第4話 議題:お見合い

「今回訪れたのはカニルーニャ伯領の領都レッシュございます」


「カニルーニャ伯領って言ったら、確か国都の東側だったよな? ここから国都を挟んで真反対か。遠かったろ」


 ジャンジャックからの報告を聞くためにオドルスキにも同席するよう伝えたところ、マハダビキアは呼ばれていないのに飲み物と軽食を持って押し掛け、そのままソファーに腰を下ろしてしまった。

 ジャンジャックの威圧感満載の視線もどこ吹く風。

 逆にさっさと話を始めろよと煽り始める始末で、流石の老執事も諦めて説明を開始した。


「俺と爺さんだけならもうちょい早く帰ってこれたけど、ユミカがいたからな。無理はさせられねえ」

 

「ユミカさんはよく頑張ってくれました。先方との交渉も上手くまとまり、予定より3日ほど早く帰領出来たのですから上出来でしょう。さて、本題ですが、レックス様。近日中にカニルーニャ伯のご令嬢と家来衆の皆様がいらっしゃる手筈です」


 へえ。

 いや、待って。

 それはお見合い的なことなのか?

 それとも、もう結婚が決まったよってことか?

 会ったこともないのに?

 いや、もしかしたら姿絵くらい見たことあるのか?

 くそっ、前の記憶がないからわからん。

 コマンド!


【カニルーニャ伯爵家の令嬢、エイミー様との面識はありませんし、姿絵もありません。秘蔵っ子も秘蔵っ子らしく、社交界デビューすらしていない徹底ぶりです。顔に火傷跡があるとか、信じられないほどの巨漢であるとか噂が立っていますが、どれも噂の域を出ません】


 おお……。

 

【ちなみにですが。閣下自身、魔獣討伐にしか興味のないバーサーカーだと言うのが専らの評価です】


 大丈夫かそいつ。

 いや、そいつって僕自身なんだけどさ。

 よくそんなのでもジャンジャックが捌かないといけないくらい縁談の話が続々と舞い込んでくるな。

 それだけうちの家が魅力的ってことか。


【むしろ縁談の話は少ないくらいです。貴族同士の結婚に愛など存在しませんので、一定の地位に座るヘッセリンク伯家ともなれば、さらに多くの縁談が舞い込んでも可笑しくはありません。オーレナングは危険な場所ですが、基本的に奥方は王都の屋敷に留め置かれますので、安全も確保されます。にも関わらず縁談の数が減っているのは、閣下ご自身が、愛がなければ結婚などしない! と王家主催の舞踏会で持論をぶち上げたことが原因です】


 大丈夫かそれ。

 いや、僕的にはグッジョブと言いたいけど、

 大貴族の跡取りが愛を叫ぶとか変人扱いだったんだろうなあ。


【歴代のヘッセリンク伯もネジの緩み方が独特というのが王家の公式見解なので、そのくらいは特に問題ないかと】


 それ、本当に問題ないのか? 


「お館様? いかがなさいました」

 

「ん? いや、なんでもない。噂すら出回らないというのを聞いたことがあるからな。どんな方なのかと」


「メアリさん、貴方の目から見てどうでしたか?」


「あ? 俺? あー、そうだな。兄貴とは合うと思うぜ? あの姉ちゃん、兄貴やオド兄と同じ方向にネジが緩んでる。もちろんいい意味だけどな」


「なんじゃそりゃ? 若様と同じ方向って」


「わかりやすく言うと、オド兄や爺さん相手に五分くらい生きてられる感じ?」


「あーはいはい、そっち方面で緩んでるってことね」


「ほほう、それは是非お手合わせ願いたいな」


「それだけだとただのやべえ女だけどさ。ユミカが最初っからすげえ懐いてて、向こうも楽しそうに面倒見てくれてたから悪いやつではないと思うぜ」


「概ね爺めの意見も同じでございます。これまで多くの令嬢方とお会いし、そのたびにお断りしてきましたが、エイミー様は確実に当家の発展に寄与されると確信しております」


「ユミカが懐いてるなら問題ないんじゃない? 若様の式にはおじさん張り切って腕を振るっちゃうよ!」


「私はお館様のご判断を支持いたします。御心のままに」


 すごい。

 僕が口を挟む暇もないくらいみんながOKを出してくる。

 こうなった以上、僕に断る選択肢なんて元々なかったんや!

 腹決めるかー。

 

「よし、ヘッセリンク家の総力を上げてカニルーニャ伯家の方々をお迎えしよう。マハダビキア」


「なんだい若様」


「式の前にお相手の胃袋を掴んでしまおう。期待していいな?」


「承知した! へへっ、腕が鳴るぜ!」


「オドルスキ」


「はっ!」


「当面は毎日森に出て屋敷の近くにいる魔獣を片っ端から討伐してくれ。出来るだけ先方の安全を確保したい」


「お任せください。この命に替えましても、魔獣どもを屋敷に近づけさせはしません」


「メアリ」


「あいよ」


「先方が到着したらどんな細かい動きも見逃さないよう目を光らせてくれ。無いとは思うけど、良からぬことを考えてる輩がいては困るからな」


「隠密行動は俺の得意分野だからな。任せとけよ兄貴。もし、兄貴に恥かかせるようなやつがいたら誰にも気付かれずに始末してやるさ」


 そこまでは期待してない。

 穏便に穏便に。


「ジャンジャック」


「何なりと」


「カニルーニャ伯家の歓迎にかかる全権を託す。お前に全て任せるので、思う存分采配を振るってくれ」


「おお……! このジャンジャック、レックス様のご期待に必ずや応えてみせますぞ!」


 丸投げ成功。

 矢継ぎ早の指示で出来る君主を演出してみたけどなかなかいいレスポンスが返ってきて一安心だ。

 しかし、エイミーちゃんが強いっていうのは相当なプラス材料じゃない?

 戦力はあるに越したことないし。

 女性は王都に避難って言ったって、それは戦う力がないからだろう。

 もし上手くいったら交渉してみるか。


「よし、それじゃあ僕も森に出るかな」


「は?」


「マハダビキア。祝事の席にふさわしいのは何の肉かな?」


「え、ああ。そりゃあ祝いの席にとなれば竜種の肉だが」


 竜種か。

 厳つそうだなぁ。

 コマンド、僕でも勝てる竜種っているのかな?


【存在します。遭遇できるか保証しかねますが、アサルトドラゴンなどは比較的森に現れる可能性が高いかと】


 脅威度は?


【個体差もありますが、平均するとBといったところでしょうか】


 いける。

 早速午後から竜狩り、行ってみようか。



 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る