第329話 来ちゃった♡ season3

「とりあえず、この宴に注目している皆様には、僕が数少ない友人達と酒を酌み交わしたいがために催したものだと伝えておいてくれ」


 真の目的を友人達の親御さんに知られるのは恥ずかしいが、背に腹は変えられない。

 ただの飲み会なのでなにも心配する必要はないと伝えなければ。

 しかし、世間は時に残酷なもので。


「信じるかしら?」


「信じないでしょうね。いや、兄上が友と呼んでくださることを疑うわけではないのですが」


「我々はレックスのことを知っているから信じてやれるが、親世代はなあ。ヘッセリンクの歴史とレックス自身の華々しい戦果のせいで、『友達と遊びたかった』と言われてはいそうですかとはなるまい」


 リスチャード、アヤセ、ミックと否定の三連発を被弾してしまう。

 真実を語っているのに信じてもらえないなんて悲しいなあ。

 うん、それもこれも歴代のヘッセリンクがヤンチャしてきたせいだな、そうに違いない。


【歴代のヘッセリンクにレックス様もしっかり含まれていますが、それは】


 訂正。

 パパンまでの歴代ヘッセリンクのヤンチャのせいです。

 なんにしても僕主催の飲み会が各方面からマークされることはわかった。

 ならば仕方ない。


「ふむ。では、単発ではなく定期的に開催するか」


「なんでそうなるのよ」


「初めての催しだから警戒されているのだろう? ならばこれが当たり前になってしまえばいいじゃないか」


 開催回数が浅いうちは皆警戒を続けるだろうけど、回を重ねるごとにレギュラーイベントとして認知してもらう。

 そうすれば監視側も警戒する必要がないと理解してくれるはずだ。

 僕のパーフェクトな提案にブレイブが苦い顔で首を振る。


「そう単純にはいかないだろうな。なんせレックス主導だ。私達が集まるたびに水面下で貴族達がざわつき、王城で文官達が奔走するはめになるぞ。警戒が緩まることはないだろうな」


 ブレイブの言葉にダイゼも控えめながら頷いた。


「ブレイブ殿の仰るとおりかと。まあ、今後ヘッセリンク伯の周りで何も騒動が起きないのであればその限りではないのですが……」


 何も騒動が起きなければ警戒も監視されないということかあ。

 なるほど。


「じゃあ無理だな」


「流石は兄上。見切りが早い」


 だってしょうがないじゃないか。

 ヘッセリンクでいる限り、トラブルは向こうからやってくるのですよ。

 初代様からせっせとヤンチャという種蒔きに励んだ結果、トラブル誘因フェロモンを有するのが我が家だからね。

 

 早々に諦めた僕にみんな苦笑いを浮かべていたけど、なぜかガストンだけが身を乗り出してくる。

 

「何も悪いことをしているわけではないのだから、ヘッセリンク伯のしたいようにされればいいのではないだろうか。少なくとも私は呼んでいただいたら駆けつけたく思う」


 そのまっすぐな瞳に思わず抱きしめてしまう。

 なに?

 あの頃の傍若無人な君はどこに行ったというのだろうか。

  

「なに、酔ってるの? 暑苦しいからやめなさいよ」


 リスチャードの言葉で我に帰った。

 危ない危ない。

 もう少しで、「心の友よ!」と叫ぶところだった。

 

「いや、ガストン殿の素晴らしい成長に感極まってしまった。しかし、そうだな。監視されていようが構うものか。僕に何か事を起こす気などさらさらないのだから」


 よし、第二回第三回と開催実績を重ねていこう。

 そうすればきっと貴族界隈もわかってくれるはずさ。

 僕の決意を受けたアヤセが、これまた真っ直ぐな瞳で頷く。


「兄上の御心のままに。まあ、明日にでも世間を揺るがす大事件が発生してしまったら、二度目の開催の見送りをお願いするかもしれませんけどね!」


「はっはっは! 縁起でもないことを言うのはやめなさい従弟殿」


 知ってるか?

 そういうの、フラグっていうんだよ?

 

「しかし、同世代の繋がりねえ。ざっと考えると誰がいるかしら? あ、もちろんレックスと歩調を合わせることができる同世代ってことね?」


 アヤセの発言に戦々恐々としている間にも話が進んでいく。

 

「探せばいるのではないか? それこそ彼らはヘッセリンク派を掲げているのだろう?」


 ミックの視線を受けたアヤセが、なぜか若干怪しい光をその眼に灯して語り出す。

 

「そうですね。ただ、同志達の大半が兄上の武勇伝に憧れと興味を持つに留まっている状態です。今はレックス・ヘッセリンクとは何かを私が叩き込んでいる段階ですので、歩調を合わせるには今しばらく時間をいただきたい」


 叩き込む、が理性的なものであることを心から願っています。

 叩き込む(物理)の場合は少し話し合いが必要だ。

 

「頼もしい従弟だな、レックス」


「そうだな。ああ、頼りにしているぞ、従弟殿」


 僕の心の内を隠した言葉に満足気なアヤセ。

 好かれてるのは嬉しいけど、もう少しマイルドな尊敬の仕方でもいいんだよと伝えてあげるべきだろうか。


「友人にはなり得ないが、同世代という意味では王太子殿下がいらっしゃるな」


「流石にこの場にはお招きできないな。仮にお招きしたとして、それこそ何を企んでいるのかと監視の目が厳しくなるだろう」


 そう言ってみんなで笑い合う。

 これこれ。

 仲のいい友人同士で馬鹿な話をつまみに酒を飲む。

 監視されてたっていいじゃない。

 いつか僕達が王太子を支えて国を守るための基礎作りなのだから。


「大丈夫ですよ。お忍びとはバレないからお忍びなのです。私が一晩所在不明なことなどよくあることですから安心して誘ってください」


 え?


「……レックス、あたし飲み過ぎたみたい」


「奇遇だなリスチャード。僕も急に酔いが回ったようだ。あまり強い酒は用意していなかったんだが」


 いるはずのない人が部屋にいるように見える。

 いけないな。

 一応今回仕入れたなかで一番度数が高い『秘酒・狂人の汗』は置いてきたんだけど。


「おやおや。私達世代の筆頭たる狂人と麒麟児が揃って酒に呑まれるとは。貴重な場面ですね。ダシウバ、二人に水を」


 あら、近衛のダシウバもいるじゃないか。

 君も同世代だもんね。

 この飲み会に参加する資格はあるからね。

 って、違う。

 甲斐甲斐しく水を配るんじゃない!


「何をされているのですか、王太子殿下」


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