第123話 チート

 透明化の能力でも持ってるのか、それとも他の何かがあるのか。

 

「風魔法。ウインドアロー!!!」


 隠れているだけなら当たるかもしれないと風の矢を視界一面にばら撒いてみたけど手応えはない。

 まさか、あんなに余裕かましておいて逃げ出したなんてことはないと思うが……。

 そう考えていると、なんの脈絡もなく空を分断するように黒く巨大な裂け目が走り、その中からディメンションドラゴンが何事もなかったように姿を現した。

 地面を転がって汚れたはずの鱗もピッカピカだ。


「意味がわからないな。少なくとも、ドラゾンからのダメージが残ってるようには見えないが。試しにもう一度いくか」


 ドラゾンに二度目の体当たりを指示。

 デジャブのようにホバリング状態を維持する次元竜に、激しい音を立てながら衝突した。

 一度目はドラゾンのぶちかましに耐えられず、ディメンションドラゴンがピンボールのように弾け飛んだが、二度目は違う結果に終わる。

 多少後退はしたものの、ホバリング状態を維持したまま強烈な体当たりに耐えて見せ、腹部にとどまったままのドラゾンの頭部を分厚い翼で殴打する。

 逆に弾け飛ぶドラゾン。

 まじか、この世界にきて仲間が攻撃されたの初めてじゃない?


「ドラゾン!?」


 思わず叫ぶと、大丈夫! という思念が伝わってきた。

 ドラゾンの真っ白な頭部には黒い傷がついていたが、折れたり割れたりはしていないみたいだ。

 空中で姿勢を維持して睨み合う二体の竜。

 先に動いたのはディメンションドラゴンだった。

 耳を劈くような咆哮を上げながらドラゾンに向けて体当たりを仕掛ける。


「避けろ!」

 

 基本的には僕の指示に従う召喚獣だけど、この時のドラゾンはそれには応じず、自らも再び動いて迎え撃つことを選択した。

 いや、サイズ感的には倍以上の差があるけど大丈夫!?

 質量に物を言わせたぶちかましを受けて、ドラゾンが吹っ飛ぶ未来しか想像できない。

 ディメンションドラゴンが突撃速度をさらに上げる。

 それに合わせて同様にスピードを上げるドラゾン。

 召喚主の責務として目を逸らすことはしない。

 巨大生物同士の正面衝突の瞬間、ドラゾンが動きを変えるのが見えた。

 腹部狙いと見せかけて、本当の狙いは次元竜の顎。

 尖ったドラゾンの頭部がディメンションドラゴンの顎の先を寸分違わず捉えると、明らかに動きが緩慢になる。

 魔獣にも脳震盪とかあるのかな?

 衝突の反動で大きく下がったドラゾンは、この好機を逃すまいと力を振り絞って再接近。

 骨でできた硬質な尻尾で、ダメージから回復しきれていないディメンションドラゴンを地面に叩き落とした。

 地上で待っているのは、そう。

 ゴリ丸とミケだ。

 顎への攻撃と地面に叩きつけられたダメージで動けない脅威度Sの頭部を集中的に殴打するゴリ丸。

 生き物の弱点を効率的に攻める点に好感が持てます。

 一方のミケは翼を傷つけることに注力している。

 飛べない竜はただの蜥蜴。

 つまりそういうことだろう。

 サイズがあまりにも違うので効果があるのかわからないけど、ミケもあれで脅威度Aの魔獣、クリムゾンカッツェだ。

 見た目よりもダメージを与えていると思いたい。

 そんな押せ押せムードが盛り上がり、これはこのまま勝てるかもしれないと、ほんの少し気を抜いた僕だったけど、そうは問屋が卸さないとはまさにこのことか。

 再びあの現象が起きる。

 飛び立つことも許されずボロボロになったディメンションドラゴンの姿が音もなく消えたのだ。

 そして、数分と経たないうちに黒い穴から姿を現す次元竜さん。

 もちろん、ボロボロになっていた部位もまっさらになっている。

 

「まさか、完全回復持ちなのか? しかも、先程の例を参考にするなら、消える前よりも強くなって戻ってくる、か? 最悪だな」


 どうしたものかと考えを巡らせている間にも、ドラゾン対ディメンションドラゴンの空中戦3ラウンド目が展開されている。

 一戦目は圧勝、二戦目は辛勝。

 三戦目ともなると、ほぼ互角か、やや劣勢といったところか。

 今後もあの現象が繰り返されるなら、この辺りでなんとかしないと取り返しがつかなくなる。

 というか、この完全回復持ちの化け物を単独で押し返したジーカス・ヘッセリンクはどんな怪物だったんだ。

 年単位で回復が必要な傷を負わせた上で屋敷まで戻ってきたんだろ?

 

『閣下。出し惜しみが許される状況ではないかと。仰るとおり、歴代最高峰の力を持つと言われた先代でも討伐に至らなかった相手です』


 そうだよね。

 わかってるんだけどなかなか勇気が出ないというか。

 いや、そんな事言ってる場合じゃないか。

 オドルスキやジャンジャックが捕まってるし、屋敷の方も心配だ。

 これ以上長引かせてその度に強化されてしまうと、本当に勝機を逃して取り返しがつかなくなるのも目に見えてる。

 

「よし、やるか」


『御英断に感謝。新しい閣下の力に、脅威度Sも平伏す事でしょう』


「そうだといいがな。戻れ! ゴリ丸、ミケ!!」


 ドラゾンだけを残して二体を戻す。

 ミケを召喚できるようになって以来、都合四体目の召喚獣のお披露目だ。

 初めから出しておけよという声が聞こえそうだが、もちろん理由がある。

 三体同時に喚ぶよりも、遥かに大量の魔力を消費するんだよ、こいつ。

 だから三体で倒すに越したことはないんだけど、敵はこちらの予想を超えてきた。

 なら、こちらも隠してた手札を切るしかない。


「出ろ。亡霊王マジュラス」


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る