第126話 亡霊王マジュラス

 さっきまで巨大首無し骨格標本だったはずのマジュラスが、一度砕かれて粉々になったあと、僕のありったけの魔力を注いだらあら不思議。

 緩い天パ気味の髪が可愛い、子犬系少年に変わりましたとさ。

 白地の上下を金糸の刺繍と金ボタンで飾り、黒のブーツを履いた姿が子供の王子様コスプレなんだけど、妙にしっくりきてる。

 ああ、どこかの軍事国家の王子様だったか。

 サイズ感的にもユミカと並べたら最高の造形だなこれ。

 いや、メアリと並べてツンなお兄様と生意気王子様も捨て難い。


「なんじゃ? いかに主でも呆けておられる状況じゃないと思うが」


 しげしげと見つめていると、居心地悪そうにボーイソプラノでそんなことを仰る王子様。

 

「うん、ちょっと待ってくれ。あー、マジュラス?」


 念のための、ふーあーゆー?

 今更何をと言わんばかりに半眼になる少年。

 

「そうじゃが? いやいや。ようやく喚ばれたと思うたら、主がとんでもなく出し惜しみをするものだからあんな瘴気垂れ流しの不細工な状態になってしもうた」


 やだー。

 この子すごい皮肉言うじゃないですかー。

 出し惜しみというか、長期戦も視野に入れたら魔力を空っぽにするわけにはいかなかったわけで。

 いや、よそう。

 結果的に出し惜しみしましたごめんなさい。


「つまり、亡霊王マジュラスとはお前で、その姿が本来の姿だと考えていいんだな? そもそもお前は召喚獣なのか?」


「その辺りは森の主面あるじづらをした蜥蜴を叩き落とした後にしようではないか」


 僕の質問に対して、短い人差し指を唇に当ててしーっというポーズをとるマジュラス。

 メアリとは違う可愛さで、アリスあたりに見せたらキャーキャーだろうな。


「色々聞きたいが、そうするか。期待していいんだな? お前に魔力を全て注ぎ込んで、正直僕は立っているのもやっとな状況だ」


 現在進行形で膝ぷるっぷるだよ。

 召喚主の意地だけでまっすぐ立ってるけど、気を抜いたら崩れ落ちそうだ。

 

「生前の有様を考えればあまり大きなことは言えんのじゃが、まあ大丈夫じゃろう。次元竜じゃったか? 奴の力は、我と主には効かぬ」


 亡国の王子様の自虐とか重たいので触れない方向で。

 気になるのは、次元竜の力が僕達には及ばないというところだ。

 

「言い切ったな。よほどの根拠があるようだ」


「それはそうじゃ。我は既に次元を超えて主に召喚されておるでな。では、主は? つまりそういうことじゃ」


 こいつ。

 僕がなにか知ってるのか?

 僕ですらよくわかってない事情を知ってるのであれば、ぜひ色々教えていただきたいところだが、さて。


「色々知っていそうだな。そのあたりも聞かせてもらえるのかな?」


「さてさて。我は歯牙ない召喚獣じゃ。語れることなど、ほんの少ししか持ち合わせておらんでな」


 そのほんの少しの部分に期待させてもらおうか。

 レックス・ヘッセリンクであることに不満はないし、むしろ幸せですらあるのだけど、それならそれでなぜこうなっているのかを知るべきだとも思う。

 そのうえで、改めてしっかりレックス・ヘッセリンクとして生きていきたい。

 そんなことを考えていると、マジュラスが小さな手で柏手を打つ。


「さ、お喋りはここまでじゃ。主は魔力が回復次第ゴリ丸殿かドラゾン殿を喚び出しておくのじゃ。ミケ殿のサイズでは守勢には向かん」


 先輩召喚獣を殿付けなの可愛いな。

 意外と縦の関係がしっかりしてるのか召喚獣。


「言うとおりにしよう。頼むぞマジュラス。追加だ、持っていけ」


 今のやりとりの間にほんの少し回復した魔力を充填してやると、満面の笑みを浮かべるショタっこ王子様。

 あ、やばい、また膝がプルプルし始めた。


「これはこれは。気前がいいのう。この短時間でこれだけ回復するとは良い主じゃ」


 機嫌が良さそうに相好を崩すマジュラスだったけど、上空からディメンションドラゴンの咆哮が響くのを聞いた瞬間、わかりやすく不機嫌な表情に変わる。

 次元竜さんサイドは、デカい骨が人の子供に化けたのを見て観察していたみたいだけど、どうやら様子見の時間は終わったらしい。

 苦戦していたドラゾンが消えて、残っているのは一撃で仕留めたマジュラス。

 しかもなぜか人の子供の姿になっている。

 竜の言葉はわからないけど、なぜか舐められてる感じが伝わってきていらっとした。

 

「五月蝿いぞ痴れ者め。我と主の前じゃ。頭が高い!!」


 それはマジュラスも同じだったみたいで、可愛らしい声で一喝すると、小さな身体から黒い瘴気が迸り、次元竜に向かう途上で大小数えきれないほどの手に形を変える。

 それらは、退くか進むかはっきりしない挙動の敵の身体、翼と言わず、尻尾と言わず、脚と言わず、掴める場所を悉くを捕らえると、抵抗をものともせず力づくで地面に引き摺り下ろした。

 ジタバタともがくくらいの余裕はあるみたいだけど、再び飛び上がるのは許されないことを理解した次元竜。

 途中からは全力で息むような動作を繰り返し始めた。

 なんだ?

 

「また姿を消すか? させぬわ。言うたじゃろう? 我に貴様の力は効かぬ。消えることも出来ず、次元を渡ることも出来ず、我らを次元の彼方に放ることももちろん叶わぬ。貴様の不幸は、よりにもよって主と我が揃っておることじゃ」

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