第340話 王様VSカナリア・ラスブラン
呼び出し当日。
カナリア公、ラスブラン侯と一緒に登城すると、王城玄関がピリつくのがわかった。
わかるよ。
犬猿の仲なことで有名なカナリア公とラスブラン侯が揃って姿を現したんだ。
衛兵の皆さんの緊張ここに極まれり。
迎えにきてくれた宰相の部下の先導で案内されたのは、玉座の間。
今回の招集は内容が内容なだけに非公式扱いらしいけど、この部屋を使うというところに王様の本気を感じる。
「忙しいところ呼び出してすまぬな。カナリア公、ラスブラン侯。ヘッセリンク伯もご苦労」
公式なら王冠やらマントやらを装備してる王様だけど、この日は表向きには非公式ということでゆったりとしたリラックスした服装で玉座に座り、声をかけてくる。
「陛下からのお声掛けに即応するのは我ら貴族の役目。お気になさらず」
「カナリア公の仰るとおり。我らは陛下の忠実なる
大貴族二人が絶対に思ってない白々しい台詞と共に膝をついたので、僕も動きを合わせる。
王様も二人の言葉に心がこもってないことには気づいてるだろうけど、いちいち突っ込まず浅く頷いた。
「長い間貴族家当主の座を守る二人にそう言ってもらえるのは頼もしい限りだ。さて、挨拶はこのくらいにしておこうか」
普段なら、ここから慣例という名の中身のない言葉のラリーが始まるのに、王様はいきなり本題に入る構えを見せた。
もちろん爺様貴族はそれを見逃さない。
「おやおや。久しぶりにお会いしたのに近況のご報告もさせていただけませんか?」
大袈裟に両手を広げてそうアピールするお祖父ちゃんに対して、王様は軽く笑ってそのアピールを流していく。
「はっはっは。何を言うラスブラン侯。まさに近況の報告をしてもらうために貴公らを呼んだのだ。先に伝えていたとおり、二人してオーレナングに向かった際の話を、な」
突然全開になる王様オーラ。
あ、怖い。
最高権力者の圧に冷や汗が背中を伝う。
しかし、ラスブラン侯にその圧は届いていないようで、ニコニコというかヘラヘラといったほうが適切な笑いを浮かべている。
「と仰ると、この友人と、可愛い孫の顔を見に行った際の話をすればよろしいのですか?」
「カナリア公が嫌そうな顔をしておるぞラスブラン侯」
本当だ。
お祖父ちゃんに友と呼ばれたカナリア公が苦い顔をしています。
こんな場面でも嫌なものは嫌だと顔に出すメンタル強者に、僕もなりたい。
「ヘッセリンク伯から不思議な話を聞いてな。なんでも、亡くなったはずのプラティ・ヘッセリンク、ジーカス・ヘッセリンクがこの世にとどまっているとか」
そんなメンタル強者二人のペースに巻き込まれないぞとばかりに早々に核心に切り込む王様。
さてどうやって躱そうかと考えを巡らせていると、ラスブラン侯が一歩進み出る。
この状況にあって、情報戦の雄、ラスブラン侯の背中はとても頼もしい。
上手く誤魔化して下さいお願いします!
「そうですな。私もカナリア公もプラティ・ヘッセリンク、ジーカス・ヘッセリンクの両名と言葉を交わしました。……、なにか?」
認めたー!!
王様もびっくりだ。
カナリア公だけがノーリアクションなのはこの展開を読んでたからなんだろう。
学生時代の先輩への篤い信頼か。
「あのラスブラン侯があっさりと認めたことに驚いただけだ。いつものとおりのらりくらり躱そうとするものとばかり思っていたからな」
皮肉とも本気ともとれる王様の言葉に、ラスブラン侯は軽く肩をすくめた後、なぜか僕に視線を向ける。
「この孫が全て吐いた後です。誤魔化すのは悪手でしかありません。オーレナングの地下に歴代のヘッセリンク伯爵が囚われており、言葉を交わすことはもちろん殴り合うことも可能です」
はい、僕がフルオープンしたあとですからね。
ここで誤魔化すのはダメだよ、と。
お祖父ちゃんからの授業だなこれは。
「殴り合ったのか?」
「ええ。このカナリア公とともにプラティ・ヘッセリンクに挑みましたが……相変わらずの火力でございました」
火力が言葉そのままの意味なのが笑えないところだけど、王様は先程までの圧もどこへやら。
少年のように瞳を輝かせながら身を乗り出した。
「そうか! では、ジーカス・ヘッセリンクとも言葉を交わせるのだな?」
ああ、パパンと王様は仲が良かったんだった。
王様と友達とかどんな手順を辿ったのか今度聞いてみよう。
もうオーレナングに行くことを決定したような顔をしている王様。
しかし、そこに釘をぶち込むのは表情を引き締めたラスブラン侯だった。
「なりませんぞ、陛下」
「何も言っておらんだろう」
王様も自分の言葉に説得力がないことを自覚しているのか、やや目が泳いでいる。
そんな最高権力者相手に、お祖父ちゃんは追及の手を緩めない。
「顔に書いてございます。自分もお忍びでオーレナングに向かうぞ、と。お気持ちはわかりますが、おやめ下さい」
うん。
ヘッセリンク伯爵としても本当にやめてほしい。
王様がお忍びで遊びに来る?
考えただけでも胃が痛くなるよ。
「自分たちだけずるいではないか。余も二度と会えぬと諦めた友と言葉を交わしたく思う」
おじさんの可愛いわがままだけど、残念ながらここにはおじさんしかいないので可愛い! の声は上がらない。
その代わりに、ラスブラン侯からは意外な言葉が発せられた。
「オーレナングに向かうことをやめろとは申し上げておりません。お忍びで向かうのをやめていただきたい」
「なに?」
「ラスブラン侯の仰るとおり。陛下。せっかくオーレナングに向かうのなら、こそこそせずに大々的に向かわれたらよろしい」
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