第14話 酔いしれのキスと夜明けの明
「ねえねえ、ちゅーして?」
食事の最中、玲羅が誤ってレモンサワーを飲んでしまった。
父親の遺伝なのかはわからないが、一杯で顔が真っ赤になるものか?
―――というよりも
「ちゅーしてー。ねえ無視しないでよお」
「れ、玲羅?酔っぱらってるよな?」
「えへへー、酔っぱらってなんかないよお」
「これは酔っぱらっちゃってるわねえ」
「どうしましょう、早苗さん」
「うーん、とりあえずちゅーしてあげたら?」
「ええ!?」
「翔一……んー」
玲羅の性格が全然違う!
甘え上戸にも程ってもんがあるだろ。
―――めっちゃ可愛いけど!
正直、玲羅とキス。めっちゃしたい。
でも、玲羅は恋人じゃない。そういうところ、彼女は純情なのだ。好きな人と恋人になって初めてを迎える。おそらく、彼女の理想の形だ。だというのに、彼女のファーストキスをもらっていいのだろうか?
酔いが醒めた後に彼女が、今からの出来事をおぼえているとしたら?彼女はどう思うだろうか?
おそらく、悶絶するだけかもしれない。でも、半分意識のない中で自分の初めてがなくなっていたら?
なんて思うだろうか……
「迷ってるわね?」
「いや、良識があるならしませんよ」
「そう?私は襲われたわよ、善利さんに」
「は?」
俺が玲羅にキスするか迷っていると、早苗さんが突然のカミングアウトをしてきた。
襲われた?ってことはレイプ?
「大学の頃にね、好きな人がいたの。でもその人に振られちゃって。その時に相談に乗ってもらったのが善利さん。でも、善利さんは失恋で弱ってる私を襲ったのよ。なんの迷いもなく」
「善利さんって、結構グレーなことするんですね」
「そうねえ、私も驚いたけど不思議と嫌な気はしなかったわ。その関係もずるずると続いて、大学を卒業するくらいの時に、玲羅を身籠ったのよ。驚いたわよねえ、あんな激しいプレイをしてたのに」
「そんな情報はいらない」
「だからね、私の血を引いてる玲羅は、多分だけど襲われるくらいが性癖に刺さると思うわ」
「……」
正直、玲羅がM体質なのは心当たりがないわけではない。玲羅はいつもからかわれると顔を赤面させるが、まんざらでもない反応を見せるし、いつもの発言から依存体質も見受けられる。
Mなのが悪いとも思わないし、むしろいいのだが、初キスをしていい理由でもない。
しかし、彼女が素直になれず、こういう時にしてくれないと不安になると思ったら―――そう思うとしなければいけないように思える。
「しょういちー、うへへー」
こうして俺の胸に顔をうずめる玲羅は、見ることが難しいと思う。こう素直になってる時にこそ、俺が一歩踏みだしてあげるものではないのか?
「どうするの?翔一君」
「します。―――玲羅の初キスを奪います」
「よっ、男前!」
「うるさいよ!」
俺は、胸に顔をうずめながら遊んでいる玲羅の顔を頬を持って無理やり持ち上げる。トロンととろけている玲羅の顔がまた可愛い。
「しょういちー?」
「行くよ、玲羅……」
「あははー、しょういちのかおちかーい」
俺は真っ赤になっている玲羅の頬に右手を添え、後頭部を支えるように左手を添える。
左手はがっちりと固めることで、玲羅が急に後ろに仰け反っても簡単には逃げられないようにする。
そのまま、顔を近づけてキスをしようとして―――
『お待たせしました。18番テーブルにお品物おとどけです』
「……」
―――配膳ロボがうちのテーブルに肉を運んできた。この空気の中、肉を頼んだ大馬鹿は一人しかいない。
「はむはむ……お兄ちゃん、そこの肉取って」
「おまえなあ……」
「ぶー、しないのお?」
「ごめんな玲羅。俺の覚悟が鈍っちったよ」
「じゃあ……えいっ」
瞬間、俺の唇に柔らかい感触を感じる。すぐに理解できた。玲羅が俺の唇を奪ったのだ。
「えへへしょういちとキスしちゃった」
「~~~!」
恥ずかしい。玲羅の両親の前でするのも恥ずかしいが、なにより俺の油断したところでいきなりされたのが本当に恥ずかしい。
「ふふーん、しょういちと……キ……ス……」
「あれ、玲羅?」
「すぅ……」
「寝ちゃったわねえ。2人とも初々しいわねえ。私も善利さんを襲おうかしら?」
「いや、やめといたほうが……」
「そう?男の人ってそういうことしたいんでしょう?」
「極論すぎますよ。世の中、一緒にいるだけで幸せを感じられる人は多いですから」
なんだろう。この人は少しだけずれているのかもしれない。まあ、2人が幸せならそれでいい気がするけども。
「お兄ちゃん、肉食べないなら私が食べるよ?」
「なんでお前は普段通りに肉を食えるんだ?」
「え?食べないの?じゃあ私がもらっちゃうね、ラッキー」
「あ、食うなバカ」
俺は変わらず肉を食べている結乃から肉を奪って食べる。
今の出来事はできるだけ大切な思い出として、しまっておこう。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
翌日
コンコンコン
「玲羅―、朝だぞー」
昨日は、あんなことがあったが、そんなのは関係なしに学校だ。
昨日の時点で俺たちは高校が決まったので、あとは悠々自適に学校生活を過ごすことができる。
そんなことを考えながら玲羅の部屋に入って起こしに行く。
だが、俺が入る前に玲羅はすでに起床していた。
「もう起きてんじゃん。朝ごはんできてるから早く降りてきてくれ」
「~~~っ!?」
俺が話しかけると、玲羅は顔を真っ赤にして布団の中に勢いよく隠れてしまった。
挙動不審すぎるが、なんとなく原因はわかる。
「もしかして昨日の記憶があるのか?」
「うぅ……なんて恥ずかしいことを……」
「別に恥ずかしがることじゃないよ。俺も、あんなにストレートな好意を向けられたら、恥ずかしいけど嬉しいから」
「そういうことじゃ……うぅ、なんであんなことを……」
こりゃ、立ち直るのが難しそうだな……
それもそうだ。普段はあんな甘えた態度はとらないからこそ、元の状態に戻ったら悶絶ものだ。
時間を置くしかないな。
「じゃあ、先に下に降りてるから、早く着替えて降りてこい」
「ま、待ってくれ!」
「……?」
先に下に降りようとすると、俺のことを玲羅が引き留める。
どうしたのだろうか?
「どうした?」
「そ、その……き、キスしてくれないか?」
その言葉に、俺は度肝を抜かれた。
まさか、玲羅からキスをしてほしいと言われるなんて
「そ、その、あの時の私は正気じゃなかったんだ。だから……ちゃんとしたいんだ!」
「そ、そうか……そういうことなら……」
俺は意を決して玲羅と向かい合うように座る。
そっと玲羅の頬を包み込むように添える。すると、玲羅は俺にすべてを委ねるように目を閉じた。
優しく引き寄せるように玲羅の顔を近づけ、俺自身も少しずつ近づける。
「ん……」
唇通しが触れた瞬間、玲羅の吐息が漏れる。それがなんとも官能的で、色々クるものがあったがなんとか耐えた。
朝のキスは唇が触れ合うだけ。本当に優しいキスだ。
だが、朝に垂れていた玲羅の涎がものすごく甘かった。
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