


「ヘッセリンク伯。例の件はどこまで知らせてある?」


 例の件。

 それはもちろんグランパやパパンの件だ。


「申し上げます。カナリア公とラスブラン侯は既に対面済み。アルテミトス侯、カニルーニャ伯にはまだお伝えしておりませんが、お二人になら構わないかと」


 せっかく信頼できる皆さんが集まってくれているんだ。

 あとで自分だけ教えてもらってない! ということになっても面倒だし、ここはみんなで情報共有といこうじゃないか。


「この席にいないセアニア男爵には?」


 王様が言うとおり、セアニア男爵は王様に挨拶を済ませた後すぐに退室している。

 その際、僕に耳打ちした内容は流石だと言わざるを得ない。


「集まった面子を確認されて何か察するものがあったのでしょう。『何があっても自分は関知しない』と仰っていました」


 上の方で勝手にやっておけ、絶対巻き込むなよ? ということだ。

 この部屋にいる一癖も二癖もある大貴族方と比べれば優しいおじ様といった面が目立つセアニア男爵だけど、ベテラン貴族の危険察知能力を見た気分だ。


「相変わらず賢い男だね。断られたけど、昔私の派閥に誘ったこともあるんだ」


 ラスブラン侯が楽しそうに笑うと、カニルーニャ伯がなるほどとばかりに頷く。


「ああ。確かに当代のセアニア男爵はどこかラスブラン侯と似た雰囲気がありますな」


 あとでセアニア男爵に聞いてみよう。

 ラスブラン候に似てるなんて、多分否定するだろうけど。

 

「では、ヘッセリンク伯から改めて説明を。アルテミトス侯、カニルーニャ伯。心して聞くように」


 王様の雰囲気に、名前を呼ばれた二人が居住まいを正す。

 では、説明させていただきましょう。


「先日ご案内した屋敷裏手の地下空間のことです。お二人は、あの空間をどうご覧になりましたでしょうか」


「温泉ではないのか?」


 不思議そうに首を傾げるアルテミトス候。

 カニルーニャ伯もその言葉に頷くと、笑顔を見せた。


「ええ。なかなかの泉質と見ました。娘と孫の顔を見がてらあの温泉に浸かりに来るのもありでしょう」


「おや、これはずるい。オーレナングを訪れる大義名分をお持ちだとは」


 地下の真実を知らないおじ様二人がキャッキャしてるのを、既に何が起きるか知っているカナリア公とラスブラン候が生温かい目で眺めている。

 では、驚いてもらおう。


「温泉が湧いているのも事実ですが、あの空間は、初代ヘッセリンク伯爵ペレドナ・ヘッセリンクの墳墓でございます」


「なんと! ヘッセリンク伯爵家の始祖、初代護国卿の!?」


「ああ、まだ驚くに値する報告はしておりません。落ち着いていただいて結構です」


 早い早い!

 そこじゃないのでもう少し待ってください。

 もっとすごいこと言いますから。


「ヘッセリンクにしてみれば歴史的発見だろうに。まだ驚くなと言うからには、それを上回る何かがあるということか」


「いい予感が全くしませんな。一応尋ねるが、聞かないという選択肢は?」


 眉間に皺を寄せたお義父さんが僕に投げかけた質問に、王様が食い気味に回答する。


「ない。余は、ここにいる全員が共犯者となることを望む。そして、ここで見聞きしたことを、この場にいる者以外に漏らすことは許されぬ。もしこれを破った場合、重い罰が与えられると心得よ」


 共犯者って。

 そこまで悪いことじゃないので安心してほしいんだけど、王様がそこまで言うということはよっぽどのことなんだろうと察し、二人が頭を下げた。

 

「陛下の御心のままに」


 満足げに頷いた王様が改めてこちらに視線を寄越す。

 

「では。初代ヘッセリンク伯爵ペレドナ・ヘッセリンクの墳墓。そこには歴代ヘッセリンク伯爵達の魂が囚われており、姿を見ることはもちろん、会話や触れ合うことすら可能となっております」


「……なに?」


「そして、この墳墓の役割ですが」


「待て待て待て待て! 待たぬかヘッセリンク伯! 明らかに戸惑っているだろうに説明を続けようとするな!」


 ナイスツッコミですアルテミトス候。

 キレッキレじゃないですかあ。

 お義父さんはあまりの内容に言葉を失っていらっしゃるようだ。

 珍しいのであとでエイミーちゃんに教えてあげよう。


 数分間重苦しい沈黙が続いたあと、ようやくフリーズから復帰したカニルーニャ伯が首を振りながら言う。


「ヘッセリンク伯に絡んだ事件は数あれど、流石にはいそうですかと即納得はできないだろう。できないはずだなのだが、陛下、カナリア公とラスブラン侯のお三方が真実だと確信されているご様子」


 この国で、この三人が白と言ったことを黒と言える人間がどのくらいいるだろうか。

 ゲルマニス公くらい?

 利益が絡めばロソネラ公もいけるかもしれないが、要はほぼいないということだ。


「そうじゃな。先にヘッセリンクのが言うたが、儂とラスブラン侯は既に実際顔を合わせておる。プラティ・ヘッセリンクとジーカス・ヘッセリンクの二人とな」


「プラ!?」


「『炎狂い』と『巨人槍』!?」


 ナイスリアクション!

 カナリア公もイタズラが成功したとばかりに満足げに笑みを深めている。


「驚け驚け。儂らは言葉を交わすだけではなく殴り合いも済ませておるぞ?」


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