第12話 結局のところ翔一も玲羅も頭がいい

 希静高校の受験から一週間

 今日は希静高校の合否発表の日だ。


 「ついに今日だな……」

 「ああ、合格してるといいな」

 「してるさ。あんなに勉強したのだからな」

 「そうだな」


 発表を数時間前に控え、俺たちは朝食を食べているのだが、どうしても空気が重かった。


 それもそのはずだ。2人とも結果に絶対的な自信があるといっても、不安なものは不安なのだ。翔一は、玲羅が合格できたのかどうか心配だし、玲羅は翔一がここにきて変なミスをしていないか心配なのだ。


 そんな空気に耐えかねたのか、結乃が話題を振り始める。


 「そ、そういえば受験が終わったら、うちの中学は卒業修学旅行だね」

 「あ、そういえばそうだったな」

 「そんなのあったな……。なんて時期にやってるんだ。と、思ったが、今となってはこの時期にやってくれることは感謝しかないな」

 「そうだな。し、翔一と一緒の班になれるし……」

 「さすがに同じ部屋にはなれないけどな」


 そう、俺たちの通う中学は大阪京都の修学旅行は、中学2年などというありきたりなタイミングではいかない。

 うちの中学はなぜか、受験の終わりから卒業式までの間の2泊3日の間に行われる。

 最後の思い出作りという名目でだ。


 班編成は、思い出作りの名目通りに、クラスの枠に縛られない。だから、行動班だけなら別クラスだが、俺と玲羅は一緒の班になれる。

 3日間、俺は玲羅とともに旅行ができるのだ。


 一班の人数の上限は、5人までだが、2人以上であれば班は成立する。つまり、2人きりの修学旅行を過ごすことができるのだ。

 この、2人きり編成は毎年数組存在しているらしく、どれもカップル同士のものらしい。


 ここで、俺が玲羅と2人きりの班になれれば、実質恋人になれたといっても過言ではない。


 「まあ、それもこれも合格しないと本気で楽しめないけどな」

 「なんでそういうこと言うの?お兄ちゃん」

 「そ、そうだぞ。せっかく、楽し気な雰囲気になりかけていたんだぞ!」

 「いや、玲羅が落ちるわけないじゃん。だって、俺がつきっきりで教えたんだぞ?俺なんかは火を見るよりも明らかだしな」

 「翔一……」

 「よし、時間だ。さっさと準備して合否の発表を見に行くぞ」

 「ああ」


 これからのことよりも、まずは今の現状を見つめる必要がある。

 もし玲羅が落ちていたら、俺も合格を蹴って公立の一般を受ける。それでいいや


 そんな心持で俺は、希静高校へと向かっていった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 「やった!合格してる!」

 「お母さん、番号あった!」


 高校につくと、すでに掲示板は張り出されていたのか近くに来ただけでその騒がしさを感じることができた。


 俺たちも結果を確認するために会場内に入っていく。


 「翔一の番号は?」

 「俺か?俺のは72番だ」

 「3桁くらいあるみたいだから072だね。オ〇ニーだ」

 「おい」


 結乃、お前はなんて緊張感がないんだ。まあ、俺の結果を心配していない証拠なんだろうけどさ……


 俺たちは、変な空気になったものの、玲羅の番号の確認に行く。


 「玲羅、番号は?」

 「146番だ」

 「146か……」

 「なにも連想できないや」

 「連想ゲームじゃねえよ」

 「あ、あった」


 俺と結乃が漫才じみたことをやっていると、あっさりと玲羅が自身の番号を見つけ出した。

 合格していたのだ。


 「あったのか?」

 「ああ、翔一のがあった」

 「俺のかい!」

 「あ、146あったよ!」

 「「本当(か)!?」」


 なんと、玲羅が見つけたのは俺の番号で、玲羅の番号は結乃が見つけ出した。

 というか、2人とも合格していた。


 「や、や、や……」

 「「や?」」

 「やったぞ!翔一!やった!やった!」

 「どわあ!?れ、玲羅!?」


 俺と玲羅の番号を見つけて興奮した玲羅は、おもわず俺に抱き着いてくる。満面の笑みで喜びを表す様に俺は、心奪われてしまい言葉を失ってしまう。


 よく見ると、少しだけだが目じりに涙が浮かんでいる。それほど合格できるか不安だったのだろうか?

 でも、2人とも合格出来ていて本当に良かった。


 「お兄ちゃん、玲羅先輩、場所考えて」

 「「あ」」


 2人で抱き合っていると、結乃がジト目で周りを見るように言ってきた。

 忘れていた。ここ、入学予定の学校じゃん


 その後、我に返って噴火するんじゃないかってくらい顔を赤らめた玲羅をなだめながら入学手続きを済ませて、ひとまず玲羅を自宅に帰らせて報告するように言った。

 俺と一緒に親に報告したいとは言っていたが、家族だけの時間も大切にしてほしいというと、こんど俺のことをちゃんと紹介したいと言ってくれた。


 これはほぼ告白では?と、思ったが俺はなにも言わなかった。玲羅は不器用だから、もしかしたら何か違う意味があったのかもしれない。だから、俺は玲羅の口から『付き合おう』の言葉がない限りは恋人になれないと思っている。

 それでも、一緒にいれる時間は幸せでいいけどな。


 そんなことを考えながら帰路についていると、俺のスマホがバイブで通知を知らせてくる。

 通知の正体は、チャットアプリだ。


 誰から来てるのかと思えば、先ほど別れたばかりの玲羅だった。


 内容を見ると

 『今日の夜、私の家族と晩御飯を食べに行かないか?』

 『結乃も連れてきてほしい』

 『父さんと喧嘩しないでくれよ』


 と、送られてきていた。

 玲羅の家族と食事?行く!絶対行く!秒で行く!


 「結乃、走るぞ!」

 「へ?」

 「さっさと着替えて、玲羅の家にダッシュだ」

 「は!?え!?ち、ちょっと待って!」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ピンポーン


 『翔一君?ちょっと待っててねー』


 インターホンを押すと、ゆったりとした声が聞こえてきたしばらくすると、玲羅のお母さんの天羽早苗さんだ。


 相変わらず優しげな雰囲気があるな。


 「そちらは……?もしかして翔一君の妹さん?ていうか大丈夫?」

 「ぜぇ……ぜぇ……大丈夫……ではないですけど……大丈夫です……

 椎名翔一の妹の……椎名結乃です……兄がいつもお世話になってます……」

 「本当に大丈夫かしら?とりあえず、うちに上がって休んで」

 「「お邪魔します」」


 早苗さんに促されるまま俺たちは、玲羅宅のリビングへとはいる。


 「いらっしゃい翔一、結乃」

 「ああ……って、ええ!?」

 「玲羅先輩、その恰好……」


 家の中にいて、出かける準備を終えていたのか、制服から私服に着替えていた玲羅。しかし、その服装は普段では―――というか原作ですら見たことがない格好だった。


 上の服はセーターといつもの感じなのだが、問題は下の方で、今日はミニスカートを履いていた。


 「に、似合うだろうか?」

 「超似合ってる。ていうか、玲羅に似合わない服なんてないよ」

 「お兄ちゃんの言う通りだ。先輩のプロポーションで似合わない格好とかないよ。最悪、ほとんど見えてるような紐でもきれいに見えると思う」

 「結乃、それは玲羅の体が美しいということだ。あれはもはや芸術の領域だ」

 「ふ、2人とも……ほめてくれるのはうれしいが、2人のほめ方はなにかが違う……」


 そう言って、照れる玲羅はものすごく可愛い。やっぱり、ヒロインの表情はどんな顔でも破壊力があるな。

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