第16話 あったかい翔一の手
玲羅に悪口を言う女子を追い払った後、俺たちは俺のクラスである3組のまとまりに入っていった。
しかし、玲羅にとっては知らない人も多いわけでアウェイ感をどうしても感じてしまう。だが、そこで2年か、1年でクラスが一緒だったであろう人たちが話しかけてくる。
「あれ?天羽さん一人?なら、私たちと組もうよ!」
「い、いや私は椎名と……」
「あ、そうか、椎名君と一緒の班になるのね。しかも2人きりで」
「な!?そ、それは……」
ちなみに、俺と玲羅の関係は、うちのクラス限定だがほぼバレている。俺が一切好意を隠すようなことはしていないし、玲羅もそれに対してまんざらでもなさそうな態度をとっている。
唯一、みんなが勘違いしているのは、俺たちが付き合ってると思っていることだ。
だから、クラスの人たちは俺と玲羅が2人きりになるものだと思っているのだろう。
正直、俺もそうしたい。
だが、玲羅は顔を俯かせて、俺の制服の袖をつまんで言う。
「は、恥ずかしい……」
「……はぁ、わかった。―――誰か、一緒の班になってくれるやつはいないか?」
「えぇ……天羽さんと椎名君は一緒の班にならないんだ」
俺が、ほかのメンバーの募集をすると、クラスメイト達は見るからに残念そうな声を上げる。だが、玲羅と同じ班になるのにそこまで忌避感はないのか、すぐに班員は集まった。
しかしだ。なぜか集まった班員は、こぞって女子。男子が一人もいない。どうなっている?
まあ、玲羅が引き寄せているんだろうけど
現に、彼女の周りにはたくさんの女子が集まって質問攻めにしている。
「天羽さん、椎名君とはどこまでいったの?」
「それは……」
「わあ、赤くなってる!可愛いー!」
「ねえ、キスはしたの!キス!」
「……っ!?」
「「「きゃー!」」」
……どうも、ああいう女子のきゃぴきゃぴした雰囲気にはついていけない。まあ、楽しそうだから見ていて悪い気分にはならないのだが。
そう思いながら、玲羅たちを見ていると、声をかけられる。
「あ、あの……修学旅行はよろしく」
「……ん?ああ、よろしく八重さん」
「う、うん……」
話しかけてきたのは、
しかし、性格に反し、いつも一緒にいる友人は明るい人たちばかり。一度、無理して一緒にいるのではないかと思ったが、彼女の笑顔に噓偽りはなかった。
そもそも、俺が友人関係に口出す出来るような立場にはいないんだけどね。
その後も、班や部屋割りも決まっていき、俺の入るホテルの部屋も決まった。
なんと、豊西のいる部屋だ。まあ、それだけではなく矢草や蔵敷と同じなのだが、運命とは面白いものだな。
まあ、俺も絶対的に敵視をしているわけではない。
逆に、あいつが玲羅を振らなければ、俺は彼女と一緒に過ごすことができなかった。
むしろ、感謝しているほうだ。変な女を取ってくれて、てな。俺からしたら、玲羅は理想の女性像をしているといってもいい。
あんなに可愛くて愛らしい彼女を振るなんて、頭のネジが飛んでいるに決まっている。
俺が玲羅をグチャグチャになるまで―――
は!?俺はいったいなにを?
とにかく、修学旅行で気を付けることは豊西に強く干渉しないことだ。
奴は腐ってもラブコメの主人公だ。こんな一大イベントを恋人と過ごさずに終わるだなんてありえない。おそらく、八重野と2人きりで回るだろう。
今気づいたが、この学校に八重野と八重がいるのか?珍しいな
それからは先生たちが注意事項を述べて、しおりを配り、学年集会は終了した。修学旅行は来週から二泊三日だ。この修学旅行で、玲羅となにか進展があったら嬉しいな。
そんなこんなで俺は無事に玲羅と同じ班になり、彼女とともに帰路についていた。
玲羅は、少しもじもじしながら俺に質問してくる。
「そ、そういえば……私たち付き合ってると思われてるのか?」
「ん?まあ、考えてみればそりゃそうだろとしか言えないな」
「な、なぜだ」
「まず、毎日一緒に弁当食ってるし」
「うっ……」
「なんなら毎日中身同じだし」
「うっ……」
「毎日一緒に帰ってるし」
「うっ……」
「とどめに、玲羅が教室に来る時の表情をなんていわれてるか知ってるか?」
「な、なんて呼ばれてるんだ?」
「恋する乙女の表情だってさ。なんか、女子の中にもその表情に惚れた人がいるらしい」
「ぐはっ!?」
玲羅自身、思い当たる節があったり、許容できないくらいに恥ずかしい事実もあったのだろう。玲羅の心にグサグサ刺さっているのが目に見える。
俺は、恥ずかしさで狼狽える玲羅の一歩ほど前を歩いているのだが、わずかにだが後ろに引っ張られる感触がある。
まあ、配置的に玲羅だろう。
そう思った通り、玲羅は俺の裾をつまんでおり耳を真っ赤にしている。
「ど、どんなに惚れられても……私はっ!私はお前しか見ていないっ!」
「!?」
「お前はお前らしくしてくれ……私を救ってくれたお前のままで……」
「ふっ、俺が俺じゃないやつになるわけじゃない。大丈夫、もし玲羅が違う人を見るようになっても、首の向き変えてでも俺を見てもらうさ」
「~~~っ!?」
玲羅の恥ずかしすぎるセリフに、俺は照れ隠しでイカれたセリフを吐きながら、ポンと頭に手をやると、玲羅は静かに顔を手で覆った。
手で覆われたから表情は見えないが、耳は真っ赤に染まっている。だが、俺も耳くらいは真っ赤に染まっているはずだ。なんせ、俺も恥ずかしかったからな。
「ははっ、玲羅は可愛いな」
「あ、あまり可愛いとか慣れたように言わないでくれっ!……言われ慣れてないんだ……」
「可愛すぎでしょ……」
「~~~っ!?……私のなにが可愛いんだ!」
「え、全部」
「即答するな!……は、恥ずかしい」
それから俺たちは無言になってしまったのだが、2人の手は固く固く握られていた。
「翔一、もっと強く握ってくれ」
「え?いいの?」
「もっとお前を感じたい」
「じ、じゃあ……」
「あったかい……」
「~~~っ!?」
帰宅してから、結乃に「夫婦かよ!?結婚しろよ!」とか茶化されて、玲羅の恥ずかしさメーターがMAXに振り切って、自室に駆けこむのだが、それはまた別のお話。というか、こんな可愛い玲羅の顔をおいそれと誰にでも話したくないわ。
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