第13話 合格祝いと翔一への感謝をかねて

 「それじゃあ、みんなで車に乗ってねー」


 俺たちはあの後、早苗さんに促されて天羽家の車に乗ろうとしている。


 天羽家の車は運転席と助手席に一人ずつ、後部座席に詰め込んで3人乗れるものだ。

 だが、ほとんど体格が出来上がっている子供たちが乗ろうとすると、少し狭く感じてしまう。


 「あら?少し狭いかしら?」

 「そうですね。ちょっと3人はきついかもしれないですね」

 「そうねえ……玲羅、翔一君の膝の上に座りなさい」

 「なあ!?」


 車に入れないわけではないが、その狭さに俺たちが困っている中で、早苗さんが出した解決案は玲羅を赤面させるには十分だった。


 案を聞いた玲羅は、一瞬にして顔を真っ赤にして俯く。恥ずかしすぎて反論すらできないようだ。

 というわけなので、俺が代わりに言う。


 「さすがに、体格が体格なんで危ないですよ」

 「そうかしら?でも、翔一君も玲羅が膝の上にいたら昂るでしょ?」

 「俺、そんなに盛ってませんよ?それに、玲羅の安全のほうが大事です」

 「そう?なら仕方ないわね」

 「早苗、その男の言う通りだ。さすがに危なすぎる」


 そう発言した人は、玲羅の父である天羽善利あもうよしとしだ。なんだろうか、この人から俺と同じ匂いがする。

 物理的じゃなく、雰囲気でもない。でも、なにか仲間のようなにおいがする……


 見た目は厳しそうな人だ。ただ、早苗さん曰く、ただの過保護なだけなのだそうだ。

 なんでも、帰ってきて玲羅がいないとき、豊西(中ハーの主人公)の家にいると思い、殴り込みに行こうとしていたらしい。


 確かに、原作でも過保護お父さんは出てきてはいたが、俺的には愛されていていいなあと思ったのだが……


 結局、玲羅が俺の膝の上に乗るという案は却下され、結乃、玲羅、俺の3人がぎゅうぎゅうになりながらも乗車した。

 その際に、玲羅と俺の方同士がふれあい、顔を真っ赤にしていたのだが乗車中はずっとそうだったので、わざわざ触れる必要はない。


 「翔一君、なにか食べたいものはある?」

 「え?そういうのは玲羅に聞いたほうが……」

 「いいのよ。今日は合格祝いも兼ねているけど、とにかく翔一君にお礼をしたいのよ。玲羅に勉強を言教えてくれてありがとう、ってね」

 「そうですか……」

 「だから、今食べたいものを言ってちょうだい。どこにでも連れて行ってあげるわ」

 「じゃあ―――」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ジュ――――


 俺が出したリクエストは焼き肉。今食べたいものであるのは確かだが、一番の理由は……


 「はふはふ、お兄ちゃん食べないの?なら私がもらうよ」

 「こら、結乃。それは翔一の肉だ」

 「結乃、もう少しゆっくり食えよ」


 結乃がいるからだ。こいつは、食べ放題とかにしないと収拾がつかないレベルに食うので、焼き肉の食べ放題にしてもらったのだ。

 実は、玲羅の両親は単品メニューの値段高めの店に行こうとしたのだが、必死で俺が食べ放題チェーンにしてくれと頼んだ。


 「こ、これは高いところに行かなくて正解だったな……」

 「そうねえ、育ち盛りなのね」

 「本当にすいません、うちの妹が……」

 「いいのよ翔一君、あなたも食べなさい」


 そう言いながら、早苗さんは俺に肉を渡す。その早苗さんは、うっすらだが頬が赤くなっている。

 このメンバーの中で、早苗さんは唯一飲酒をしているのだ。


 善利さんは、ドライバーなので飲酒はしていない。というより、あまり酒に強くないらしいのだ。


 そんなことを考えながら、食事を楽しんでいると結乃がタッチパネルを操作しながら質問をしてくる。


 「みんな、なにか飲み物とか頼む?一気にしちゃうけど」

 「じゃあ俺はジンジャエール」

 「私はレモンスカッシュを」

 「じゃあ私は……レモンサワーを頼もうかしらあ」

 「私は飲み物が残っているからいいかな」

 「わかった。ジンジャエールにレモンスカッシュにレモンサワーね」


 そう言って注文を終えた結乃は、タッチパネルを置くと、すぐに食べる作業に戻った。


 ずっと食べ続けている結乃を俺たちはいったん放置し、話題は最近の話になっていった。


 「玲羅はこれからどうするの?」

 「む?なんだ母さん。急に真面目なトーンになって」

 「翔一君の家にこれからも住むの?」

 「それは……」


 早苗さんに質問されて言いよどむ玲羅。この話題に善利さんはどう思っているのかと思い、そっちのほうに目をやると、善利さんは目を閉じ、静かに話を聞いていた。


 ひとまず流れを見るということか?


 「どうしたいの?」

 「私は……翔一と一緒にいたい。私に惚れてくれていることにつけこんでいるように見えるかもしれないが、私はまだあの家にいたい」

 「そう、ならそれでいいわ。くれぐれも翔一君に迷惑をかけないように」

 「ありがとう、母さん」


 なんか、特に問題もなくOKされた。信用されているととってもいいのだろうか?まあ、なんでもいい。まだ玲羅と一つ屋根の下で過ごすことができる。


 「それにしても、もう少しで孫の顔が見れそうかしら?」

 「ぶっ!?」


 突如、早苗さんが爆弾を投下した。その投下された爆弾により、玲羅は思いっきりむせてしまう。


 「な、なにを言うんだ母さん!」

 「なにって、あなたたちもうラブラブじゃない。結婚するつもりなんでしょ?」

 「そ、そういうのじゃない!」

 「そういうのじゃないんだ……」

 「え!?翔一、なんで落ち込んでるんだ!い、いやあり得ないわけじゃないんだ!今はという話なんだ!」


 結乃が無言で肉を食べ続ける中、その隣の空間はとてもカオスなことになっていった。

 それよりも、善利さんが一切反応をしない。原作くらいの過保護ならもうブチギレてもおかしくないくらいの状況のはずだ。


 そう思い、善利さんを見ると―――


 ―――待って、気絶してるんですけど……。大丈夫なの?


 『18番テーブルにお品物のおとどけです。品物を取りましたらトレー下部のボタンを押してください』


 そんなカオスな状況の中、配膳ロボが先ほど頼んだ飲み物を運んできた。

 とりあえず、俺がそれぞれの前に運んだ。


 隣にいた玲羅は俺からグラスを奪うようにし、一気に飲み干す。ゴクゴクとのどを鳴らしながら飲み干す様は豪快の一言に尽きる。


 レモンスカッシュを一気に飲み干した玲羅は、ドン!と机にグラスを置いて俯く。

 ……?どうしたんだろうか?


 玲羅の様子がおかしい。


 そう思っている中、早苗さんが異変に気付いた。


 「あらあ?この飲み物、お酒じゃないわよお」

 「へ?」

 「これ、レモンスカッシュじゃない?」


 え?てことは……


 俺は嫌な予感がして、玲羅の方に視線を向ける。

 すると、いつの間にか顔を上げた玲羅と目が合う。だが、その目はいつもと違ってトロンとしており、顔も先ほど早苗さんにからかわれた時よりも真っ赤だった。


 「うへへー……翔一だあ……ねー」

 「玲羅?」

 「ねえねえ、ちゅーして?」


 やべえ、玲羅が酒飲んじった!

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