第56話 半裸の俺とヒロイン

 特訓を終えて、俺たちは帰宅しているのだが、俺たちには一つ、問題があった。


 妹の結乃だ。彼女も彼女で、苦しみと戦っている。両親を失って一番つらい思いをしたのはあいつだから。

 よっぽど俺よりは傷が深いはずだ。


 「私は、結乃に認めてもらえるだろうか?」

 「まあ、認めてもらえなくても、一緒になる方法はある。駆け落ちとかがそうだな。まあ、結乃も話し合えば分かり合えるさ。なんだかんだ、玲羅になついてたからな」

 「そうだといいのだが……」


 これからの話し合いに、玲羅は少し不安をおぼえているのか、声のトーンが少し低い。

 俺はそんな彼女を安心させるように、優しく手を包み込んだ。


 「大丈夫。どれだけ結乃が反対しても、俺は玲羅のそばを離れないから。するんだろ?結婚」

 「けっ……!?す、するに決まってるだろっ!」


 やはり、あの時は勢いがほとんどだったのだろう。今になって、あの時のことをいじると、顔を真っ赤にして肯定してくる。


 こういうのは「ばっ……ばかっ!そんなわけないでしょ!」とか言いそうな場面だが、彼女の返答は恥ずかしながらも結婚してくれるとのものだった。

 そんな返答が、俺はなによりもうれしい。あんなに冷たい態度を取ったのに、こんなにも一途に思ってくれると思うと、こう、心臓がきゅって締め付けられる感じがする。


 2人でイチャイチャしながら、家に入ると、結乃が出迎えてくれた。

 ていうか、なぜか美織がいた。


 「ほら、結乃、謝りなさい」

 「お兄ちゃん、玲羅先輩、ごめんなさい……」

 「どういう状況?」


 話を聞くと、結乃は美織にこってり絞られたらしい。

 内容としては、今の俺に興味はない。私の幸せは私で掴む。結乃の感情ひとつで、恋仲を輪kれさせるなとのことだ。


 なんだろう、話し合う前にすべてが解決していた。


 だが、美織はそれだけでは足りないと、俺にさらに説教をかます用に言ってきた。だが、そう言われても、結乃はだいぶ反省してるみたいだし……


 「結乃」

 「……はい」

 「美織にだいぶ怒られたみたいだし、聞いた話だと、俺を守ろうとしてくれたんだよな?」

 「……お兄ちゃんを失いたくない」

 「そう思う気持ちは俺も同じだ。でも、その感情を、俺は玲羅にも抱いてる。美織はいい女だし、多分相手の男は幸せになれると思う。家にさえ関わらなければ。でもな、兄ちゃんは玲羅じゃないとだめなんだ」


 そう言うと、後ろから「翔一……」と、感動の混じった声が聞こえた。


 だが、俺の言葉は甘かったのか、それとも結乃としても思うところがあるのか、彼女は激昂した。


 「でもっ!玲羅先輩はお兄ちゃんを殺しかけたんだよっ!」

 「それは教えてなかった俺たちに責任がある。ある意味、俺の自業自得だ」

 「……っ、この人はお兄ちゃんのことなにもわかってない!お兄ちゃんは優しく見えて、卑屈屋で、皮肉屋。人の悪口が大好きなんだよ!」

 「おい、状況わかって、喧嘩売ってんのか?」

 「でも……でもっ、大きくて、昔から私を守ってくれて!将来はお兄ちゃんと結婚する、なんて夢持ったくらい、大好きなお兄ちゃんなの……」

 「結乃……」

 「だから、一瞬でも傷つけた……発作を起こさせた玲羅先輩が許せなかった!」

 「結乃!」


 俺はとっさに、結乃を抱きしめた。

 安心させるように、抱きしめながら優しく頭を撫でる。


 結乃は、抱かれながらも俺の胸の中で泣いている。結乃の泣いてる姿なんて、ここ最近見てなかったな。


 「結乃、そんなに思ってくれてありがとな。でも、俺たちは家族だ。俺が結婚しても、お前だけは大事な妹だ。離れたりなんてしない。家族を一人になんてしない。お前が結婚するまでは、俺が面倒みるって決めてんだよ」 

 「お兄ちゃんよりいい男なんていないよ……」

 「うれしいことを……でもな、もう少しほかの男子と交流を持て。運命の王子様が逃げちまうぞ?」

 「……キモッ」

 「おい、喧嘩売ってんのか?」


 だが、結乃の言葉とは裏腹に、抱きしめる力が強くなっている。やっぱり、まだ兄離れは出来ないか……


 そうして、結乃を抱きしめていると後ろから話し声が聞こえてくる。


 「やっぱり、翔一は天性の女たらしね。身内すらも、惚れさせちゃうんだから」

 「う、浮気しないくれよ……」

 「はい、そこの2人。余計なことは言わない。ここはけがれ泣き家族愛の空間だ。邪魔はよしてもらおうか」


 その後、ひとしきり泣いた結乃は、玲羅に頭を下げた。


 「ごめんなさい」

 「いいさ。私にとって、結乃はこれから義妹になるんだ。仲良くしたいと思っている」

 「お兄ちゃん!?」

 「あはは……結婚の約束しちゃった」

 「ああ、だから結乃は私の妹でもある。よかったな、家族がもう一人増えて」

 「い、嫌だよ!家族にこんな巨乳美人がいるなんて!私のキャラがなくなっちゃう!」

 「大丈夫だ!結乃は、ブラコン妹の枠がある!」

 「シスコン兄貴はだまってて!」

 「えぇ……」


 その後、美織の家にあった荷物をすべて移動させて、この騒動は幕を閉じたのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 その日の夜、俺と玲羅は一緒に寝ることになって、同じベッドで寝ている。


 2人で並んで寝ていると、玲羅が話しかけてきた。


 「翔一……」

 「なんだ?おやすみのキスでもするか?」

 「それはしてもらいたいが……」


 と、言いつつ、玲羅は起き上がった。それに対応するように、俺も起き上がり、向かい合う。

 なにか、とても悩んでいるように見える。


 「そ、その……あっちを向いていてくれ」

 「……?別にいいけど」


 玲羅に言われて、俺は玲羅とは反対の方向を向く。すると、後ろの方から衣擦れの音が聞こえてきた。


 ―――え?脱いでる?


 そう思っていると、先ほどとは違い、ものすごく震えた声で玲羅が頼み込んできた。


 「絶対にこっちを向かないでくれよ……」

 「あ、ああ、わかってる」

 「あんまり動かないでくれよ……」

 「う、うん……」


 そう返事をすると、玲羅は俺の背中に抱き着いてきた。だが、それだけではなかった。


 俺の予感は的中していたらしく、今、玲羅は服を着ていない。つまり、上半身の服を脱いだ状態で、俺に抱き着いている。なので、その、玲羅の柔らかいものが押し当てられているので……


 「翔一……こういうことから慣らしていこう」

 「れ、玲羅……?」

 「私もこういうことになれたいからな……いざ本番になって、私が恥ずかしくてできないとか目も当てられないから……」

 「い、いや、だからってこれは……」


 そう言いながらテンパっていると、玲羅は俺の上の服を脱がせてきた。俺も、なされるがまま上半身裸になり、直に玲羅の肌を感じることができるようになった。しかし、器用に脱がせたなあ……


 と、感心していると、違和感に気付いた。


 ―――ん?肌を直に?


 「れ、玲羅さん?下着は……?」

 「なに言ってるんだ?脱いだぞ」

 「ちょっと待って、何もかもがおかしい」

 「は、恥ずかしいから、あんまり言うな」

 「え、てことは……」


 玲羅は下着をつけていない……

 つまり、玲羅の肌が直接、俺の肌に触れている。


 「え?ナマ乳?」

 「ちょ、待って!絶対にこっちを向かないでくれ!」


 そう言うと玲羅は、急いで服を着始めた。

 しばらくして、服を着終えた玲羅が、玲羅の方を向いていい、と言ってくれたので、俺は玲羅の方を向いた。


 振り返ると、顔を真っ赤にした玲羅が、胸を隠すように、手で覆っていた。


 「恥ずかしいならするなよ」

 「お、お前がな、なま……とか言うからだろ!」

 「なま……なんだって?」

 「おま……わかって言ってるだろ!」

 「だって玲羅の口から、『ナマ乳』言ってほしいんだもん」

 「ば、ばか……えっち……」


 そう言って、顔を真っ赤にしながら俺の胸に顔をうずめてきた。

 なんだかんだ、俺の胸に飛び込んでくるのは、本当に可愛い。


 「翔一……キスしてくれ」

 「はいはい」

 「んぅ……」


 その後、俺たちはお互いの唇をむさぼりあった後、抱き合いながら就寝した。

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