第118話 名付けと脅威度設定
鬼を解体してみると、人でいう心臓がある部分にこれまた心臓大の生命石が存在していた。
これで、この鬼は間違いなく魔獣だと証明されたことになる。
ファンタジー世界で著名な人型のモンスターと言えば、ゴブリン、オーガ、トロール、吸血鬼なんかもそうだろうか。
これらの有名どころに、この森の中では一切お目にかかっていないのはなんとも不思議なものだ。
いや、人型を討伐したいわけではないので構わないんだけど。
オドルスキやジャンジャックからしたら人型だろうが獣型だろうが等しく魔獣という認識らしく、さくさくと解体していく。
それを目の当たりにした僕に忌避感は、ないな。
敵性生物だから討伐やむなし。
躊躇ってたらこちらの命が危ないし、あちらにこちらを慮る理由もない。
見敵必殺。
魔獣の森の掟であるこの方針は、浅層だろうが深層だろうが変わらない。
「分類上は小型の魔獣になるでしょうが、それにしては生命石が大きい。流石は未踏派地域。良い稼ぎになりますな」
国に納める税金の中で金額的に一番の比率を占めるのがこの生命石だ。
魔獣のサイズや生きてきた年数、強さなど、いろんな要因で大きさが変わる。
初めて討伐したマッドマッドベアが二階建て建物程度のサイズでボーリング球大の生命石だったことを考えれば、たかだか2m級の魔獣から人の心臓大の石が取れたのは効率がいいと言いたいらしい。
が、それはジャンジャックやオドルスキだから言えることだな。
命の危険やらなんやらを勘案すれば、中層あたりで数を稼いだ方が明らかに効率がいいから。
「ここまでやってくることを考えれば、往復で数日屋敷を空けることになりますか」
新婚の聖騎士さんには、別の心配もあるみたいだしね。
そりゃあ可愛い嫁と娘を置いてあんまり長い間家を空けたくないよねえ。
わかる、わかるよ。
僕もエイミーちゃんを残して出張なんかしたくない。
クリスウッドから国都への単騎駆け?
あれは長い長いお説教を受けたことで罪は償ったのでノーカウントです。
そんな、らしくない心配をするオドルスキの肩を叩きながら優しく笑う鏖殺将軍。
「オドルスキさん。貴方は新婚なのですからそんなに家を空けるのは感心しませんね。大丈夫。心配しなくても、私が責任を持って探索を行いますとも。いざとなればメアリさんとクーデルさんを連れてきてもいいのですからね」
「いや、それは。……本当にお言葉に甘えてもいいのでしょうか」
家来衆としての責任感と、夫として親としての責任感の狭間で揺れるオドルスキだったけど、この反応だと後者を優先したい気持ちが強いようだ。
すごくいい傾向だと思う。
家族なんて二の次だぜ! なんていう無責任な男に我が家のメイド長と天使を預けられないからね。
「構わないさ。ジャンジャックもただの好意で言ってるんじゃないだろう。大方、獲物を独り占めしたいというのが本音じゃないのか?」
そう言うと、悪戯がバレた子供のような笑みを浮かべて見せるジャンジャック。
枯れ専の女子が見たら、普段とのギャップにときめいてしまうかもしれない。
「はっはっは! バレましたかな? オドルスキさんと交代でとなると獲物が減ってしまいますからね」
本当に、気持ちいいほどブレるということを知らないな。
もちろん優しさもあるんだろうけど、優しさと欲望が3:7くらいだと思う。
未知の魔獣を独り占め!
個人的にはこの灰色の風景に全くときめかないけど、ジャンジャックには宝の山にでも見えてるんだろう。
「話は変わるが、オドルスキ。あの魔獣、便宜上オーガと呼ぶが、脅威度的にはAに分類することに異論はあるか?」
無事に帰ることができたら、待っているのは
未知の魔獣を討伐した場合、その脅威度の設定から始めなければならないらしいので、今のうちから擦り合わせをしておく。
「Aでよろしいかと。厳密には、Aの下位といったところでしょう。速さと力は並ですが、進化する点を考えればBには分類できないでしょう」
オドルスキに異論がないようなので、仮称・鬼の脅威度はAに決定しました。
呼称も決めないといけないんだろうけど、もうオーガでいっか。
コマンド、他にオーガって魔獣いるんだっけ?
『いません。そもそもこの世界のオーガは神話に出てくる架空の存在です。なので、オーガウルフなど、オーガを元にして名付けされた魔獣は複数存在します』
神話に出てくる存在なのね。
わかった。
この魔獣は赤鬼なのでレッドオーガと呼ぶことに決定!
色違いがいたら適宜その色を付ければいいな。
「よし。じゃあそれで行こう。これからあの魔獣をレッドオーガと呼び、脅威度をAとする。角は勿体無いことをしたが、あれが進化のきっかけとなる行為なら仕方ないか」
何かの素材になりそうなのが唯一角だけっぽかったんだよなあ。
あれが欲しければ進化する前にバッサリやってしまうしかないってことか。
レアな素材になりそうだ。
「そうですね。使えそうな部位も少なそうなので、角がなければ生命石だけ持ち帰ることでよろしいのではないでしょうか」
「そうだな。もしかしたら、ここから先には人型の魔獣が多く生息しているのかもしれない。それらを討伐した際には、生命石優先としよう」
「帰りましたら、皆に周知徹底いたします」
この段階でゴブリンなんか出てこないかもしれないけど、出てきたとしたらそれはもう僕の知識にあるチュートリアル的モンスターとイコールではないということだろう。
何が出てきても、油断しない、欲をかかない、命大事に。
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