第166話 ツアー参加者
現在、ハメスロットが作成した参加者の一覧に目を通しながら相応の歓待が必要な家をピックアップしている。
部屋割りとかも考えないといけないので、文官師弟コンビだけでは手が足りず、第二執事ことジャンジャックも駆り出されての作業が連日行われていた。
「エスパール伯爵の取り巻きではトルキスタ子爵が参加か。さては、無理やり巻き込まれたな?」
すっごい渋々なのがわかるような文章で参加表明が届いてますね。
もう一人の取り巻きであるハポン男爵からは、生き生きした文体の不参加のお知らせが届いている。
大方、エスパール伯にどっちかついてこいって言われて、なんらかの闘争に敗れたのがトルキスタ子爵なんだろう。
可哀想に。
「カナリア公も参加ですか。ご高齢なのだから無理をされなければいいものを」
顔を顰める鏖殺将軍様。
ああ、お互いが、あいつと一緒にするなって思ってるんだったっけ。
「ジャンジャックはカナリア公と面識があるんだったな」
「ええ、ええ。もちろんでございます。大酒飲みの女好きとして有名な指揮官でございましたからな」
皮肉とか棘があるとかではなく、カナリアのことが本当に嫌いなようだ。
よっぽど、現役時代に何かあったんだな。
聞くのが怖いので話題を変えよう。
「今も昔もカナリア公はカナリア公だな。しかし、あまり付き合いのない家からもこれだけ参加希望が来ているのか。言ってはなんだが、皆さん正気か?」
比喩ではなく、命懸けだよ今回のツアーは。
参加案内をばら撒いた僕が言うことではないけど、我が家のことをよく知らない家から参加希望が届くたび、何が目的かと疑ってしまうくらいには意味がわからない。
「伯爵様が仰ったように、ヘッセリンクの化けの皮を剥いでやろうとお考えの方もいるでしょうが、片や、狂人レックス・ヘッセリンクの本質を見極めたいという当主の方もいらっしゃるのではないでしょうか。これまで狂人狂人と遠巻きに眺めていた方々も、王太子殿下のお言葉で風向きが変わったのかもしれません」
ああ、将来の右腕発言ね。
荒れ狂う嫉妬の嵐を生み出した負の側面が強いけど、色眼鏡でなく我が家を見てみようと言う動きにもつながっているのかな。
そうだったらありがたいが、さて。
「そんなものか。それで、困ってしまうのはこちらの方の扱いだ」
参加案内を送ったあと、ほぼ最速で参加希望を送り返してきた家。
返ってきた文に押されていた家紋は、羽の生えた虎。
その家紋を使うのは、レプミアが誇る『貴族のなかの貴族』と呼ばれる名家。
『誑惑公』ゲルマニス公爵、参戦!
「誑惑公閣下がどういった意図でわざわざオーレナングにいらっしゃる気になったのか。爺めは、我が家と繋がりのない家々などより、こちらのほうがよほど気になりますな」
「あの方に意図なんかないだろう。楽しそうだとか面白そうだとか。そんな感じだと思うぞ?」
この理由でほぼ間違いないはずだ。
十貴院会議でしか会ったことはないけど、毎日退屈だから遊びに行くわ! というテンションで来るに違いない。
警戒するだけ無駄な気がする。
「良いような悪いような」
「貴族の中の貴族たるゲルマニス公が、我が家に仕掛けて得るものなどないからな。それに、あの方には凄腕の護衛も付いていることだし、我が家から人を割く手間も省ける」
ファンダイ、だったかな?
メアリが絶対勝てないと言い切った凄腕のダンディ。
オドルスキと同レベルらしいから、うちからお守りは出さない方針だ。
「カナリア公、ゲルマニス公、エスパール伯。それにトルキスタ子爵。良し悪しは別にして、我が家と関係がある家はこのあたりだな?」
「いえいえ。もうお一人、本日付で参加表明が届きましてございます」
えー、誰だ?
まさか王太子とか言わないだろうな。
あの人のことだ。
森のさらに深層の話を聞いたら行ってみたいとか言い出しかねない。
「アルテミトス侯は不参加に対する無念がこれでもかと伝わる文をいただいたし、カニルーニャ伯からも誰が参加するかそんなものという強い意思が感じられる文が届いた。あとは……」
ラスブラン、クリスウッド、さらにはサウスフィールドなどからもお断り文が届いていたな。
『戦争屋』の異名を取るサウスフィールド子爵家は参加するんじゃないかと思ってたけど、嫡男であり、僕の数少ない友人でもあるミックからは別便で手紙が来ていた。
なんでも、今更魔獣の脅威度なんか体感する必要を感じないということらしい。
みんながそう思ってくれていないからこんなイベントを開催する羽目になってるんだよマイフレンド。
「今も関係がございますし、これからはさらに関係を深めることになるかもしれないお家でございます」
そこまで含んだ言い方をされれば流石にわかる。
「まさか、セアニア男爵家か?」
「まさしく。どうやら、イリナさんが送った文と招待状がほぼ同時に届いたらしく。ついでに参加されたいとのこと」
ついに顔合わせか。
条件は揃えたけど、あとはセアニア男爵がフィルミーを認めるかどうかだ。
忙しいかもしれないけど、そっちも手は抜けない。
そう伝えると、フィルミーを慕うエリクスが真剣な顔で頷いてくれたが、すぐに苦笑いを浮かべた。
「しかし、娘の夫候補の品定めついでに森に入りに来るなんて、イリナさんのお父様は、意外と豪気な方なんですね」
彼は森に単独で潜んで魔獣の脅威度を嫌と言うほど体感しているからな。
あそこがついでで行くものじゃないことを嫌と言うほど理解している。
「僕も男爵のことは詳しく知らないが、可愛い娘をわざわざヘッセリンクに奉公に出すくらいだ。変わり者ではあるだろう」
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