第6話 弟よ

 知らないよ。

 僕が知ってるのはガチャ引いた時のフレーバーテキストの内容だけだから。

 あれだろ?

 暗殺者組織に誘拐されて、女として育てられたってやつ。


【そのとおり。なぜ裏組織に所属していたはずのメアリが現在閣下の従者として仕えているのか】


 察するに、僕の命か家族の命かを狙って来たときに返り討ちにしたとか?

 いや、流石にそれだとベタすぎるか。

 そうだな、狂人レックスが俺よりも強い奴に会いに行く的なテンションで裏組織のアジトに乗り込んで壊滅させて、そこで見つけた可愛いメアリだけは保護してきたとか?


【ベタで申し訳ありませんが、概ね両方とも正解です。正しくは、当時ご健在だったレックス様のお父様の命を狙ってオーレナングに派遣されたメアリを、オドルスキ、ジャンジャックの両名が取り押さえました。暗殺者が貴族を狙い、逆に生け捕りにされたのです。その場で拷問のうえ処刑されるのがセオリーなのですが、ここでレックス様が待ったをかけます。単独でこの屋敷に侵入したうえ、オドルスキ達を相手にして原型を保っていることを称賛し助命を進言したのです。そのうえで自らの従者として仕官させたいと】


 メアリが狙ったのは父親で、それを止めたのはオドルスキとジャンジャックなのか。

 今のところ僕は可愛い顔の少年暗殺者を手元に置きたいとわがまま言ってる変態でしかないな。


【これには家来衆一同、考えを改められるよう具申していましたが、そこはお父上もヘッセリンクで当主を務める方。ネジの緩み具合は家来衆の予想の遥か斜め上です。ある条件を達成すればメアリの助命と仕官を許すと確約します】


 それが裏組織の壊滅かな?

 

【ご名答。単独で乗り込んで壊滅させてこいとのご命令でした。オドルスキは最後まで供をするとごねていましたが、レックス様の説得に応じて泣く泣く見送っていましたね】

 

 でも暗殺者がいるような裏組織なんだろ?

 どこが拠点かとか、誰が構成員かとかどうやって調べたんだろうな。

 メアリを拷問したんでもあるまいに。


【レックス・ヘッセリンクは変人かつ狂人ではありましたが、それならそれなりに人が付くものです。蛇の道は蛇といいますか。数少ない学生時代の友人は積極的に助力し、その係累らは、あのレックス・ヘッセリンクを相手に偽情報を掴ませることなど考えられないと、自分たちが持つ後ろ暗いコネクションをフル活用しました】


 さっきのレックス・ヘッセリンクの矛が向いたらたまらないってやつね。

 本当になにやってたんだこの男は。

 

【貴族ではない層からは絶大な人気を誇っていらっしゃいますよ? お優しいですからね閣下は。訓練をサボって炊き出しに参加したり、表に出せない他家の使途不明金をくすねて秘密裏に孤児院に寄付したり】


 狂人扱いの理由がはっきりした。

 貴族としては異端だったんだなこいつ。

 弱きを助け、強気を挫くか。


【平民に人気のある僕、かっこいい!というのが動機だったようです】


 恥ずかしいやつだよ、レックス・ヘッセリンク!

 僕じゃないけど僕だからね。

 僕の知らない知り合いに会ったときに、あ、こいつ痛い奴だって思われるんだきっと。

 

【話を戻します。学生時代の唯一無二の親友の手助けもあって早い段階で組織の本拠地とその指導者を探し当てたレックス様は、意気揚々と乗り込みます】


 親友がいることは覚えておこう、

 多分、ろくでもない奴だろうけど。


【その頃はまだ一般的な召喚士でしかないレックス様でしたが、その異常とも言える魔獣の使役数で名を馳せていらっしゃいましたので、本拠地は大小様々な魔獣で溢れかえりました。その様はまさに地獄。生きたまま簡易的な魔獣の巣に放り込まれた暗殺者達は這々の体で逃げ出し、匿われた先で閣下に狙われたことを知ります。生きた心地がしなかったことでしょう。あの、狂人レックス・ヘッセリンクが直に組織を潰しに来たのですから】


 その頃はゴリ丸やドラゾンみたいな重量級は使役してなかったのか。

 ガチャの景品の効果で昇格したからきっとその頃の召喚獣は使えないんだろうなあ。

 少し残念だけど仕方ない。

 

【上級召喚士に昇格する過程で、それまで使役していた召喚獣達を生贄として捧げることが必要になります。閣下が大魔猿とドラゴンゾンビという強大な魔獣を従えているのは、それだけ大量の召喚獣を生贄に捧げた結果です】


 えー、生贄にしちゃったの?

 もったいない、っていう話じゃないのか。

 昇格に必要だったんだから。

 もし僕に昇格の機会が巡ってきて、ゴリ丸やドラゾンを生贄にしろって言われたら絶対断るけどね。

 その辺この世界の人間はドライなのかな。


【召喚士が召喚獣に愛情を注ぐことはほぼありえませんが、そこはレックス・ヘッセリンク。この世の終わりとばかりに号泣し、昇格などするものかと神を呪い殺さんばかりの形相でした。結果的に閣下が転生されたことでなし崩し的に昇格が果たされたわけですが】

 

 それを聞くと申し訳ない気持ちになってしまう。

 僕がレックス・ヘッセリンクの人生を乗っ取った形だから。

 きっと彼は僕を恨んでいるんだろうな。

 積極的に望んだことじゃないどころか強制的に連れてこられた身としては全面的に納得する訳にはいかないけどさ。

 それでもレックス・ヘッセリンクとして愛情を注いでた召喚獣が生贄になる一因になってしまったことは申し訳ない。


【今は貴方がレックス・ヘッセリンクです、閣下。それが事実であることをお忘れなきよう】


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る