第325話 同世代
グランパ世代の心温まる再会劇にほっこりしていると、ラスブラン侯からパパンにも会っておきたいというリクエストが出された。
こちらに断る理由もないのでグランパに頼んで呼び出してもらう。
「ああ、本当に君もいるんだねジーカス」
「ご無沙汰しておりますラスブラン侯。相変わらずお元気そうで何よりです」
感動の再会、というようなテンションでもなく、久しぶりに会った親戚同士の当たり障りのない会話だ。
舅と娘の旦那ならこんなものか。
「まあ、健康で元気なのだけが取り柄だからね。とは言え私もいつお迎えが来てもおかしくない。そろそろ息子に後を譲ろうかと考えているところさ」
意外な発言にカナリア公やグランパは目を丸くしている。
こんなとこで披露するような軽い話じゃないと思うんだけど。
パパンだけがノーリアクションで会話を続行する。
「バーチェも元気にしていますか?」
「ああ、相変わらず陰気ではあるけど元気だよ。ラスブランらしく振る舞おうとし過ぎるところはあるけど、今すぐ席を譲っても、過不足なく当主を務めることができるだろうさ」
陰気で元気。
確かに叔父さんはテンション低めだったけど、あれは僕が嫌いだからじゃなくて元々ああいう人なのね。
過不足なくラスブラン侯爵を務めることができるって、それはとても優秀ということなんじゃないだろうか。
「そうですか。よろしくお伝えください」
「伝えないよ。伝えたところで絶対に信じないからね。というかほとんどの人間はこの地下で体験できることを信じないさ」
ラスブラン侯の苦笑混じりの言葉にカナリア公が頷く。
「その爺さんの言うとおり、儂等とお主の妻が特殊なだけじゃよ」
三人とも考えられる最速のレスポンスでオーレナングに駆けつけてくれたからね。
連絡を受け取ってここに来るまでの間、僕を疑うというプロセスを踏まなかったことが窺える。
「そうですか。いや、生前は義兄弟として仲良くしていたので、できればバーチェとも会いたいと思ったのですが」
「仲、良かったかい? あまり君達が話をしているのをみたことはないが。たまに顔を合わせても君は無表情だし、うちの愚息は眉間に皺を寄せていたように記憶しているんだけど」
「歳も近かったのでよく話をしましたし、一緒に酒を飲みもしましたよ。表情に関しては、お互いそういう顔だとしか言いようがありませんな」
二人とも元々不機嫌そうな顔だと言い切るパパンに、流石のラスブラン侯も両手を挙げて苦笑いを浮かべた。
「それは失礼。まあ、彼からしたら君は最愛の姉を奪った憎い男のはずだからね。険悪まではいかないが、良好でもないと思っていたよ」
重度のシスコンらしいからな、叔父さん。
若い頃なんて、次期ラスブラン侯はママンこそ相応しいって断言してたんだとか。
「顔を合わせるたびにチクチク言われはしましたが、決まりの挨拶のようなものです。二人で酒を飲んだこともありますよ」
「叔父上と父上が二人で、ですか。会話が弾む絵が思い浮かばないというか」
パパンはママンが絡まなければ無口な人だし、叔父さんもお世辞にもよく喋るとは言えないタイプだ。
その二人が酒を酌み交わして騒ぐイメージが全く湧かない。
「私たちはすぐに服を脱いで馬鹿騒ぎを始める上の世代を見ているからな。ああはなるまいと、自然とあらゆる場で節度をもって過ごすようになっただけだ」
「ああ、なるほど」
酒を飲んだら騒がないといけないなんて法はありませんでしたね。
カナリア公と知り合って以降の飲み会がほとんどどんちゃん騒ぎだったから、勘違いしていたようだ。
「確かに同世代のゲルマニスのも酒の席でははしゃぐ姿を見せんのう。騒ぎもせず酒を飲んで何が楽しいんじゃ」
飲んだら脱ぐ、脱いだら騒ぐの悪しきルーティーンを完成させた張本人が不思議そうに首を傾げている。
そんなカナリア公に、やれやれとばかりに首を振りながらパパンがこちらを見る。
「レックス。お前達の世代はこの爺さん達のような、酒は強ければ強いほどいいなどという阿呆な飲み方はしていないだろうな?」
「残念じゃが、お前の息子はあの酒蔵に注文を出すくらいには酒飲みじゃぞ?」
カナリア公の言葉に驚きで目を見開くパパン。
え、そんなに驚くこと?
逮捕ギリギリのネーミングには毎回ドキドキワクワクさせられるけど、真面目な仕事っぷりが感じられるいいお店ですよ。
「確かにあの酒蔵は贔屓にしていますが、宴会で脱いだりするほどハメを外しはしません。そもそも同世代と本格的な宴会などしたこともありませんしね」
リスチャード達とはうちで軽く飲んだくらいだし、アヤセと深酒した時にはカナリア公とアルテミトス侯がいた。
純粋に同世代だけの宴会はしたことないな。
誘ってみるか?
リスチャード、ミック、ブレイブ、アヤセに、エスパール伯爵家のダイゼとアルテミトスのガストン。
うん、楽しそうだ。
そんな算段を立てていると、なぜかパパンが申し訳なさそうな顔でこちらを見ている。
「すまない。配慮が足りなかった」
「その憐れむような顔をやめていただいてよろしいですか? 宴会をしたことがないのは友人がいないからではなく、機会がなかったからです」
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