第57話 ほっぺに米粒、そしてキス

 練習試合の前日、希静の選手は相手が教護ということもあって、朝からミーティングをしている。

 だが、金剛が助っ人で入るからか、身のないものだ。


 この場にいるべきはずの金剛は現在いない。彼は、自分の力に過信と言えるほど、強大な自信を持っている。故に、話し合いなど不要。俺がいれば必ず勝つというスタンスなのだ。


 だが、翔一はというと―――


 「名に甘ったれたこと言っちゃってんの?その程度で勝てるなら、俺は野球なんかやってねえよ」


 と、言っていた。だが、その当人はいない。彼は彼で、自分はその場にいるべきじゃないと言っていた。


 だが、それに対して、一色は不満を漏らしていた。


 「なによあいつ、お高くとまっちゃって」

 「楓、しょうがないよ。うちが弱いのは事実だから」

 「だからって、ミーティングに来ないのは違うでしょ」

 「まあまあ」


 2人は、翔一にミーティングに参加すように言ったのだが、「意味なくね?」と言って、参加を拒否した。

 まあ、実際、ここまでくれば話し合いも中々意味をなさないし、金剛に頼らないと勝てないとか言うチームとなれ合うつもりがない。


 2人がぶーたれている間に、ミーティングは終了したが、双葉は部長に呼ばれた。


 「双葉、ちょっといいか?」

 「はい?別にいいですけど……」

 「その……椎名ってやつはどこに……?」


 そう言って、キョロキョロ見渡す部長兼キャプテン。だが、当然ではあるが翔一の姿を見つけることは出来ない。


 「椎名は来てません」

 「そうか……じゃあ、これを渡しておいてくれ」


 部長が双葉に渡したのは、希静のユニフォームだ。これがなければ試合に出ることは不能だ。

 それを受け取った双葉は、その後も軽く部長と話して、自分の教室に向かった。


 その後、部員がいなくなった後の部室で、部長はひとり呟いた。


 「まさか、全中優勝のエースがうちの学校にいたなんてな……」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 その日の昼休み


 俺たちはいつもの場所で、弁当を食べていた。


 「んー!おいしい!」

 「だろ?俺が作ったんだからな!」

 「本当にそこらの店なんか目じゃないな!」

 「そこまでじゃないでしょ」

 「なんでそこだけ謙虚なんだ?」


 俺たちは、弁当の中身であるだし巻き卵を食べて、「おいしいおいしい」と言い合っていた。

 少しばかり、こんなような風景がなかったから、少し―――というか、ものすごく楽しい。


 そうして、食事を楽しんでいると、俺は玲羅の頬に米粒がついてるのを見つけた。


 「玲羅、ほっぺたに米粒ついてる」

 「え?本当か!?」

 「ああ、取ってあげる」

 「あ、ああ……」


 立場こそ逆だが、テンプレみたいな流れだ。それを玲羅は理解しているのか、少し頬を前にして、俺がやりやすい体勢になってくれた。ちょっと、赤くなってるな。


 差し出された頬に、俺はキスを落として米粒を取った。唇が振れた時、ぷにぷにの頬に触れて、ものすごく興奮した。

 俺は、我慢できずに、玲羅の唇を奪ってしまった。


 「んぅ!?……くちゅ……」


 お互い、くちゅくちゅと瑞っぽい音を立てながら、むさぼりあう。本当に脳がとろけてしまいそうだ。

 長いことをキスをして、「ぷはぁ……」とか言いながら、足りなくなった酸素を体に取り込むために、一旦放した。


 「まったく……唇にも米粒がついてたのか?」

 「いや、食べてほしそうな可愛い女の子が目の前にいたから」

 「か、かわっ!?……コホン、まったく翔一はスケベなんだから……」

 「玲羅は、それを受け入れちゃう変態さんかな?」

 「わ、私は変態じゃないぞ!」

 「えー」

 「なんだ、その声は!私は翔一にならなにをされてもいいと思っているだけだ」

 「それって、ドMってこと?」

 「あー、もう!」


 顔を真っ赤にした玲羅は、プイと向こうを向いてしまったが、こちらをちらちらとみてきている。

 これは、なんだかんだかまってほしいアピールか?


 そろそろ食べ終わったし、ある程度動いても大丈夫かな?


 そう考え、俺は玲羅の状態を抱きながら、こちらに寄せ、今度は逃げられないように頭をホールドしてキスをした。

 最初こそは、俺の胸を押して抵抗はしていたが、すぐに受け入れの体勢に変わり、俺以上に舌をねじ込んできた。


 ちろちろと口腔内で動く舌は、俺の唾液をどんどんからめとっていく。舌を入れている玲羅は終始「んく……じゅるる」とかすごい音を立てながら、舐ってきた。


 最近は、俺からキスをするものの、主導権を奪われている気がする。


 長い時間、舐られた後、玲羅が俺の膝に寝ころんできた。


 「やっぱり、翔一の膝は寝心地がいい……」

 「そうか?」

 「程よく筋肉があって、でも痛みにならないくらいのちょうどいい硬さだ」

 「ふーん……」


 俺は、玲羅の言葉を聞きながらも、彼女の髪を撫でてあげる。

 すると、玲羅はのどを鳴らしながら、気持ちよさそうにしている。


 「それに、翔一がなでなでしてくれるから……頬も撫でてくれ……」

 「はいよ」


 リクエストに応えて、さわさわと頬も撫でてあげる。ぷにぷにと肉感のいい玲羅のほっぺは、一生触っていたい。


 「このほっぺは一生触ってても飽きる気しないな……」

 「さすがに、人前では勘弁してくれよ……」

 「ふふ、どうしよっかなー」

 「ほ、本当に、やめてくれよ……?」

 「ふふ、わかってるよ」

 「本当にわかってるだろうな?」


 なにを言っているんだ。玲羅の嫌なことはしないぞ?一生、一緒にるって決めてるんだから、愛に反することはしないよ。


 そんな風にいちゃいちゃしていると、見知った2人がやってきた。


 「あ、やっと見つけた」

 「今は俺たちだけの時間だ。邪魔しないでくれ」

 「そうは言っても……とりあえず、ユニフォーム」

 「じゃあ、置いといてくれ」

 「あんたねえ、なんでミーティング来ないわけ!」

 「静かにしてくれ。俺は、大事な彼女を愛でているんだ」


 双葉の幼馴染がキレ散らかしているが、関係ない。俺は、玲羅を愛で続けること以外に、今は興味ない。

 お互いの求めていることをしあって、愛を確かめ合う。大事なことだ。


 「んふふ……しょういち……」

 「あ、あの天羽さんが、こんなに甘えて……」

 「楓もあれくらい甘えてくれればなー」

 「う、うっさい!私たちにはまだ早いわよ!」


 試合は明日。はあ……あんまり、野球にいい思い出ないんだけどな……

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