第43話 重たい
「じゃあアデルおばちゃんとビーダーのおっちゃんはオーレナングに来てくれるのか?」
昨晩、アデルとビーダーから自分達二人がオーレナングに行くから他の非戦闘員は国都の屋敷で働かせてほしいと申し出があった。
こちらに断る理由はないが、明らかに国都のほうが暮らしやすいのも事実だ。
そこで、アデルとビーダーも無理せず国都にいていいと伝えたんだけど、二人は頑なに首を縦には振らなかった。
「ああ、話し合ってそう決めたらしい。無理をすることはないと言ったのだが、自分達がオーレナングに行くことで他が心安らかに暮らせるのならとな。人質のつもりなのだろう。全く意味はないが、本人達の意思が強いので受け入れることにした」
二人がいい人なのはわかった。
だけど、おじちゃんとおばちゃんを人質にして僕にどうしろというのか。
「大丈夫だよ兄貴。アデルおばちゃんはああ見えて闇蛇の上の方にも意見するくらい肝の太いおばちゃんだし、ビーダーのおっちゃんは構成員全員の胃袋掴んでた料理上手だから。俺もいるし、早く馴染むよう頑張るからさ」
嬉しそうに笑うメアリ。
なにそのはにかんだ笑顔。
素敵すぎるだろ。
よく考えたらまだ子供なんだよなこの子も。
なのに非合法組織に攫われて、暗殺者として育てられて、狂人貴族を狙って捕まって。
波瀾万丈過ぎる。
そりゃあ子供らしさもなくなるよね。
だからこの笑顔は貴重だ。
「いつもは大人びて子供らしさなど欠片もないお前がそんな顔を見せるとはな。それだけでも彼らを探した甲斐があったというものだ。アデルにはいずれ僕の子供の世話を頼めたらと思っている。ビーダーはマハダビキアの下に付いてもらうことになるだろう」
「兄貴には感謝してる。前にも言ったけど、もし今回見つけた奴らが裏切ったら」
「やめないかメアリ。それを考えるのは僕の仕事だ。まったく……せっかく年相応の顔を見せてくれたと思ったらすぐにこれだ。それよりも解決すべき問題がお前にはあるだろう」
速やかに解決すべき懸案事項。
アデル、ビーダーはオーレナングへ。
その他非戦闘員は国都へ。
実行隊のうち四人は我が家の諜報要員として準備が整い次第国内各所へ。
諜報要員となる面々はこれまでの経験が生かせることを知って泣いて喜んでたな。
冗談で、お前らが裏切ったらアデルとビーダーがどうなるかわかってるな? って脅したら、絶対に裏切らないから二人に酷いことをしてくれるなと平伏された。
こいつらにとっても二人は父親と母親みたいな存在らしい。
ここまではすんなり話がついた。
問題はあと一人だ。
「……それこそ兄貴に任せるよ。俺にはどうしようもねえ。よっ! 名伯爵!」
「調子のいい奴め。さて、クーデルの処遇をどうするか」
「悪い奴じゃねえし、腕も確かだ。俺がヘッセリンクに捕まる前は一度も勝ったことなかったんだぜ? 昨日勝てたのは人の皮被った化け物や魔獣相手に鍛えられたからだよ。だからあいつも鍛えたらまだ伸びるはず。だけどなあ……まさかあんなんなってるとは思わねえじゃん」
こらこらジャンジャックとオドルスキの悪口はやめなさい。
確かに二人に気に入られて扱かれてたらしいからなあ。
闇蛇生まれ魔獣の庭育ちか。
戦力の充実を考えるなら連れて行くのもありなんだけど、メアリが頭を抱えるのも一理ある。
いや、僕には実害はないからいいんだけど、メアリからしたら大問題だろう。
「失礼します! ここにメアリが……ああ! また伯爵様と二人っきりに!! なにをしていたの? いけないわメアリ。その道は修羅の道よ!?」
なんなの?
黙ってれば美少女っていうカテゴリーはメアリで席埋まってるんだけど。
あと貴族のいる部屋に入るときはノックしなさい。
「うるっせえ! ほんとなんなの? あの頃の大人しい儚げな笑顔のクーデルはどこに行ったんだよ!!」
「とっくの昔に死んだわよ!」
美少女への幻想など抱かない方が幸せなんだと強く感じた。
それと同時にメアリが振り回されてる姿を見るのが楽しいのでもっとやれと思わなくもない。
いかんな。
今日中に結論を出してオーレナングに帰りたいので楽しんでる場合じゃない。
「クーデル。ちょうどいいからお前も座りなさい。これからのことについて話をしよう」
「……取り乱しました。伯爵様の御前で申し訳ありません。では失礼いたします」
空いている椅子を勧めると、なぜかメアリの座るソファに腰掛け、ぴったりとくっついた。
なんだお前ら、付き合ってるの?
先生そういうの嫌いじゃないけど今から真面目な話する気なんだけどなあ。
「まあ、いい。クーデル、昨日も簡単に伝えたが、お前には僕の考える諜報網の一翼を担ってもらいたいと思っている。国内を、時には国外まで飛び回りヘッセリンクのために情報を集める組織だ。お前にはその長を任せたい。闇蛇壊滅後もこの集団を誰一人脱落させずにまとめていたのは、アデルとお前だと聞いた。非戦闘員であるアデルにはオーレナングに来てもらう。お前には外でそのリーダーシップを発揮してもらいたい」
「……私のことを高く評価してくださっているのですね。感謝いたします。ですが、私はアデルおばちゃんやビーダーおじさんに支えられていただけです。ご期待に添えるか自信がありません。それに、これは私の我儘ですが、メアリと離れたくないんです」
「ほう。メアリ、愛されているな」
言ってから後悔しても遅いことってあるよね。
メアリの焦る顔を見て、僕自らスイッチを押してしまったことに気づいた。
「そうですね。メアリへの愛が男女のものなのかはわかりませんが、少なくとも家族としての愛があります。いえ、もちろん友愛もありますし、男としても決して嫌いでは。メアリが貴方に捕まってもう戻ってくることはないと聞いた時、干からびるんじゃないかと思うくらい泣きました。貴方を恨みもしました。必ずこの手で仇を打つと誓って生きてきました。だけど、メアリが貴方の庇護のもとで生きていると知りました。こうやって再会することもできた。もう会えないと思っていた家族が元気な姿で目の前にいる。もうあんな思いをするのは嫌です。だから私は二度とメアリと離れないと神に誓ったんです。ああ、可愛いメアリ。これからは私が守ってあげるからね? でも昨日は負けちゃったし。大丈夫、これから強くなるわ。じゃないとまた貴方が私を置いてどこかに行っちゃうもの。ダメよ? 私がずっと一緒にいてあげるから」
皆さんお分かりだろうか。
重たい。
重たいよクーデル。
終盤は蕩けそうな笑みでメアリを見つめながらゆっくり語りかけてやがる。
前世風に言うとヤンデレってやつだろうか
昨日もいかに自分がメアリを愛しているかについて語られた。
どんどん瞳孔が開いていく様は何度見てもホラーだな。
メアリ、目を逸らすんじゃない。
「それじゃあお前の意思を尊重することにしよう。クーデル、オーレナングに来い。そこで僕の妻、エイミーの従者を務めろ。できるか?」
「兄貴!?」
おいおい、その裏切り者! みたいな顔やめなさいよ。
こんなに好かれてるなんて男冥利に尽きるってものじゃないか。
メアリも超絶美人だけど、クーデルも負けず劣らずの美少女だ。
何に不満がある?
なあに、少しだけ、ほんの少しだけ愛が重たいだけじゃないか。
「奥方様の従者を、私が? 大変光栄なことですが、よろしいのでしょうか。私は直近まで伯爵様のお命を狙おうとしていたのですよ?」
「構わん。今は狙っていないのだろう? 僕の愛妻もメアリより同性の従者がいるほうがなにかと都合がいいはずだ。頼めるか?」
「……元闇蛇として怯えながら生きていかなくていいこと、他の者たちにも手厚い保護をいただけること、そしてなによりも愛するメアリとともに在れること。どこをとってもお断りする理由はございません。誠心誠意、ご奉仕させていただきたく存じます」
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