第160話 クイズ ヘッセリンク!

「ヘッセリンク伯。流石にそこまでは行き過ぎでは? エスパール伯は、衆人環視のなかで殴り倒されるという赤っ恥……失礼。手痛い罰を受けております。その上で領地にまであのヘッセリンク伯爵家に侵攻されては、あまりにも不憫というもの」


 大根演技を隣で堪能して満足したのか、僕に合わせて怖い次期公爵様ムーブを繰り出していたリスチャードがそんなことを言ってくる。

 それを聞いて縋るような目で訴えてくるエスパールの皆さん。

 

「気持ちの悪い話し方をするな。普段どおりでいい」


 あ、普段どおりって、麒麟児モードのタメ口の方ね?


「ではお言葉に甘えて。諸君、私はクリスウッド公爵家、リスチャード・クリスウッドだ。クリスウッドの麒麟児、と言ったほうがわかりやすいかな?」


 自分で麒麟児って言いやがった。

 まあ、カッコいいよね、麒麟児。

 私はヘッセリンク伯爵家、レックス・ヘッセリンクだ。

 狂人、と言ったほうがわかりやすいかな?

 ……ダメだ。

 そんな自己紹介されながらニヤリと笑われても救いがない。

 

「危なかったなエスパールの方々。その男がエスパール伯を殴らなければ、ご当主はもちろん、あなた方もこの世にはいなかったはずだ。なぜと言って、この狂人様は召喚獣を喚ぶつもりでいたようだからな」


 バラすんじゃないよ。

 いや、確かにフィルミーが動かなかったら王城の一部はリフォームが必要だったかもしれないけど。

 そうなったら歴史に名を残しただろうなあ。

 もちろん悪い意味で。


「王城で、召喚獣を!? まさか」


「そのまさかが実現する事態を引き起こしたのは、エスパール伯ご本人だ」


 そうだそうだ!

 もっと言ってやってよリスチャード。

 うんうん頷いていると、鬱陶しそうな視線を向けられました。

 その意は、上手く収めてやるから大人しくしておけと。

 はい、お口にチャックしておきますね。


「まずはそれをご理解いただきたい。この狂人様は、家来衆をいたく可愛がっていてな。今日もそこの鏖殺将軍の弟子と家来衆の一人の婚姻について宰相殿と話しをしに来たのだ」


 ん? 

 そんなこと言う必要がある?

 あ、はい。

 全部お任せします。


「いや、家来衆の一人というのがさる貴族の子女なのだが、この男は力はあるが身分としては平民。本来なら叶わぬ恋だ。ただ、最近この男は功を立ててな。諸君も知っているだろう? 先日オーレナングで発生した氾濫を」


 リスチャードがフィルミーを立ち上がらせ、親しげに肩を抱きながら話しを続ける。

 ただでさえ美声なのに、王城というレプミア最高の建築物の中に美声が響いて嫌でも耳に入ってしまう。

 エスパールの家来衆だけでなく、王城の守備兵達もリスチャードの話に聞き入っているのがわかった。


「我が友レックス・ヘッセリンクは脅威度Sの竜種を討伐すべく、鏖殺将軍と聖騎士を引き連れて魔獣の森の奥深くに。では、森で起きた氾濫を収めたのは誰か」


「まさか、それが」


 静まり返った王城玄関に、ゴクッと唾を飲み込む音が響いた。

 

「察しがよろしい。若き家来衆を率いて被害を最小限に抑えた立役者。その英雄こそ、このフィルミーというわけだ。なぜ私がそんなことを知っているか? 私もオーレナングに駆けつけ、フィルミーの指揮下に入ったからだ」


 それを聞いた守備兵達から、おおっ! という声が上がる。

 ああ、この人達、僕が手を振っただけで盛り上がるような脳筋の人達だったな。

 そりゃあ、氾濫を抑え込んだ英雄だと言われれば盛り上がりもするか。


「エスパールの方々の運がいいという理由がもう一つある」


 リスチャードがエスパールの皆さんの目の前を行ったり来たりしながら、もったいぶるように語りかける。

 聞かされてる方は気が気じゃないだろう。

 

「先程レックスが言ったとおり、このフィルミーは鏖殺将軍ジャンジャックの弟子だ。その実力のほどは、脅威度Aの竜種、マッデストサラマンドを討伐したと言えば通じるだろうか」


 再び巻き起こる歓声と、顔色が青を通り越して白くなるエスパールの皆さん。

 顔面蒼白とはよく言ったものだ。

 

「ヘッセリンク伯爵だけじゃなく、家来衆まで竜種を? まさか、聞いていないぞそんなこと」


 掠れた声で武官らしい大柄な男がそう呟いた。

 エスパール伯のところは衛兵の質は高いので、きっとこの人もきっちり鍛えた武人なんだろう。

 勇気に敬意を表し、声をかけてみる。


「わざわざ喧伝していないからな。まあ、竜種を討伐した男の拳を受けて気絶だけで済んでいるのだから、エスパール伯も流石は元近衛と言ったところか」


 少し威圧感を無くした柔らかめな声で話したのが良かったのか、武官のお兄さんが身を乗り出して来る。

 それを遮ろうと前に出たフィルミーを制して、ニッコリ笑って見せる。

 リスチャードは肩をすくめてお好きにどうぞのポーズだ。

 

「ヘッセリンク伯爵様。先程のお言葉、本気でございますか?」

 

「さて、どの件だ?」


「エスパール伯爵領に、侵攻すると」


 まあその件だよね。

 本人が気絶してるからネチネチの対象が家来衆に移ってるのは申し訳なく思うけど、ここで緩めるとあんた達の大将がまた絡んでくるからさ。

 もう少し付き合ってください。


「ふむ。貴殿は私が本当は侵攻などしないと思っているのかな? では、ヒントをやろう。一つ、私はヘッセリンクの歴史上最もそれらしいヘッセリンクと言われている。二つ、私は家来衆をとても可愛がっている。三つ、私は前回の十貴院会議以降、残念ながらエスパール伯爵をそれほどよく思っていない。四つ、私の家来衆は非常に血の気が多い」


 さあ、みんなで考えよう!!

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