第261話 承認

 ママン襲来から数日後。

 ママンを追うように王様へのお手紙の返事が王城側から届いた。

 我が家的には重要な案件なので、へッセリンク伯爵家担当の文官トミー君が来てくれるかと思ってたけど、今回は書面をもっての回答になったらしい。

 子供ができたことに対するお祝いの言葉やらなんやら色々書いていたけど、重要なのはこの一文。

 

『娘さんを領地で育てることを認める。慣例には背くことになるけど、ブルヘージュとの件で色々頑張ってくれたから特別だぞ? あんまりヤンチャするのは控えてくれると助かります。娘さんの召喚獣は脅威度Sらしいですね。しっかり手綱を握ってください。くれぐれもヤンチャをしないように』


 よっぽど大事なことなのか、ヤンチャを控えるよう二度も書かれてあったがそこは置いておいて。

 王城側はサクリをオーレナングで育てることに同意してくれたけど、隣国との諸々で頑張ったことに対するご褒美ということが強調してあった。

 まあ、お願いを聞いてくれるなら理由はいいか。

 家来衆もみんな大喜びだ。

 特にジャンジャックとハメスロットが小躍りして喜んでいた。

 そんなに喜んでもらえて嬉しいよ。

 

「よかったなあ、お嬢。兄貴達と一緒に過ごせるぜ?」


 我が家最高峰のツンデレことメアリも、サクリの頬をつつきながら満面の笑みを浮かべている。

 そしてそのメアリを見つめるクーデルも素敵な笑みを浮かべていた。

 笑顔の連鎖って、いいよね。


「なんというか意外とあっさり許可が下りたことに驚いたが、希望がそのまま通ったのだからありがたく受け取っておこう」


 お母さんが言っていたとおり、子供ながらに魔獣を従えていたことについては僕という前例がある。

 その前例に従えば、慣例のとおり国都で育てるようにと判断される可能性もあったので、満額回答を得られたことは素直に喜ばしいことだ。

 しかし、軽いノリの僕を見て苦笑混じりに首を振ったのはエリクス。


「あっさりかどうかは王城の文官の皆さんの意見を聞いてみたいところですね。恐らく、侃侃諤諤の末の苦渋の選択なはずです」

 

 そんなに簡単なものじゃないぞと言いたいらしい。

 しかも苦渋の選択って。

 ただ子供を手元で育てたいだけなんだけどなあ。


「そんなに、か?」


「それはもちろん。伯爵様が幼少の頃、召喚士としての力に目覚めたにも関わらず国都で生活することを許されていたのは、従えていた魔獣の脅威度が低かったからだと聞いています」


 僕がレックス・ヘッセリンクになるより前。

 レックス・ヘッセリンクは、低脅威度の魔獣を複数従えるスタイルの召喚士だったらしいことはコマンドに聞いている。

 僕がレックスになったときに、その子達全員と引き換えにゴリ丸とドラゾンの召喚に至ったことも。

 

「しかし、そこに至るまでには相当の議論が重ねられたのでしょう。むしろ、伯爵様をオーレナングで育てたほうがいいという意見があってもなんら不思議ではありません」


 そうだよなあ。

 脅威度が低くても魔獣は魔獣だ。

 召喚主がまともなら人を襲ったりしないだろうけど、肝心の召喚主が物心つくかつかないかの子供なら、国都に置くのはリスクがあると判断されてもおかしくない。


「それだと母が寂しがると、父が強く抵抗したらしい。それならば自分が国都に常駐して召喚獣の暴走に備えると申し入れた途端に僕の国都残留が認められたんだとか」


 『巨人槍』なんて呼ばれて信じられないサイズの槍を振り回し、次元竜を単独で追い詰めたパパンは、家族大好き人間だったんだとか。

 父の話になるとママンが止まらなくなるので詳しくは聞いてないけど、自分も国都に住めば安全を確保できてなおかつ一緒に暮らせるぞ! とすごいテンションだったらしい。


「ヘッセリンク伯爵家当主が国都に常駐なんて、我が国では前代未聞ですからね。それなら幼い伯爵様の方がまだ管理下に置きやすいと考えたのではないでしょうか」


 そんなエリクスの推測に、今度はメアリが首を振る。

 

「見積もり甘えよなあ。だって、ガキンチョでもレックス・ヘッセリンクだぜ? 実際まあまあやらかしてるんだろ?」


 ガキンチョでもレックス・ヘッセリンク。

 なかなか説得力のあるワードではある。

 なんだったか。

 身分を隠して街の炊き出しに参加したり、貴族の作ってた裏金暴露したりしてたんだっけ?

 子供ながらに身分を隠して勧善懲悪とか、主人公属性がすごい。


「やらかしたかどうかはわからないが、大人しくはなかっただろうな。父にはよく小言を言われたものだ。逆に、祖父にはいいぞもっとやれと焚きつけられたが」


 聞くところによると、親父さんより爺様のほうが段違いでやばい人だったようだ。

 優しいのは身内にだけで、その他大勢には興味を示さない。

 武力行使に一切躊躇いを持たないタイプの、真性のヘッセリンクだったんだとか。


「先々代。噂の『炎狂い』ですか。メアリさんも面識が?」


「いんや? 俺がヘッセリンクに入った時にはもう逝った後だった。ただ、逸話だけは掃いて捨てるほど残ってるからな」


「自分達の世代でヘッセリンクと言えば『炎狂い』ですからね。もちろん『巨人槍』の信じられない話もありますが、先々代はとにかく派手な話が多い」


 この百年くらいで真っ先に思い浮かぶヘッセリンクといえば『炎狂い』。

 そう言われている理由は、逸話を元にした物語がたくさん作られたからだろう。

 何本か演劇を見たことがあるけど、とにかく行動が派手でぶっとんでて頭のネジが緩んでるタイプの人だったことがわかる。

 コマンドから教えてもらった情報と照らし合わせても劇中の人物像とそこまでかけ離れていないところがまたヤバい。


「僕がどれだけヤンチャをしようが、それ以上に暴れていた祖父の存在があるから気楽なものだ。とは言うものの、サクリも生まれたんだ。父親としてヤンチャな振る舞いは慎むつもりでいるさ」


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