第315話 初代様の言うことには2

「とりあえず、私の代からはきっちりこの場所について次代に申し送りをさせていただきます」


 歴代当主の皆さんが今も現役で地下で働いているよ! という頭のおかしい引き継ぎを受けた子孫達はどんな顔をするのだろうか。

 いや、申し送りをするのもされるのもヘッセリンクだから大丈夫だな。

 とりあえずサクリが大きくなったらここに連れてこよう。

 百聞は一見にしかずだ。

 

「それは任せるよ。伝えようと伝えまいと私達はここにいるんだからね。さ、他に聞きたいことはあるかい?」


「あー。入り口を開放しましたが、外に出ることは出来るのですか?」


 ご先祖様達はフリーで出入りできるのか。

 できるのであればいざという時の戦力として期待させてもらいたいんだけど。


「残念ながら無理だ。なんてことない安普請の地下室に見えるだろうけど、私渾身の魔法で作り上げた空間だからね。一度入れば二度と出られない仕様さ」


「ますます呪いじみていますね」


 安普請どころか、おそらく相当お金をかけた空間なのはわかる。

 そこに明らかに普通じゃない雰囲気を醸し出してる初代様が自ら渾身と言い切る魔法をかけたなら、それはもう行きは良い良い帰りは怖いどころの話じゃないね。


「大丈夫。歴代のヘッセリンク伯爵家当主以外を拘束することはできなくなっているから」


 これほど不安の残る『大丈夫』を、僕は他に知らない。


「なにが大丈夫なのか理解できませんがまあいいでしょう。ここに立ち入るのに何か資格が必要ですか?」


 ご先祖様達が外に出ることができないのはわかった。

 では、外部の人間が地下に降りるのはどうだろうか。

 

「元々は私の墓だからね。墓参りに必要な資格なんてないさ」


 あっさりとフリーパスであることを認める初代様。


「つまり、誰でもここに来ることができるし、誰でも初代様をはじめとした歴代当主の皆様に会うことができる、と」


「なんだい? わざわざここに来たいなんて物好きがいるのかな?」


「ええ。少なくともお祖父様にお二人、父上にはお一人。ここの存在を知れば何を置いても駆けつけてきそうな方々が思い当たります」


 ラスブラン侯、カナリア公というグランパ激推しのおじさま方と、今でもパパン一筋のママン。

 この三人にこの場所の存在を隠しておいて何かの弾みでバレた日には、それはもう大変なことが起きるだろう。

 主に僕の身に言語化できない災厄が降りかかることが予想される。


「その時は事前に教えておくれよ。私達も常に実体化しているわけではないからね」


 地下の入り口で魔力を流せば歴代当主の誰かしらが対応してくれるらしい。

 知らないおじさんに対応されても緊張するんだけど。

 せめてグランパかパパンでお願いしたい。

 

「承知いたしました。ただ、この場所の存在を大っぴらにはしたくありません。ごく限られた方々にのみ開示したいと思います」


「おおっぴらに開示しても構わないよ? 歴代ヘッセリンク伯爵の魂が地下に囚われていて話をすることができるなんて与太話、普通は信じないだろう」


 それはそうか。

 普通に考えれば、『いやー。地下に謎の施設見つけて入ってみたら、亡くなった祖父ちゃんと親父がいたんで殴り合いしちゃったんですよねー』なんて言われて受け入れるわけがない。

 頭がおかしいと思われるのがオチだ。


「それで言えば、当代は本人も家来衆も我々が過去のヘッセリンクだということをあっさり受け入れていたね」


 僕の家来衆達は、イカしてると同時にイカれてるから仕方ない。

 

「なんせヘッセリンクですからね。私も家来衆も疑うより受け入れる方が楽なことを知っているだけです」


「レックスの指導が行き届いている証拠だ。いいことだと思うよ」


 指導? 

 そんなことをした記憶は一切ない。

 もしかしたら、メアリやクーデルあたりは僕の背中を見て何かしら学んだ可能性があるけど、積極的に参考にしてはいけない背中であることは自覚している。


「柔軟ですからね、私の家来衆達は」


【諦めているだけでは?】


 そうとも言う。

 まあそれは置いておいて、あと聞いておくべきことは。


「皆様は、外のことをどの程度ご存じなのですか?」


「ん? 私達が感知できるのは、興味を惹かれた極々限られたことだけだね。それもオーレナングで起きたこと限定で。最近でいうと、次元を跨ぐ竜を制して氾濫を鎮めたことや、他所の貴族を森に放ってヘッセリンクとは何かを叩き込んだこと、お嫁さんに正座させられて一晩中叱られていたことは知っているよ」


 最後のやつになぜ興味を持ったのか。

 ぜひ問い詰めたいが、今はやめておこう。

 

「逆に言えばそれ以外はご存知ない?」


「そうだね。やろうと思えば家来衆のことやよその土地で起きていることも感知できるだろうけどそんなことに意味はないし、それなら小指の先ほどの魔力でもオーレナングの浄化に回した方がいいから」


 死んだ後も森を守る役目と面白そうな事にしか興味がないわけだ。

 ヘッセリンクっていうのは本当に徹底してるな。


「なるほど。わかりました」


 とりあえずカナリア公やママンにはすぐに事情をお知らせしよう。

 手紙、は漏れる危険性があるからな。

 直接国都に行くか。

 カナリア公にはまた酒でも飲みましょうって言えば都合をつけてくれるだろう。

 王城?

 報告するわけないじゃない。

 

「ああ、それと最初の質問なんだけど。温泉は湧くよ。正確にはここに湧いている、だね。あとで案内しよう」


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