第38話 告白は……
『卒業生入場!』
うちの中学校の副校長がそういうのを合図に、俺たち卒業生とそのクラスの担任たちが体育館に入場する。
保護者と在校生の間をとっていく生徒たち。中には部活の先輩後輩の関係か、手を振りあってるものたちもいる。
だが、そんな生徒たちの中でもひときわ目立つ存在がいた。
中ハーの主人公、豊西直樹だ。あいつは特別にイケメンだ。今まで数々の女を年下年上関係なく惚れさせてきた。その証拠に、現在後輩たちから黄色い声を一身に受けている。
その様子を少し睨むように見ている八重野というヒロインが見えたが、ぶっちゃけどうでもいい。
かくいう俺も体育館に入場し始める。
3年の夏休み明けくらいから転入したもんだから、俺はあまり後輩たちに知られていない。
だが、妹である結乃がこちらに手を振ってきた。
俺はそれにこたえるように、手を振り返した。
すると、なぜか結乃の周囲にいた女子が頬を染めた。
「ねえ、あの人カッコよくない?」
「ていうか、あんな人3年にいたっけ?」
「うーん……あ、転校生じゃない?ほら、夏休み明けくらいに来た」
「あー、あんなにイケメンだったんだ」
なに言ってるかは聞こえないが、どうせろくなことじゃない。俺は玲羅以外の女子なんか興味はない。
入場が終わって席に着席してからが長かった。俺のクラスの後ろにはそこそこの数が控えている。一クラス30人くらいだからなおさらかかる。
きょろきょろと周りを見渡していると、前の方に座っている玲羅を見つけた。彼女もこちらもちらちら見ているのがわかる。
俺は玲羅に向かってウインクすると、玲羅はクスッと笑って前を向いた。
それから卒業式はなんのトラブルもなく進められ、体育館退場まで終わった。
教室に戻ったクラスのメンバーの大半は、別れを惜しんで泣いていた。
ほとんどの奴らが同じ高校行くのに……
この学校の生徒は基本的に近くの帝聖高校に行く。故に、俺たちみたいな希星高校に行くような人間は、学年の4割程度だ。
まあ、帝聖で大学入学のための偏差値は十分にあるからな。
希星は必要以上に高い。それが、みんなが行かない理由だ。玲羅ならついてこれるはずだ。
みんなが騒がしくする中、担任のお涙頂戴の話が始まる。だが、俺はこの先生とも関係が薄すぎて、特に何も響かない。みんなは号泣してるのに……
お話が終わると、先生はクラスの集合写真を撮ると言って、みんなを並べさせる。
「おい、椎名。こっち来いよ」
「ああ、わかった」
「なんかお前だけ冷めてない?」
「いや、お前たちと違って、この学年と俺、関係薄いから」
「ああ、そうか転校生だもんなお前」
「はい撮るぞ!コラ、蔵敷!なにをしゃべってるんだ!カメラに集中するんだ!」
そうして、俺たちは集合写真を撮った。
その後、蔵敷は奏にさらわれていった。
ああ、告白するのか……見に行こう。あいつは、絶対に断るからな。どうにかいいところに落としどころをつけてやらないと
俺が2人の後をついていって、たどり着いたのは、本校舎の裏手。誰も来ないような場所だ。
「そ、その……く、蔵敷君!」
「お、おお……なんだ……」
「す、好きです!付き合ってください!」
そう言って、手を差し出す奏。おそらく、OKの場合は手を取ってくれということだろう。だが、蔵敷の顔色は芳しくない。
「わ、悪い。その気持ちはうれしいけど……それが本当なのか―――」
「いいんじゃないの、信じて」
「し、椎名!?」
俺はいてもたってもいられなくて、その場から飛び出した。
2人とも驚いた様子だ。
「し、椎名君……」
「悪いな奏。お前が好きだって言った時、どんな女子が告白しても、多分こいつは断るって言ってなくて」
「どういうこと?」
「それは蔵敷の信用できる人間になれたら教えてやる。そんなことよりも蔵敷」
「な、なんだよ」
「お前が信用できない理由はわかる。だけどな、そいつはあの時のクソ女とは違う。純粋にお前のことが好きだぞ」
「だけどな……」
俺の言葉にも渋る蔵敷。まあ、こうなるのも理解はできる。だが、俺はお前の将来が心配だ。
「だからまず、友人以上恋人未満っていう関係になってみれば?」
「翔一……」
「あと、俺とお前はそこまで対等な関係じゃない。気安く名前を呼ぶんじゃねーよ」
「おまえ、本当に嫌な奴だな」
「なんだ?あの時に知ったんじゃなかったのか?」
「確かに闇討ちだったけどさあ」
俺たちの会話に奏がついてこれていない。
だから俺は、奏にするべきこと。それを伝える。
「奏、お前は告白をいったん保留にして、他の友人より近い存在になれた。だから、これからは蔵敷をどれだけ落とせるかの勝負だ」
「てことは……高校に入ってから全力で惚れさせろってこと?」
「そうだ。覚悟しとけよ、蔵敷。恋に落ちた人間はなにしでかすかわかんねーぞ」
「……それなら、わかった。奏さんの好意に向き合えるように頑張ってみる」
「あと、奏、NG行動が一つだけある」
「なに?」
「蔵敷以外の男子と極力2人きりになるなよ」
「わかった」
こうして、奏の告白は中々見ない形に落ち着いた。だが、それもいいのかもな
奏は、いきなり蔵敷を落とすためにスキンシップをとか言いながら、蔵敷にべたべたし始めたので、俺はその場を後にした。
教室に戻ると、教室内をなにかを探すように見渡している存在がいた。
玲羅だ。
「よ、玲羅、どうした?」
「あ、翔一!そ、その……屋上に行かないか?」
「屋上?いいけど」
言われるがまま、俺たちは屋上に向かっていった。
屋上に出ると、風が吹いていて、舞い散る桜の花びらが玲羅の周りを流れるように落ちていた。
「翔一、ここに座ってくれ」
「ん?わかった」
指定された場所に俺は胡坐で座る。あんまり人が出入りしないとはいえ、ほぼ毎日清掃員が入っている屋上は、中々きれいだ。
そうして座った俺の足の上に、玲羅が頭を乗せるように寝ころんだ。
「え!?」
「これは……思ったよりいいな……」
「どうした!?」
「漫画で見たからやってみたかったんだ……」
「なぜに今?」
「翔一、私のこと好きか?」
「そりゃ、もう」
「私も好きだ」
まずい、玲羅の言いたいことが全然わからない。どうしようか……
俺が困っていると、玲羅がさらに言葉を紡ぐ。
「やっぱり、するよりされるほうが好きだ。翔一に尽くされて、本当に幸せな気分になってる」
「まあ、俺もされるよりしてあげたいからな」
「本当は私も翔一に尽くしたい気持ちはあるが、翔一が完璧すぎてすることがないんだ……」
「それは……悪かった」
「ううん、そういうところも愛おしい。もう、私は翔一にメロメロだ」
なんだろう、言っているだけならいいのだが、目を細めながら気持ちよさそうに言われると、俺のセキュリティガードを超えてくる。
ここに来て、俺の心が溶かされそうだ。
そう思っていると、玲羅は体を起こし、不意打ちでキスをしてくる。
今回は、俺の同意を得られていないのにもかかわらず、俺の歯を押し開けて舌をねじ込んできた。なんだろう、少しずつ玲羅のテクが上がってきている気がする。
たっぷり30秒、舐られた後、上気した表情のまま玲羅は言う。
「好き……」
あとがき
@Gundamloverさん、レビューコメントありがとございます。
最高の作品のひとつだなんて、喜び通り越して恥ずかしいですね。これからも物語にお付き合いください
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