第200話 いつか見た光景

 僕はお城の玄関とよっぽど相性が悪いようだ。

 ブルヘージュの国境からメラニアをはじめとした騎士団の皆さんに護衛してもらいながら物見遊山気分で馬車に揺られてやってきましたブルヘージュの都、セルク。

 そして、そのまんま中に聳え立つ白亜の城、セルク城。

 規模はレプミアの王城とトントンくらいなので驚きはしないけど、僕達を待ち構えていたのはものものしい鎧を見に纏った皆さん。

 

「聖騎士メラニアよ。そちらがヘッセリンク卿か? フランツ翁が決して手出ししてはならぬ化け物と怯える、あの」


 お揃いの鈍い灰色の全身鎧のなかから歩み出てきた金髪巻毛のニクいやつ。

 その顔にはこちらへの侮りと、自軍への絶対の自信が浮かんでいた。

 初対面のときガストン君がこんなテンションだったな懐かしい。

 ほら、あの頃を思い出してガストン君が耳真っ赤にしてるじゃないか。


「リュング卿! どういうおつもりか!」


 メラニアが額に青筋をたてながら食ってかかるけど、リュングと呼ばれた巻毛の男は男臭い笑いを浮かべて余裕を醸し出している。

 

「メラニア殿、彼は?」


 アルテミトス侯が聞くと、顔いっぱいに嫌悪感を浮かべる聖騎士。

 ソリが合わないとかではなく、はっきり嫌いだと顔に書いてある。


「我が国の北を治める貴族でリュング伯爵。国内では有数の水魔法の使い手として知られています」


 王城玄関で、北を治める小物臭のする貴族に絡まれる、か。

 最近経験したシチュエーションと丸被りだな。

 あとはフィルミーがあの巻毛を殴り飛ばせば完全再現だ。

 あ、メアリ。

 フィルミーが飛び出さないよう見張っておいて。

 

「それで? そのリュング卿がどのような御用かな? 我々は可及的速やかに国王陛下へのご挨拶を済ませ、用件が終わればすぐに帰国する予定だ。貴殿と親交を深める時間は取れないことを許してほしい」


 お前に構っている暇はないぞと、そう言外に含ませたつもりだったんだけど、わざわざ待ち構えてるくらいだ。

 当然、そうですか残念です、とはならない。

 嫌な笑みを浮かべながら大袈裟に両手を広げて見せる。


「これは冷たい。久しぶりの外国からのお客様、しかもそれがあの噂のヘッセリンク伯爵殿と聞いて楽しみにしていたのだ。ぜひ時間をとっていただき、ブルヘージュ貴族というものを知ってもらいたいのだが?」


「繰り返しになるが、予定が詰まりに詰まっていてな。リュング伯爵殿の名前は覚えておこう。帰国したら文を出しますよ。では、メラニア殿。案内を頼む」


 外国の貴族と文通なんておしゃれじゃない?

 そんなことを考えながら面倒そうなイベントを回避すべく足早にお城の奥に進もうと試みたが、やはりトラブルさんは僕のことを愛しているらしい。


「おやおや。どうやらレプミア王国の皆さんはこのリュング伯爵領自慢の灰騎士が怖いらしい。そんなに顔を青くして逃げなくてもよろしいではないですか! 取って食おうなどと思っていませんよ?」


 HAHAHA!と笑う金髪巻毛。

 これ、国際問題になりそうだけど大丈夫?

 アルテミトス侯に目を向けると相手にするなとばかりに首を振っているし、カニルーニャ伯は……無表情。

 マナーを守れない無礼者が嫌いだもんね、お義父さん。


「いい加減にしてください! レプミアの方々は友好を目的とした使節団として足を運んでくださっているのです。その方々に汚い言葉を投げかけるなど、それでも誇り高きブルヘージュ貴族ですか!」


「誇り高きブルヘージュ貴族の一人だからこそだ、聖騎士メラニア。貴殿は知りたくないのか? 我々貴族の間にまことしやかに流れる噂の真相を」


「噂?」


「曰く、レプミア王国は西の果てにヘッセリンクという名の怪物を飼っていると。そのヘッセリンクと呼ばれる怪物は、国の最高戦力であるが、過去のブルヘージュとの戦には参戦していない。なぜか。怪物の参戦を必要とする相手ではないと下に見られたからだ」


 西の果てにヘッセリンクという怪物を飼っている。

 ピンポーン、正解。

 ヘッセリンクがレプミアの最高戦力。

 まあ、あながち間違いではない。 

 化け物じみたおじ様方も多いけどね。

 そして、ブルヘージュとの戦に参加していない理由。

 これははっきり不正解だ。

 最近は僕がうろちょろしてるけど、基本的にはオーレナングに篭ってせっせと魔獣狩りに精を出すのがヘッセリンク伯爵。

 わざわざ遠く東の国境線まで戦に出かけるほどアグレッシブではないので、「隣国など我らが出るまでもない」なんていう上から目線の理由は当てはまらないだろう。


「私は誇りあるブルヘージュ貴族としてその噂の真相を確かめたいのだ。そして、その化けの皮を剥がし、腰の引けた老人達の目を覚まさせてやりたいと思っている」


 宣戦布告だと受け取られても仕方のない際どい発言に、メラニアやフランツ、そして先程駆けつけた文官の皆さんの顔が歪む。

 問題児過ぎるだろリュング伯。

 王城のエントランスで問題を起こすなんてもってのほかだ。

 ただでさえ多忙な文官の皆さんの負担を考えていない立ち居振る舞いにも共感できるところはないね。


【レックス様、ブーメランが刺さってますよ?】


 おっとこれはいけない直撃だ。

 

「レプミアの護国卿? 旧時代の御伽噺を有難がっている年寄りが、臆病風に吹かれて敵を大きく見積もっているだけの話だろう!」


 酔ってるなあ、自分に。

 ここでゴリ丸かドラゾンを召喚したら面白いことになりそうだけど、さてどうするかな。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る