第45話 侯爵来訪
式が終わってから、来客が多い気がする。
こないだはクーデル達の件でリスチャードが来ていたし、クリスウッドから帰ったと思ったら今度はアルテミトス侯爵がやってきた。
アポ無しだ。
しかもお付きが五人程度と極めて少ない。
ガストンに反乱でも起こされたか? と一瞬心配したけど、本人や周りの落ち着きを見るとどうもそういうことじゃないらしい。
「侯爵自らが触れも出さず最低限の供回りだけでこのような僻地までいらっしゃるとは。僕が言うのもなんですが、あまり危険なことはおやめいただきたい」
「いや、心配をかけたようで申し訳ない。どうしても可能限り速やかに、しかも周りに気取られずにヘッセリンク伯とお会いする必要があったのでな」
トラブルが起きましたよってことね。
わざわざ目上の侯爵が来たくらいだからよっぽどのことだろう。
それとも、またバカ殿がなんかやらかしたか?
「穏やかではありませんね。またぞろご子息がなにか問題でも起こしましたかな?」
一応聞いてみる。
侯爵は一瞬目を見開いたけどすぐに首を横に振った。
ガストン絡みなら笑って済む話だったんだけど、真面目に聞かないとだめか。
「愚息のことならわざわざ伯爵の手を煩わせるまでもない。次に家名に泥を塗るような真似をしたら廃嫡する旨を宣告しておる」
厳しいな。
まあ他所の家の当主の縁談に横槍を入れたことは噂として広まってるみたいだし、そういう醜聞は面子を大切にする貴族にとったら侮られる原因になるわけで。
次はないっていう態度で望むのは当たり前か。
下手したら一発レッドカードだってあり得た。
「ガストン殿も必死でありましょう。今は国軍に入隊されていると聞きましたが、元気でお過ごしだろうか」
「手の者によれば新人への扱きに毎日泣き言を漏らしながら必死で食らいついているようだ。まったく、最初からこうしておけば良かったと今になって後悔しておるわ」
レア度は低いけどガストンにもフレーバーテキストが用意されてるんだ。
忠臣になってくれる可能性も残されているはずなので、ぜひ頑張ってほしい。
あれ、でもガストンは侯爵家嫡男だから家来にはならないよな?
彼が僕の家来になるときは廃嫡された時か。
よし、この話は終わりだ。
「ガストン殿の行動が僕と侯爵の縁を結んでくれたと思えば、こちらはそこまで怒ることができないのですがね。失礼、話の腰を折りました」
「前向きに捉えれば、そうなるか。いや、あまり儂が領地を空けると勘の良い者には気取られる可能性があるので単刀直入に。一部貴族のなかに、貴殿を面白くなく思っている層がいるようだ。理由はわかるだろう」
「式で、王太子のお言葉を賜ったことですか。はあ……」
ついに来たか。
侯爵から話が来るなんて思わなかったけど予想できたことだ。
諜報網の整備を急がないとな。
それにしても気が重いわ。
「真に恐ろしいのは女ではなく男の嫉妬とはよく言ったものだが、話はそう簡単なものでもない。十貴院が絡んでおるようだ」
「冗談でしょう? 十貴院に属している家となれば、確固たる地位を確立済みのはず。わざわざ我が家のような小身貴族を目の敵にする必要があるのですか」
猫の額程度の可住部分しかない領地を治めるだけのケチな伯爵家ですよ我が家は。
次の王様から結婚を祝福されただけで何を騒ぐことがあるのだろうか。
「確固たる地位を確立しているからこそ、下から追い上げて来るヘッセリンク家に恐怖を感じているのだろうな。それに、これまでのヘッセリンク伯家は最低限の人数しかこのオーレナングに置かないのが慣例であったが、貴殿は少しずつであるが人を増やし始めた。しかも元は当家の兵であったフィルミーやカニルーニャの家宰ハメスロットなど選りすぐりが目立つ。これまでは文句も言わずに僻地で魔獣の相手をしてくれる欲のない変わり者が、一転して人を集め始めたことに危機感を覚えたのではないかと見ている」
危険なのはクーデルだけじゃない?
ギリギリ、フィルミーも戦闘員かもしれないけど、え、本当にそんな理由?
「人を集めると言っても、ハメスロットは執事ですし、最近雇ったのも乳母や料理人ですよ? それを見てなにを恐怖するのか……理解に苦しみますな」
「あのヘッセリンク家がわざわざ雇い入れるくらいだからきっと尋常の者ではないという妄想に取り憑かれているのよ。吹けば飛ぶような泡沫貴族でもあるまいし、全く嘆かわしい」
当たらずとも遠からずか。
確かに妻はマジカルストライカーなんていう魔法少女的なジョブの強者だし、乳母と料理人も元暗殺者組織所属だ。
ただ、闇蛇絡みがバレたってことはないだろうから、やっかみと当てずっぽうだと思われる。
「まあ、十貴院が一枚岩であったことなど古今東西あり得なかったことでしょう。それを考えれば今回のことも珍しくはないのかもしれない。元々好かれている家ではありませんからな我が家は」
「それはもっともだが、それで済む話ではないのだ。馬鹿者どもが騒いでいるだけで儂がわざわざオーレナングまで足を運ぶとでも?」
好かれてないことは否定してほしかったです。
「続きがあるのでしょうね。なんでしょうか。まさか、我が家に戦を仕掛けようなどと考えている愚か者がいるのではないでしょうね?」
「戦を仕掛ける気概があるのならばまだいいだろう。その痴れ者は事もあろうにヘッセリンク伯家が王家への反乱を企てておるとし、十貴院を招集して糾弾する構えを見せているのだ。全く度し難い。貴族の責務をなんと心得ておるのか!」
腕力で勝てないから議論の場で晒しあげてマウントを取るつもりなのか。
あー、小学校の帰りの会を思い出すな。
先生、〇〇君が掃除をサボりました、いけないと思います!
みたいな。
ちなみに僕は晒したことも晒されたこともないぞ。
【十貴会議と呼ばれるその集まりは、国の根幹を揺るがすような事態が起きた時に招集される会議です。集まるのは十貴院の各当主。欠席の場合は白紙委任状を出したものと見做されます】
つまり欠席禁止か。
いや、元々欠席なんかするつもりないけどさ。
仕組みなんかはコマンドにちゃんと確認した上で臨まないとな。
「僕が人を集めることが国の根幹を揺るがすようなことでしょうか? おかしな話ですが、無理を通せば道理が引っ込むと言いますし、何かしら勝算があるのでしょう。とりあえず王太子殿下には一応文でお知らせしておきましょうか。なんと言っても責任の一端は殿下にありますからな」
早速責任を取ってもらう場面ですよ殿下。
会議に臨席してもらうか?
いや、そうするとまた贔屓だなんだって騒ぐ奴がいるか。
ハメスロットとジャンジャックに相談だな。
「それがよろしかろう。儂はヘッセリンク伯の味方をするが、他の家はどうするつもりやら。ああ、言い忘れたが、今回の騒ぎの中心は十貴院の七、エスパール伯爵家だ」
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