第199話 使節団メンバー紹介

 ブルヘージュに旅立つ日がやってきた。

 医師フリーマからは、帰ってくる頃には子供が生まれてるからと言われて心揺れたが、アルテミトス侯やカニルーニャ伯まで引っ張り出した言い出しっぺの僕が抜けますとは言えない。

 エイミーちゃんからは家来衆のためだからしっかり務めてこいと笑われ、アデルからは出産の時に僕がいてもできることはないからと切り捨てられた。

 なので、子供に恥じることのないようしっかりやることをやってこようと思う。


 さて、ここで改めて表敬使節団のイカしたメンバーを紹介しよう。

 

 まずは平団員!

 歴代『狂人』と呼ばれる家系の中で、近い将来最も常識人に近いと噂されるであろう男!

 僕こと、レックス・ヘッセリンク!!

 護衛には、国外遠征のきっかけを作ったブルヘージュ出身の元聖騎士オドルスキと、彼の国に恐怖を刻んだ鏖殺将軍の一番弟子フィルミー。

 そして、闇蛇の未来と呼ばれた美貌の暗殺者、メアリを追加招集だ!

 ……クーデル?

 素直にメアリの招集に応じてくれたよ?

 今頃はアリスやイリナと一緒にメイド稼業に精を出してくれているはずだ。

 

「おいアホ伯爵、クーデルと何かよからぬ約束しやがったな!? 満面の笑みで送り出された時から嫌な予感が止まらねえよ……」


 OK、次のメンバーだ!

 

 副団長!

 レプミアの食糧事情を支える穀倉地帯を治める大貴族にして、最愛の妻エイミーちゃんのお父様!

 カニルーニャ伯爵、アイル・カニルーニャ!

 護衛には氾濫騒ぎの際にも国都の屋敷防衛に駆け付けてくれたカニルーニャ領軍の精鋭の皆さん!

 いつもありがとうございます!

 

「帰ってくる頃には孫が生まれているらしいし、それを抜きにしても国外に長居はよろしくない。余計な揉め事はなしといきたいが、よろしいかな?」


 はい、もちろんです。

 

 最後に団長!

 国軍在籍時には完成された心技体と世代No. 1の肝臓で『鉄血』の二つ名をほしいままにし、現在では万能系貴族して活躍するイケてるおじ様!

 ロベルト・アルテミトス!

 その護衛には、なんと未来のアルテミトス侯爵であるガストン・アルテミトスも駆けつけてくれたぜ!!


「お久しぶりです、ヘッセリンク伯。その節は大変な失礼を。お許しをいただけるとは思っておりませんが、私が変わった姿を見ていただきたい」


 パーツは悪くないのに全体的に脂ぎっていて顔がくどい印象だったガストン。

 しかし、アルテミトス侯の親戚筋にあたるゴリゴリの武官系貴族家の領軍に放り込まれ、一から鍛え直されたことで身体だけでなく表情も締まりまくっている。

 結果、顔のくどさが消えて親父さんに良く似た彫りの深い若者に変貌を遂げていた。

 

「久しぶり、というにはそこまで時間が経っていないように思うが、いい顔になった。別人かと思ったぞガストン殿」


 行き違いはあったけど、その表情に僕に対して含むところはなさそうだし、真摯な言葉を聞けば過去のことは水に流そうという気にもなる。

 右手を差し出すと、ほっとしたように微笑み、両手で力強くがっちりと握ってくる。


「そう言っていただくと、恥を偲んでやってきた甲斐があります。今回は父の護衛として馳せ参じましたが、それと同時にヘッセリンク伯にあの時の私とは違うのだと証明させていただきたく思います」


 白い歯がキラリと光る。

 本当に僕とエイミーちゃんの結婚に横槍を入れ、フィルミーのことを斥候ごときとか言ってたあの男と同一人物か?

 エスパール伯もそうだったけど、憑き物が落ちた瞬間顔から変わるのはなんなんだろう。

 いや、もちろん今の方が断然いいんだけどさ。


「期待させてもらおう。なに、遠慮することなどない。お父上にも負けていないのだと、これからレプミアを背負うのは我々若い世代なのだと証明してやろうではないか」


 握手ついでにハグしたりなんかして。

 僕やエスパールさんちのダイゼ、そしてこのガストンはこれからも同世代の貴族家当主として王太子を支えることになるんだから仲良くするにこしたことはない。

 

「ほう、言うではないかヘッセリンク伯」


 しかし現役バリバリで、カナリア公と同じく息子に席を譲るまで相当の時間がかかるであろうアルテミトスの親父さんが不敵な笑みで僕らの肩を抱いてくる。

 

「あ、いや。これはですねって痛い痛い!」


 僕の周りのおじ様達は力が強い。

 なぜなら国軍出身者が多いから。

 そんななかでも、文官寄りで穏やかなお義父さんの存在はレアだ。

 この時もやんわりとアルテミトス侯の手を抑えて僕たちを助けてくれる。


「まあまあ。いいではありませんかアルテミトス侯。若者はそうやって一つずつ学んでいくのですから。我々も、そうだったでしょう?」


「む。カニルーニャ伯がそう仰るなら、私も収めなければなりませんなあ」


 このお二人の関係は、カニルーニャ伯が一つ二つ年上だったかな?

 あのアルテミトス侯が大人しく引いたところを見ると、もしかしたら学生時代の先輩後輩だったりするのかもしれない。

 そのまま二人で楽しそうに話し込み始めるのを見て、ガストンが眉を顰めて肩をさすりながら囁く。


「申し訳ありませんヘッセリンク伯。父は殊の外ヘッセリンク伯を気に入っているようでして」


「いや、おじ様方というのは若手を構いたがるものだ。我々は我々で、同世代の連帯を示していこう」


 

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