第125話 遅れてきた奴

 四体目の召喚獣、亡霊王のマジュラス。

 いやいや。

 きみ、ガチャで最後に引いた亡霊王さんですよね?

 と、戸惑いとともに喚び出したのはつい最近のことだった。

 少し前に、彼が現れる条件をもうすぐ満たすよとコマンドに教えてもらってはいたけど、そこから色々忙しくてすっかり忘れていたんだ。


『200年前に滅びた軍事国家の最後の王。周辺国家の総攻撃に遭い、父王が討ち取られ、マジュラスも戴冠直後に捕らえられ首を落とされたが、強い怨念によりこの地に留まり続けている』


 フレーバーテキストからもわかるように、ゴリゴリのアンデッドです。

 サイズ的にはゴリ丸(二階建の家サイズ)の倍くらいある、馬鹿でかい首無し骨格標本といったらイメージが湧きやすいだろうか。

 大きく地面を揺らしながらの登場もあって、見た目は完全に悪役だ。

 ところどころ骨が黒ずみ、同じ骨系召喚獣のドラゾンと比べても、お世辞にも美しい造形とは言えない。

 さらに悪いのは、喚び出したそばから身体と環境に悪そうな波動、瘴気を撒き散らすこと。

 流石に召喚主の僕に影響はないけど、草木は枯れ、マジュラスと相対した脅威度の低い魔獣はその気に当てられて命を落とした。

 異常なほど魔力を消費することも手伝って、その時はすぐに召喚を解き、今日まで喚び出すことを回避していたくらいだ。

 

「とはいうものの、今回が初お披露目のようなものだからな。頼りにしてるぞ、マジュラス」


 召喚時にだいぶ持っていかれてはいるものの、出し惜しみはしないと誓ったので追加で魔力を充填していく。

 その間、空中ではドラゾンが小回りを生かして一撃離脱の戦法でチクチクと傷を与えていた。

 速さでは分が悪いと理解しているディメンションドラゴンも、一撃必殺を狙って尾や翼での打撃を試みているが、有効打を与えられずにいる。

 カッコいいぞドラゾン!

 たとえ次元竜のダメージが微々たるものでも積み重ねが大事だ。

 さあ、マジュラス。

 ドラゾンの頑張りに応えるためにも、お前の力を見せてくれ!


 僕の意思に反応したのか、ドスン、ドスンと地響きを立てながら、高速戦闘中の竜二匹に近づいていくマジュラスさん。

 んー。

 竜の骨格標本ドラゾン首無し骨格標本マジュラス対ディメンションドラゴンだと、完全にこっちサイドがヒールだな。

 特に黒いオーラ全開のマジュラスさんがヤバい。

 まあ、首がない理由を考えればそりゃあオーラも黒くなるわな。

 流石に、ここまで無防備に露骨に近づいてくる物体を気にしたのか、次元竜が一旦間合いを取るように後退する。

 ドラゾンは、マジュラスが味方だと理解しているのか、一息つくように高度を下げ、亡霊王の背中に隠れるような位置を取った。


「お疲れ様、ドラゾン。よくやった。戻りなさい」


 そう声をかけると、身体を震わせるようにして応えたあと、姿を消す。

 今日の竜種対決では勝ち越したと言ってもいいだろう。

 脅威度Sと互角なんて、素晴らしい出来だった。

 

「さあ、続きを始めようか」


 ここからは、ラスボスVS骨格標本の第二ラウンドだ。

 ゆっくりと、緩慢としか言いようのない動きで近づいてくるマジュラスを警戒に値しないと踏んだのか、ディメンションドラゴンが何の工夫もなく正面から突っ込んでくる。

 ドラゾンの速さと比べれば与し易く映ったのだろう。

 サイズ的に二体の間に遜色はないけど、一度目はドラゾンに、二度目は召喚獣トリオにボロボロにされたところから華麗に復活し、より強靭な肉体を手に入れたディメンションドラゴン。

 骨格標本なにするものぞと、容赦なくトップスピードで空を駆け、黒ずんだ骨を突き崩すべく頭から飛び込んでくる。


「跳ね返せ!」


 そう強く命じてみた。

 いや、マジュラスの行動速度じゃとても回避は間に合わなそうだし、見るからにパワー系で、その方がなんとかなりそうだったから。

 結果。

 音にするならドンガラガッシャン。

 いとも簡単に胸骨の辺りから貫かれてバラバラに砕け散ってしまう。

 

「嘘だろう?」


 えー?

 ダメじゃん!!

 見掛け倒しにも程があるよマジュラス!!

 ディメンションドラゴンもびっくりしてるよきっと!!

 唖然とする僕と、あまりにもあっさりと標的を貫いたことで勢い余ったのか、空中で姿勢を崩してばたつく次元竜。

 灰色の地面には、破壊されたマジュラスの骨片が広範囲に散らばっている。

 回復を繰り返した次元竜がとんでもなくパワーアップしてるのか?

 いや、さっきまでは勝てないまでもドラゾン単体でなんとか抑え込めてたんだ。

 そうすると、マジュラスさんがただのでかい骨格標本だったってことか?


『閣下。一つ提案です』


 なんでしょう、コマンドくん。

 今現在、レックス・ヘッセリンク本体とディメンションドラゴンのタイマンという有り得ない状況なので手短にお願いします。


『閣下は、まだ本気を出しておりません』


 いや、結構本気でマジュラスに魔力注ぎ込んだけど?

 それであの状態だ。

 デビュー戦で脅威度Sは可哀想なことをしたと反省してる。

 僕や他の子たちとの連携を試しておくべきだった。

 

『まだマジュラスは負けていません。その証拠に、マジュラスの骨の欠片は消えずに残っています。その一つを手に取り、本当に本気で日和らず後のことなど考えず魔力を注いでください』


 要約すると、隠してるモノ素直に出せよ? ってか。

 身体の中にある魔力を空っぽにしろってことね?

 OK、相棒。

 コマンドを疑う理由なんかない。

 どっちにしても何か手を打たないと次元竜の餌になって終わりだ。

 足元に転がっている骨片のなかでも比較的太い骨を拾い上げ、全力で魔力を充填してやる。

 爪先から頭のてっぺんまで、身体の隅々に流れている魔力を骨を掴んだ手に集中させるイメージ。

 レックス・ヘッセリンクの強みは人よりも異常なレベルで魔力が多いこと。

 連続で四体召喚しても、そのうち一体がとんでもなく大喰らいでも、その有り余る魔力は尽きていない。

 その有り余る魔力を今度こそ本気で、リミッターを外してマジュラスだったものに注ぎ込むとどうなるか。


 答え。


「初めましてじゃのう、主よ。さ、積もる話はあとにして、さっさとアレを食材にしてしまおうか」

 

 骨が見知らぬ少年に変化する、でした。



 

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る