第55話 お姫様抱っこ

 それから、俺が特訓に向かうまでの間、玲羅に体をまさぐられていたのだが、俺はそれを受け入れ続けた。

 さすがに胸板をペロペロされるのは驚いたがな。


 むしろ、ここまでやって最後をしようとしない玲羅は、本当に俺のことを考えてくれているのだな……


 俺が、あの日の夜どうなったのかは、玲羅に全部聞いた。まさか、発作的にそう言うことになっているとは思わなかった。

 それに、結乃も結乃だ。


 まあ、家族を守りたいという気持ちが先行したんだろうが、行動はあまりいただけないな。


 説教―――とまではいわないが、妹とは話し合いをする必要があるな。


 「むふふ……しょういち……」

 「はは、玲羅は可愛いな」


 色々考えはするが、今は俺の腕にしがみついて、頭をごりごりやってくるこの愛おしい人の頭を撫でることだけ考えよう。


 「ごめんな、翔一……なにも言わずに、他の男子なんかと仲良くして……」

 「気にしてないよ。玲羅だって、俺に女友達いても、文句言わないでしょ?」

 「む……私は、翔一に嫉妬してほしかったぞ」

 「めんどくせえ……」

 「嫌か?」

 「んにゃ、そんなことはない。愛らしくて、一生愛でていたい」

 「もっと、撫でてくれ……」


 こうして、2人だけの空間を作っているのだが、時刻は6時半。そろそろ行かないと、あの2人が待ちぼうけを食らう羽目になる。


 俺は、立ち上がって玲羅をお姫様抱っこしてみた。


 「ひゃわ!?」

 「やっぱり軽いな」

 「そ、そりゃ、翔一みたいな力持ちが持ったら……」

 「顔赤いぞ?どうしたんだ?」

 「わかってるくせに……」

 「ふふ……可愛いなぁ。―――それはそうと、そろそろ行かないと」

 「どこにだ?」

 「グラウンド」

 「わかった」


 そう言って、玲羅は俺からいったん離れてから腕に絡みついてきた。

 ついてくる気満々ですね。


 「ついてくるのはいいけど、あんまり邪魔はしないでくれよ?」

 「わかってる。違うときに、イチャイチャしてくれればいいさ」

 「可愛いやつめ」


 俺は、玲羅の頭を優しく撫でてキスをする。

 優しくて、軽めのキスを落として、俺たちはグラウンドに向かっていった。


 2人の幼馴染コンビが待っているところに到着すると、なにやら監督らしき人物が、口論をしているのが見えた。


 「だから、練習で使わせてください!まだまだ足りないんです!」

 「お前の気持ちはわかる!だが、俺じゃどうしようもないんだ!」

 「だからって、なにもするなって……それは違うでしょ!」


 なんだなんだ。

 なにやら、この時間に練習することでもめているようだった。


 「双葉、どうした?」

 「ああ、椎名!監督がどうせ試合に出れないから、練習の意味がないから帰れって……」

 「だから、俺じゃ―――ん?椎名!?」


 俺の名前を聞いた監督は、勢いよく俺の方を向いた。

 やべ、この人、俺のこと知ってるかも……


 監督は、俺の顔を見て、少し考えた後、双葉の肩をたたいて言った。


 「いい指導者を持ったじゃないか。俺も監督として、途中出場でもお前をねじ込めるようにするから」

 「監督……」


 双葉にどうにかしてみると言った監督は、俺の方に向き直ると、俺に頭を下げた。


 「お願いだ。双葉の出場のために、キャプテンと話し合いをしたい。だから、君の名前を使わせてくれ。双葉を出すタイミングで君にも出てもらいたい。お願いだ。私も、あんな男の力を借りたくはない」

 「……いいっすよ。野球が嫌いってわけじゃないから……」

 「ありがとう!いつか、この恩は返すよ!」


 そう言って、監督は職員室に去っていった。


 今の光景に、双葉と一色は驚いていた。


 「なによ、椎名、あんた何者よ」

 「なんでもいいだろ?」

 「ああ、そんなのはどうでもいいよ。楓のために試合に出るんだ。それ以外のことなんか考える必要はない」

 「そうだ。それでいい。余計なことを考えず、自分が強くなるための目的と手段だけ頭にあればいい」


 そこから、俺たちの練習は始まった。


 まずは、双葉が俺の球を受け続ける。

 ストレートは俺の全力の球威でも落とさなくなってきたので、そろそろ大丈夫だ。変化球の方も、投げ込み続ければ、変なはじき方などせずに、しっかりと捕球できるようになってきた。


 依然、肩が弱く、フィールディングはまだ甘いが、俺がピッチャーとして出るのならなんの問題もない。

 ランナーなんか出さなければいいことだ。そこいら有象無象程度なら、簡単に抑えられる自信がある。


 「はあはあ……」

 「どうした?もう根を上げるのか?」

 「まだだ!お願いします!」


 精神を鍛えるのは継続的にやること。

 ちと、荒療治ではあるが、俺はプロテクターを付けた双葉に、全力とまではいかないが、そこそこの威力の球を投げつけていた。


 こうすれば、ある程度痛みに慣れて、ボールに対する恐怖心も薄れていく。だが、野球マシーンを作りたいわけじゃないので、ほどほどには済ませているが。


 練習試合まであとわずかもない。後は、こいつの体がもつかどうかの勝負だ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 一色楓は、イライラしていた。

 自分の大事な幼馴染が、誰とも知れない男に痛めつけられているからだ。


 「めちゃくちゃよ、あんな練習」

 「そんなことないさ」

 「あんたに椎名のなにがわかるわけ?」

 「どんな人物かは知っている。だから、手加減しているのはわかる」

 「は?あれで手加減しているわけ?」


 一色には信じられなかった。あんなキツイメニューが手加減されている?

 ふざけているのかと思った。だが、双葉が目に見えて、うまくなっているのはわかっていた。だてに、双葉の近くで野球をする姿を見ていたわけではない。


 だが、だからこそ、練習メニューが常軌を逸していることもわかる。

 それに、先ほどの監督の態度も気になるみたいだ。


 「監督も監督よ。なんで、あんな男を引き合いに出さないと、雄二を試合に出せないのかしら」

 「色々あるのさ。あと―――」

 「……?」

 「私の恋人を貶すな。お前からしたら嫌な奴でも、私からしたらこの世で一番愛おしい人なんだ」

 「なによ。私だって、雄二が大事だから言ってるのよ」


 そうしているうちに、翔一たちの特訓も終わり、待つのは明日の練習試合直前のミーティングを待つだけとなった。


 果たして、双葉は試合に出ることは可能なのだろうか。




 あとがき

 余計かもしれませんが、こちらも見てくださるとうれしいです。

 私立高校の探偵事務所ホーラゴン

 https://kakuyomu.jp/works/16817139555788269791


 こちらは世界観をそこそこ考えていますが、9割遊びみたいな作品です。もしかしたら、合わないかもしれませんが、よろしくお願いします。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る