第327話 若手飲み会の計画

 連日地下からメアリの悲鳴が聞こえるなか、パパン成分を補給し終えたママンがようやく国都に戻るというので、護衛がてらに同行することにした。

 ついでに、先日ふと思いついた若手貴族の飲み会も実現するべく親友リスチャードに国都で会おうと文を出すと、すぐにOKの返事が返ってくる。

 レスポンスの速さは、僕と会いたいからではなくヘラに逢いたいからだろう。


 僕たちが国都に到着するのとほぼ同時というタイミングで、リスチャードとクリスウッドに勤めている友人ブレイブも国都に入ったと連絡があった。

 善は急げ。

 さっそく我が家に招待して呑みながら構想を練ることにする。

 

「アルテミトス、エスパール、サウスフィールド、ロンフレンド、ヘッセリンクにクリスウッド。なかなかの面子じゃない? ほんとに集まるの?」


 久しぶりのヘラとの時間を堪能してニッコニコのリスチャードが、首を傾げる。

 確かに家名だけなら錚々たる面子だけど、個人的な関係性が築けている男ばかりだから大丈夫なはずだ。

 

「ああ。恐らくな。面白い催しだと思わないか?」


「面白いか面白くないかで言えば面白いとは思うけど。しかし、若手貴族の集いねえ」


「カナリア公とラスブラン侯もそうだし、アルテミトス侯とカニルーニャ伯もそうだが、やはり同じ時代を駆け抜けた方々の絆というのはいざという時に強さを発揮すると思うんだ」


 二組ともそんなにベタベタするわけじゃないし、カナリア公達に至っては犬猿の仲っぽいけど、なんだかんだで連帯感みたいなものを感じた。

 それはきっと長年の付き合いで培われたもので、僕のような若造に測れるものではない。

 ただ、その連帯感はこの先難局が訪れた時、それを乗り越える力になるはずだ。

 僕の言葉にブレイブが頷く。


「言わんとすることはわかるよ。いつか我々世代が中心となって国を運営する時が来る。その時になって慌てて関係を構築しようとしても遅いというわけだな?」


「ああ、そのとおり」


 流石は狂人派の頭脳ブレイブ。

 話が早い。


「なんか、嘘くさいわね。他の目的がありそうだけど……」


 おいおいマイベストフレンド。

 いや、敢えて義弟と呼ぼうか。

 僕は心からレプミアの未来を憂いて同世代の連帯感を醸成しようと試みているわけで。


【先代様に友達が少ないと思われていることに腹が立った。それが出発点ですものね】


 そんな事実はないが、とりあえずお口にチャックだコマンド。

 

「まあいいか。あたしもアルテミトスとエスパールと絡んだことないし、いい機会だと思っておくわ」


 勘は鋭いけど細かいことは気にしない男前なリスチャード。

 いや、未来のためにみんなで仲良くしようというのがメインの目的なのは間違いない。

 パパンに友達がいることをアピールするのはサブの目的です。

 

「アルテミトスのガストン殿もエスパールのダイゼ殿も気のいい男達だ。きっと仲良くやれるさ」


「あんたと上手くやれてるんだからそりゃそうでしょうね。ヘッセリンクなんて基本的には敬遠される存在なんだから」


 その敬遠されてる家の長男と親友で、なおかつ長女と相思相愛の変人がヘラヘラ笑ってるんじゃないよ。


「酷い言われようだな。まあ、僕の代で狂人という評価を改めて見せるさ」


 脱・狂人。

 これがヘッセリンク伯爵として僕が成し遂げなければいけない一大テーマだ。

 次代には、『ヘッセリンクさんちは穏やかで付き合いやすいわ』って言われるくらいノーマルな家にしてみせる。

 サクリ、お父さん頑張るよ!


「頓挫する方に酒をひと瓶賭けるとしよう。いや、これでは賭けにならないか?」


「そんなことないわよ。あたしはレックスの代でヘッセリンクの狂人っぷりに拍車がかかるほうに賭けるから。秘蔵のお酒、全賭けで」


「なるほど、その選択肢は思いつかなかったな。これは私の方が分が悪そうだ」


 僕の決意を嘲笑うかのように賭けの対象にする友人二人。

 大穴の目的達成に賭けて夢見ようぜ?


「言っていろ。そのうちお前達のもってる酒を全て巻き上げてやるからな」


「それは楽しみね。あ、ブレイブ。ちょっとレックスと二人きりで話したいことがあるから外してもらっていいかしら?」


「ん? ああ。では先に休ませてもらおうか」


 唐突なリスチャードの切り替えに何かを察したブレイブが、抵抗することなくあっさりと部屋を出ていく。

 余計なことは聞かない。

 信頼できる男だよ。


「それで? 詳しいこと教えてもらおうかしら。先代、ジーカス・ヘッセリンクが生きてた、だったわね」


 リスチャードへの文にはその事実を盛り込んであった。

 ヘッセリンク以外の人間に地下施設の事実を話すのは彼までだ。

 余計な混乱を招かないためにも、秘密を知る人間は最小限に留めておく。


「生きてはいないさ。ちゃんと死んでる。この世から立ち去っていないだけだ」


「いいのよ詩的な表現は。話ができて殴り合うこともできる。そうよね?」


「ああ。実際殴り合った僕が言うんだから間違いない。『巨人槍』ジーカス・ヘッセリンクが、オーレナングの屋敷裏にある地下施設に確かに存在している」


 僕の肯定に、厳しい表情を浮かべるリスチャード。

 それはそうだろう。

 亡くなったはずの人間と話せて触れ合えるなんて言われて、はいそうですかと飲み込める変わり者は、ママンとラスブラン侯とカナリア公くらいだ。


「そう。あまりそういう非現実的なことを信じない方なんだけど、そこまで言い切るなら本当なんでしょうね」


 そして今日、リスチャードが変わり者の列に加わった。

 厳しい表情を幾分緩めると、深々とため息をつく。


「あーあ。嫌になるわね」


「嫌になるとは?」


「だって、もう一回やらなきゃいけないでしょ? 『娘さんを私にください』ってやつ。しかも次は武闘派の男親? ちょっと鍛え直す時間がほしいところね。殴り合いになるにしても少しはいいとこ見せなきゃ」


「なぜ殴り合う前提なんだ」





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