第339話 落雷
王様に全部吐かされました。
もちろん吐瀉の方ではなく、情報のほうを。
酔いが回っててほとんど覚えてないけど、地下の施設のことや担う役割、そこで会える人達のことまで全部。
王城にある客間で寝かされ、夕方起きてから全部知られてることに愕然とし、漏らしたのが僕自身だと言われて絶望した。
さらには、陛下への報告前にカナリア侯とラスブラン侯が先行して地下に潜ったことについて思うところがあるようで、無事二人も招集されることになった。
大先輩を事故に巻き込んでしまうなんて。
とりあえずお酒をやめよう。
……いや、控えることにしよう。
「やってしまいました」
「馬鹿者め。流石に儂も陛下からは庇ってやれんぞ?」
偶然国都に滞在していたカナリア公に雷を落とされる覚悟で頭を下げに行くと、意外にも苦笑いで軽く背中を叩かれただけだった。
「カナリア公にご迷惑をおかけすることになるとは。本当に申し訳なく」
「やってしまったことは仕方あるまい。個人的には面白くて仕方ないしのう。ただ、まさかラスブラン侯まで招集に即応するとは思わなんだ」
早々に陛下にゲロったことを知って、屋敷で腹を抱えて笑ったらしい。
笑い死にさせるつもりかと言われたけど、いや、こっちは気が重くて仕方ないです。
「ラスブラン侯に事情説明の文を送ったところ、物理的に無理だろうという速度で返信が届きました。『すぐに国都に向かう。説教は顔を合わせてからだ』と」
シンプル過ぎて怖いんだよお祖父ちゃん。
ただでさえ苦手なのに、こっちが完全に悪いという立場でお説教とか泣いちゃうよ?
「ならば大人しく説教されておけ。まあ、そうきつくは叱られんだろう。炎狂いのように暴れろと言われておるのじゃろう? プラティ・ヘッセリンクなら頭を抱える陛下を見たいなどというふざけた理由で情報を漏らしておるわ」
「まさか。流石にお祖父様もそこまでは」
「そこまでやるからこそのプラティ・ヘッセリンクよ」
数日後。
ラスブラン侯が国都に到着したと連絡があったのですぐにアポを取って屋敷に向かう。
カナリア公同伴だ。
理由?
面白そうだからだってさ。
今回の件を楽しみ尽くそうとしてるなこの人。
「この……、大馬鹿者が!!!」
カナリア公の嘘つき!
部屋に入って顔を合わせた瞬間の落雷。
お祖父ちゃんすごい怒ってるじゃないですかやだー。
「これはこれは。あの冷静ぶったラスブラン侯の怒声とは珍しいのう」
カナリア公も口調は軽いけど目を見開いてるので予想外だったらしい。
そうですよね。
お祖父ちゃんは淡々とネチネチと叱るタイプだからこの怒声はレアだ。
とは言うものの、こんなに嬉しくないレア獲得もないので速攻で頭を下げていく。
「ラスブラン侯。お怒りはごもっともです。言い訳の余地もごさいません」
腰の角度は90度。
そう、直角。
「ヘッセリンク伯。いや、我が孫レックス。私が何に腹を立てているかわかるかい?」
個人的にはこれ以上ない速度と角度の謝罪だったはずだが、ラスブラン侯から掛けられたのはそんな問いだった。
「それは、私が迂闊にもオーレナングの地下に眠る施設について陛下に漏らしてしまったことでしょう。あれだけ情報を制限するべきだと考えていたのに、不覚です」
これは本音だ。
不覚も不覚。
レックス・ヘッセリンクとしての最大の失敗だと言ってもいいだろう。
しかし、ラスブラン侯は深いため息を吐きながら首を振る。
「やはりわかっていない。私が腹を立てているのはそこではないよレックス。その情報が陛下に伝わること自体は問題ない。遅かれ早かれというやつさ。問題は情報の漏れ方だ。泥酔してうっかり話しました? 浮気がばれる理由かと呆れたよ」
なんだろう、酔って浮気がバレたことでもあるんだろうか。
なんて聞ける雰囲気ではない。
口調が落ち着いただけでお祖父ちゃんの目はバッキバキだから。
「これがプラティ・ヘッセリンクなら、この情報で王城を強請って人を引き抜くなり金銭を要求するなりしていただろうね」
悪人の仕業だろそんなの。
まあ、グランパは善人か悪人なら悪人寄りだけど。
「いいかい、愛する孫よ。いずれバレる情報なら可能な限り早く、かつ高く売り飛ばしなさい。今回のようにタダで持っていかれた上に立場まで弱いなんて、悪手も悪手。大悪手だ」
父方の祖父も母方の祖父も揃って悪者ムーブが基本なのはどうしてだろう。
言ってることは理解できるんだけど、愛する孫へのアドバイスにしては裏社会臭が凄い。
「そう叱ってやるな。仕方あるまい。こやつにはそういう悪辣なやり方を仕込む先達が足りんのだからな。カニルーニャにしてもアルテミトスにしても基本は正攻法じゃろ?」
確かに僕がお世話になってるおじ様方はストレート主体で、ラスブラン侯のような変化球主体ではない。
「プラティ先輩やジーカスに比べると優しすぎるようだからね、レックスは。仕方ないか。私が定期的にオーレナングへ」
「阿呆かあんたは。どこの侯爵様が孫の指導のために仕事をほっぽり出して定期的に遠征するんじゃ。そもそもオーレナングに行きたいだけじゃろうが」
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