第15話 班決めでボッチのヒロイン
バタンッ
「玲羅ー、朝だぞー」
「む……もう朝か……」
眠そうな目をこすりながら頭を起こす玲羅。よほど変な姿勢で寝ていたのか、変な寝癖が立っている。
思わず吹いてしまいそうだ。
「翔一……」
「あ、そうだったな……ちょっと待って」
「ん……ちゅ……」
最近は玲羅を起こすとき、というより朝の習慣になりつつあるが、起きたらまずキス。それが最近必ずやっていることだ。ちなみに言い出したのは玲羅だ。なんだか起き抜けにされるとものすごく安心するらしい。
すごいだろ?これで付き合ってないんだぜ俺たち。
「おはよう翔一。じゃあ、着替えるから」
「わかった。下で待ってるから」
キスをして完全に意識が覚醒した玲羅は、頬を赤らめながら俺が出ていくように言う。
まあ、着替えるのだし当然だ。
玲羅の部屋を出て、下のリビングの席に座った俺は、結乃とともに玲羅が朝食の席に着くのを待つ。
今日の朝食は、俺が作ったウインナー、サラダ、パン……ほぼ出来合いのものだ。俺が作ったというには少し違うか?
いや、これは世の主婦を敵に回してしまいそうだ。
「またキスしたの?」
「ん?まあそうだな」
「本当にラブラブだね。さっさと突き合えばいいのに」
「付き合うだよな?なんかお前のニュアンス違くない?」
「いいよ、どのみち同じだし」
2人でそんな会話をしていると、2階から玲羅が下りてきた。
これから学校なので玲羅は制服を身にまとっている。
「待たせてすまない。相変わらず、朝には弱くて……」
「別にいいよ。遅刻しそうな時間に起きていてるわけじゃないし」
「そうそう。私たちが早いのは朝ごはんとか作るからだよ。玲羅先輩はゆっくり寝てて」
「本当に申し訳ない。居候の分際でこんなになにもしないのは……なにかできることはないか?」
その言葉に俺と結乃は顔を見合わせる。
そんなこと言われてもなあ……
全部、俺たちで事足りるしな
「「ないな(ね)」」
「えぇ……」
「第一、玲羅が来る前は俺と結乃で全部やってたんだ」
「私も苦になるようなことはなかったし、今更誰かに任せようって言っても……」
「そ、そうか……だが、私もなにか……」
「あ、じゃあこれはどう?」
なにかを思いついた結乃は、玲羅に近寄り耳打ちをする。
結乃の耳打ちを聞いた玲羅は、一瞬にして顔を赤くしてしまった。なにを言ったんだ?
その疑問は、特に引っ張ることもなくすぐにわかった。
「な、な、な……で、できるわけないだろ!メイド服着て翔一を誘惑なんて!」
「ぶふっ!?―――結乃!」
「えー、お兄ちゃんもしたいでしょ?」
「あのなあ、俺が年中盛ってるところなんてあったか?」
「え?枯れてるの?」
「説教タイムの……始まりだ」
俺は、結乃の襟をつかんで誰の部屋でもない一室に連れていき、みっちり絞ってやった。
ただ、そんなことをしているから、時刻が遅刻ギリギリになってしまった。
全員で走ってなんとかHR開始時間に間に合い、3人は別れた。
朝、俺が教室に入ると数日前までは勉強しているものばかりだったのに、今日の朝は誰一人として勉強していない。いや、まあちらほらいるのだがノーカンでいいだろう。
その後、HRを終えた三年生は体育館に集められた。
この場にいる全員がなぜ集められたかは、もう理解している。
そんな期待を裏切らない言葉が、今前にいる体育教師から聞けるだろう。
「みんなも知っている通り、この場にいる全員の受験が一昨日終了した。この学校、最後の思い出作りの場、修学旅行がこれからある。だが、問題を起こせば合格取り消しという事態にもなりうる。あまり羽目を外しすぎないように!」
体育教師が全員に問題を起こさないように釘を刺した後、班決めのための自由時間が与えられる。
今決めるのは行動班及び自由時間の班だ。
開始の合図とともに、みんな仲のいい人たちと固まり始める。まあ、どうせ班が別れようと途中で仲のいい人たちで落ち合えばいいので、10人くらいで集まっても問題はない。
俺はというと、玲羅を探している。だが、人が多すぎて中々見つけられない。
うちの学年は30人くらいのクラスが6つの学年180人だ。探すのはかなり難しいだろう。
と、思っていたのだが案外すぐに見つかった。
みんな、仲のいい人たちで固まっているというのに、ただ一人だけ浮いている存在。その悲壮に満ちた顔を見れば一発で分かる。
俺は人の集まりをかき分けて、玲羅の腕をつかむ。
一瞬、びっくりした玲羅だったが、俺の顔を見たら安心したように頬が緩み切った。
「翔一……」
「ほら、こっちにこい。一緒に班になろう」
そう言って、玲羅の手を取って、俺の元居た位置に戻ろうとすると、知らない女子たちから声をかけられる。
「ちょっとあんた」
「……?俺か?」
「そんな女を班に入れたら修学旅行が最悪になっちゃうわよ」
「それは俺の勝手だろ?お前になんか関係あんのかよ」
話しかけてきたのは、玲羅のクラスの女子か?妙に玲羅を敵視しているようだった。
これがただの正義感か私怨かは知らん。だが、玲羅を貶すのなら俺も黙ってはいられない。
「天羽、あんたもわかってんだろ?お前は他人に暴力を振るうようなクズなんだよ。お前は豊西に媚び売ってたから言われなかっただけで、お前みたいなビッチ嫌いなんだよ!」
「おい、いい加減にしろよ。言っていいことと悪いことの見分けもつかねえのか?クソビッチ
―――おっと、不覚にも口が悪くなってしまった」
そう言って俺は不気味に口角を釣り上げてにやける。相手の女子からしたら、この上なく気持ち悪い男に見えてるだろう。
だが、それでも相手は止まらない。
「転校生もそいつのこと知ってんだろ?」
「なにを?」
「暴力事件のことだよ!知らねえわけねえだろ!」
「知らねえなあ。起こってねえことは、さすがの俺も知らねえな」
「は?なに言ってやがる?事実、そいつは事件の処分を食らってるだろうが!」
「だとしても、俺は天羽がやっていないのを知っている」
「なんだこいつ……」
相手は、俺の予期していない回答に困惑している。
困惑で動きが止まっている女子に俺は肩を置いて、耳打ちする。
「てめえがなにを考えていようと知ったことじゃねえ。だが、他人を貶すのはほどほどにしておけ。もし、俺の近くの人間にその悪意を向けたら―――
―――殺す」
「っ……!?」
俺の全力の脅しに身震いさえた女子は、おびえた目のままトイレに駆け込んでいった。
ちびったな?
「翔一……」
「悪い。少し感情的になりすぎた。いや、好きな人を貶されたんだ。怒ってもいいか」
「す、好き……」
また、頬を緩ませて、恥ずかし笑顔になる玲羅だった。
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