第328話 真似をしてはいけません
「えー、それぞれ多忙ななか、急な呼びかけにも関わらず集まってくれたことに感謝する。お代は僕持ちだから今日は好きに飲み食いしてくれ。では、乾杯!」
さあ、始まりました第一回レプミア若手貴族懇親会。
参加者は、王立学院史上最大派閥と呼ばれた狂人派より、リスチャード・クリスウッド、ミック・サウスフィールド、ブレイブ・ロンフレンド。
さらに、ヘッセリンク派を自称する若手貴族の集いより、アヤセ・ラスブラン、ダイゼ・エスパール。
そして、ガストン・アルテミトス。
若干ガストン君が緊張気味だったけど、兄貴肌なミックが積極的に声を掛けて解してあげていた。
今日もいつもの酒蔵の商品を大量に購入させてもらっている。
すっかり常連だ。
「しかし、今回はどのような趣旨でこのような席を? いや、俺のような者も誘ってもらい大変嬉しかったのだが」
ある程度酒が進んだところで、ガストン君が声をかけてくる。
ブルヘージュ絡みで遠征した時以来だけど、一層引き締まって親父さんに似てきたな。
角刈りにしたら瓜二つだ。
「僕達は将来にわたってレプミアを支えていく重責を担っているわけだが、いかんせん同世代間の横のつながりが薄いように感じたんだ」
「特にあんたはぺらっぺらだものねえ」
リスチャードが杯片手にヘラヘラと笑う。
ぺらっぺらだとう!?
うん、否めない。
「歴代、ヘッセリンクとはそういうものだからな。なにもレックスだけのせいではないだろうが……、まあ特に薄いか」
フォローするなら最後まで責任持ちなさいよミック。
諦めないで。
「まあ、確かに友人が少ないという言い方もできるかもしれないな。はっはっは!」
自虐混じりのヘッセリンク・ジョークに腹を抱えて爆笑する学友三人。
僕のジョークがここまで刺さったのは初めてじゃないだろうか。
一方、歳下組は流石に笑うことはせず、むしろ真面目な顔のアヤセがぐっと距離を詰めてくる。
「ご安心ください。兄上に会いたいと、可能であればお言葉をいただきたいと熱望する若手貴族は相応におります。そうだな? ダイゼ」
「間違いございません。今回も我ら二人がヘッセリンク伯のお声掛けで酒宴に参加させていただくことを仲間達に伝えたところ、なぜお前達だけと非難轟々でしたから」
知らないとこで大人気のようだ。
サイン会でも開いちゃおうかな。
「世も末よねえ。ヘッセリンクとお近づきになりたい人間が増えるなんて」
「歳の近い者達がヘッセリンク伯に興味があるということは間違いない。俺も同僚から、帰ったら話を聞かせてくれと頼まれた」
リスチャードの言葉を受けてガストン君がフォローを入れてくれる。
いやあ、本当に成長したんだね。
これからも仲良くしようねえ。
「あとは父からも詳しく報告するよういわれている」
事情が変わりました。
え、この飲み会の顛末をアルテミトス侯に?
なんで?
「ああ、それは私もだ。帰り次第最優先で報告をあげるよう厳命された」
理解が追い付かず驚いていると、なんとダイゼも同じような指示を受けていると言う。
どこの親が子供の飲み会の詳細を知りたがるんだよ。
「恥ずかしながら私もです、兄上。ただの私的な宴会だと伝えたのですが、祖父も父もなにかあるのではないかと勘繰っているようで」
ラスブラン、貴方がたもか。
「それはそれは。アルテミトス、エスパール、ラスブランという錚々たる面子に動向を注視されているとは」
ただの懇親会であってそれ以上でもそれ以下でもないからそれぞれ報告をあげてもらって構わないけど、ただただゆるい会話が続くだけの薄っぺらいレポート出されても困るだろうに。
「それだけじゃないな。恐らく、今挙げた家から王城に報告が上がっていると思ったほうがいい」
恐ろしいことを言い出すブレイブ。
王城?
王様とか宰相がいるあそこですか?
「……なぜ?」
「あのレックス・ヘッセリンクが主催する宴会だぞ? しかも参加者が参加者だ。本当に宴会なのか、何か良からぬことを企んでいるのではないか。そう思われてもなんら不思議ではないだろう」
「いやいや、不思議だろう。王城に監視されながらの親睦会なんて聞いたことがないぞ」
レプミアの未来を担う若手の親睦会が一転、レプミアの未来に影を落とす裏組織の会合に早変わりだ。
「おめでとう。この宴会が史上初ってことね」
否定してよマイフレンド。
そんな史上初を達成して両手を上げて喜ぶほどネジ緩んでないんだよ僕は。
「流石は兄上。人が歩いたことのない道を歩んでいらっしゃる。見習いたいものだ」
こちらはネジ緩み気味のアヤセの発言だが、恐ろしいことにダイゼとガストン君は真剣に頷いている。
「見習うのはやめたほうがいい。人が歩いたことのない道どころか、例えそこが毒の沼地でも、一歩踏み外したら終わりの崖の上でも、半笑いを浮かべて全速力で駆け抜ける。それがレックス・ヘッセリンクだ」
「そうそう。あたし達みたいな普通の貴族はそれを見て指差して笑うくらいがちょうどいいのよ」
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