第37話 ベッドの中で

 玲羅の家に行った日の夜。その日は特に何もなかった。いや、普段と違うことがなかっただけで、いつも通りご飯を食べて、いつも通りに勉強して、いつも通りにキスをした。


 本当に、玲羅のいる生活というものが当たり前になってきた。最初こそはいくらかの遠慮があった玲羅だが、最近は気兼ねなく生活してくれている。いや、好き勝手やっているわけではなく、ちゃんと礼儀はわきまえてる。


 まあ、慣れたといっても、俺と結乃になにも言わずにテレビをつけられるようになったとか、そんな些細なことだ。俺たちは前々から見たいものがあるのなら勝手につけても構わないと言ってるしな。


 色々あるが、結局のところ、俺は幸せだ。前の世界では漫画のキャラを愛おしく感じるなんて変態だと言われるが、この世界ではそうではない。一人の女の子を好きになっただけだ。ただ恋バナに発展するだけでなに一つ問題がない。


 今の俺の役目は、玲羅を幸せで幸せで仕方なくて、なにを考えてもいても笑顔になってしまう。そのくらいまで俺がしてやるんだ。


 コンコンコン


 俺がこれからのことを考えていると、ドアがノックされた。


 「開いてるよー」

 「し、失礼します……」

 「どうしたんだ?玲羅」

 「そ、その……今日は―――」


 そう言葉を紡ぎながら胸元に抱きしめている枕を強く握る。

 その様子を見て、俺はなんとなく察した。だから、少しベッドのスペースを空ける。


 「―――一緒に寝ないか?」

 「いいよ。ほら、おいで」

 「い、いいのか?」

 「俺は玲羅のやりたいことなら否定しない。やりたいと思ったら言ってくれ。俺の力でできることならどうにかするから」

 「し、翔一は、私と寝たいか?」

 「当たり前じゃん。好きな女の子を抱いて寝る。憧れでしょ」

 「えっち……」

 「ん!?……あ、いや、『抱く』ってそういう意味じゃねえ!」


 俺が焦って釈明すると、玲羅はなにが面白かったのか、笑い始めた。

 ひとしきり笑った後、玲羅はベッドの俺の隣のスペースに入ってきた。


 「わかってるさ。いつもからかわれてるから、仕返しだ」

 「なにそれ可愛すぎでしょ」

 「か、かわ……!?―――ばか……」


 玲羅よ、その言い方は可愛いを加速させるだけだ。

 ちょっとだけ不機嫌になったのか、口先をとがらせる彼女の頭を優しく撫でる。


 すると気持ちよかったのか、目を閉じて「もっともっと」と主張してくるかのように、俺に抱き着いてきた。

 俺もそのハグに答えるように、左手を玲羅の背中に回した。


 この姿勢なら、玲羅の呼吸も匂いも体も直で感じられる。もう、俺と玲羅の心はゼロ距離だ。愛し合うもの通しの距離感だ。


 「翔一、私は幸せだ」

 「知ってる」

 「なあ、なんで私を好きになってくれたんだ?」

 「一目惚れ」

 「ふぇ!?」

 「クールなところが好きとかたまに見せる可愛い姿が好きとか内面のことは後から知った。俺が最初に好きになったのは、その凛々しいいで立ちだ」

 「凛々しい?」


 玲羅、君は自覚がないのかもしれない。さすがに中学生が凛々しいを自覚して歩いているのはモノ申したくはなるが……

 君の凛々しさは天然だ。だが、見ていると時折見せるポンコツもデレもすべてが愛らしい。


 「ま、天然なとこは愛らしく見える」

 「な!?わ、私は天然なんかじゃ……」

 「まあまあ、可愛いからいいじゃない」

 「釈然としない……」


 そう言ってムスッとする玲羅。

 俺はそんな可愛らしい顔にキスをした。


 「な!?」

 「そんな理屈なんかどうでもいいんだよ。今は玲羅の全部が好き。愛してる。それでいいじゃない?」

 「そ、そうだな……。私だって、翔一が好きだ。その気持ちに偽りはない!」

 「はは、あったら俺が女性不信ルートまっしぐらなだけだ」

 「そんなことはさせない!」


 冗談を言うと、玲羅は強い否定の言葉とともに俺のことを強めに抱きしめてきた。そのまま胸に顔までもうずめてきた。

 少しだけ顔をこすりつけるように動いているから、くすぐったい。


 「翔一、言ったよな。私は愛が重い。だから、一度愛した男を私は簡単にあきらめない」

 「ふ……上等だ。なら俺の愛も証明してやる!どっちが根を上げるか勝負するか?」

 「やめてくれ……私がボロボロに負ける未来が見える」

 「なに言ってるのさ。なにも考えられないくらいに優しくしてあげるだけだよ」

 「えっち……」

 「えー、俺は抱きしめて頭を撫でてキスするだけだよ。玲羅はなにを想像したのかなー?」

 「べ、別になにも想像してない!というか、十分えっちだ!違うならスケベだ!翔一のスケベ!」

 「玲羅のへんたーい」

 「く、くぅぅぅ!」


 玲羅は、悔しくて地団太を踏みそうになるほど顔を真っ赤にして足をばたつかせる。

 実際、玲羅は変態さんだと思うんです。普段からそういうことには関心を寄せていない風を装って、興味があるのはしている。別にそれは悪いことじゃない。むしろ、そういうものを簡単に俺に向けてこないのはすごい評価ポイントだ。


 「翔一……ん」

 「うん?ああ―――」


 キス待ちか。現在、玲羅は俺の方に少しだけ唇を突き出して目を瞑っている。こんな清楚そうなキス待ちのくせに、玲羅が求めているのは―――


 「ん……くちゅ……んん……」

 「れろ……むぅ……」


 ―――舌と舌を絡め合わせる激しくて濃密なものだ。

 かくいう俺も、最近はこんなキスばっかりしてるものだから、ただのキスじゃもの足りなくなってしまっている。


 お互い、気のすむまでむさぼった後は、静かに抱き締め合って、掛け布団をなおした。

 もう、これ以上は玲羅のお肌に悪い。


 「玲羅、もう寝よう」

 「ああ、そうだな」

 「玲羅……」

 「ん?」

 「愛してる」

 「私も愛してるぞ、翔一」


 こうして愛を囁き合った俺たちは、もう一度盛り上がってしまい、キスをしてしまった。その後は、まだまだ体が疲れているのか、割と簡単に寝ることができた。


 俺が寝るのを待ってから、玲羅も就寝した。


 そして、玲羅は思った。


 (完璧でカッコよくて、強い。この世のありとあらゆる私の好きなものを詰め込んだような男だ。まるで、本の世界から私を迎えに来てくれた王子様みたいだ)


 そうして玲羅も、あながち間違えとは言えない試案をしながら、玲羅の胸の中で眠るのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る